「まさかあのカップルが真犯人だと考えてるわけじゃないよね、葵里子?ハッ、あんなバカっぽい連中が?どう見たってあいつら、エンゼルフィッシュを解剖する脳みそすら持ち合わせてないぜ」
(カップルってものは第3者から見たら押しなべてバカっぽく見えるのよ、知らないの?現にあんた達だって──)
だが、写真家もここは自重した。口に出してはこう言った。
「OK.あんたたちの言う通りよ。この3日間、プレローズ屋敷の周辺に怪しい人物が出没した気配は皆無だわよ」
サミュエルがきっぱりと言い切った。
「俺とクレイは、明日、警察に出頭するからな」
クレイが続けて、
「もうこれ以上は素人には限界だよ。まあ、あんたの案もそれなりに悪くはなかったと思うけど」
「ねえ・・・…」
切実な声。クレイとサミュエルはハッとして姿勢を正した。
では、愈々この尊大な芸術家から、ここ数十日間引っ張り回したことについて、真摯な謝罪の言葉が聞けるのだろうか?
「ねえ?この貝、なんて言うの?こんな美味しいクラムチャウダー食べたの初めて!」
葵里子はスープ皿をスプーンでつつきながら、
「ほら、NYで注文するとチャウダーって真っ赤じゃない?トマト味よね。でも、こっちのこのクリーム仕立て絶品だわ!」
「そりゃあもう、当店のは伝統的なニューイングランドスタイルですから!」
いつの間にかオーナーのジョバンニ・ラルデッリがニコニコ笑って立っていた。
3人は吃驚して硬直する。とりわけクレイは真っ青になった。続けて何か言おうとしたラルデッリから洋梨とクランベリーのタルトを引っ手繰ると、
「こ、ここはいいからさ、ラルデッリさん。どうぞ他のお客さんのサービスをしてやってよ。俺達はその、今、ちょっと込み入った──大切な話をしてる最中だから」
「大切な話……そうでしょうとも!」
ラルデッリは訳知り顔でウィンクすると去って行った。
オーナーが完全にいなくなったのを見届けてからクレイは改めて葵里子に確認した。
「じゃ、そういうことでいいんだな?」
「カホーグ貝」
葵里子の肩に手を置いたのはさっきまで隅のテーブルに独りで座っていた老人で──よく見ると老人と言うほどでもなく──もっとよく見ると、それは先日洞窟で会ったあの男、
「リンクィスト教授?」