「ねえ、ひょっとして、これ、〈地図〉として見れない?」
唐突な葵里子の指摘にクレイとサミュエルは顔を見合わせた。
「しかもこの色からイメージして、陸よりは海って感じ……」
「上手いぞ、葵里子!」
クレイは写真を引き寄せた。目を細めてじっくりと見つめる。
「丸い部分を海の省略形と見る。昔の海図なんかによくある手法さ。とすると、こっち、刺青の下の直線の部分は──海岸線?」
「そう言われたら、そう見えるな?地図持ってるか、クレイ。全島詳しく載ってる奴。調べてみようぜ!」
こうして、意外なほどあっさりと問題は解決した。
地図を捜すと、刺青の直線と重なる形状の入り江がすぐに見つかったのだ。島の西部、ランドポイント灯台の付近だ。
「とすると」
写真のその部分を指で押さえながらサミュエルは首を傾げた。
「この白い丸印は何を意味するのかな?」
「うん。こっちが入江だとすると印はかなり離れて、明らかに青い丸い部分にあるから──」
「沖合い…・・・海中ってことだな?」
二人が覗き込んでいた写真を葵里子がさっと引き抜いた。
「ねえ、明日、どうする?」
クレイもサミュエルもすぐには質問の意味がわからなかった。
「確か、明日はあんた達、死体の件で警察に出頭する予定だったわよね?」
顔の横で疑似餌のごとく写真をヒラヒラ振って葵里子は訊いた。この場合、写真家は自分が釣りをしているのをちゃんと心得ていた。清流の中の2匹の鱒よろしく、今やクレイとサミュエルの目は葵里子が振り翳す写真に釘付けだ。
「どうする?警察へ行く?それとも、こっちを先に片付けてみる?」
聞くまでもなく二人の答えは明白だった。
「今更、中途半端にほっとけないよ」
と、サミュエル。クレイも頷いて、
「ここまで来たら、誰だって、謎を明らかにしたいと思って当然だよな」
地下のエルンスト・オレンジだって、もう2、3日くらいならおとなしく待っていてくれるだろう。
かくして、〈避暑地の運命共同体〉、〈偶発的ドリームチーム〉……要するに〈半端な素人集団〉の3人は、行き詰まったままなんら進展のない連続殺人鬼追跡から、ロヴ・プレローズの残した刺青の謎解きへと、あっさりとその活動方向を転換した。
この詰めの甘さが結果的にどれほどの災いを招くことになるか──
その夜の3人には知る術がなかったのである。