右足を膝の上に持ち上げて覗き込む。既に足の裏から刺青は消えていた。
暫く3人とも黙り込んだまま座っていた。
「俺、おもったんだけど──」
「ねえ、私、思い当たったんだけど──」
クレイと葵里子が同時に口を開いた。
「言ってみろよ」
「あなたからどうぞ」
焦れてサミュエルが促す。
「どっちが先でもいいよ。何?」
「ねえ?これって重大なメッセージじゃないかしら?」
いつになく神妙な面持ちで葵里子は言うのだ。
「自分の息子、しかもまだ赤ん坊の肌に細工してるわけでしょ?あなたのママが激怒するのも無理ないわ。誰が見たってかなり異常な行為よ。それを、ほんの?思いつき?とか?遊び心?でやるとは思えない」
クレイも強く頷いた。
「俺も同じ意見だ。この上は、おまえのその刺青をもっと詳しく調べてみた方がいいかも……」
早速、葵里子は2階のクレイの寝室の隣り、物置代わりに使われていた小部屋の窓を塞いで暗室に転用した。
夜半。コーヒーテーブルの上に置かれた、サミュエルの足の裏の刺青の写真を見下ろして3人は一様に頭を抱えた。
刺青は、クレイの記憶通り〈歪んだ珠〉、或いは〈アンバランスな球形〉。
引き伸ばされたおかげで、その模様の中にもっと小さい丸印があるのがわかった。
更に興味を引くのは、模様を縁取って並んでいる5つのアルファベットだ。
「何、これ?」
鼻の上に皺を寄せて葵里子、
「IN KIR……?KIRにて?って言う意味?そういう地名が島内にあるの?それとも聖書の文句とか?でなきゃ、マザーグースの歌詞?──あんた達西洋人のかんがえることってそんなとこでしょ?」
「さあなあ?」
クレイは肩を竦めた。
「地名にはこんなのはない。俺が自信を持って言えるのはそれだけだな」
サミュエルはソファに倒れ込んだ。
「あーあ、こんなことなら、やっぱパパが生きてる内に会って、いろいろ話を聞いとくんだった!」
毎夏毎夏、あんなに会いたがっていたロヴ・プレローズとしても、きっと息子に直接伝えたい何かがあったのだろう。今更ながらサミュエルはそのことを悔やんだ。