ところで──
二人が覚悟していたよりも事態はずっと容易に進んだ。さほど深くない入江の海底、水深にして凡そ30メートル辺りにケッチ(2本マストの帆船)が沈んでいるのをクレイとサミュエルは潜水を開始してほどなく発見したのだ。
エアーが切れるギリギリの時間まで二人は潜っていた。
その後、戻って来た二人に駆け寄って葵里子は矢継ぎ早に問い質した。
「で?どうだった?」
「船がある」
「パパが沈めたんだ」
「何故、そうとわかるのよ?」
浮力調整ジャケットを肩から引き抜きながらクレイが説明する。
「船名が読めたんだ。〈アマンダ号〉」
そっけない口調でサミュエル、「ママの名だ」
「どんな船なの}
「全長約46フィート、長いキールと鋼鉄の船体のケッチ」
「やったわね!」
葵里子は胸のカメラを押さえて飛び跳ねた。
「それって刺青の文字に符合するじゃない!キールって船舶用語だったんだ?それを早く言ってよ!てことは……I・N・K・I・Rは、?IN KIR?で決まりね!」
(確かに船の総称として?キール?と言う言葉は使われもするが……)
さっきクレイが言った?キール?は竜骨のこと。転じて船自体をそう呼ぶこともある。でもこっちはKEEL
だ。クレイ自身、刺青の文字のKIRから船は全く連想しなかった。だが、写真家のあまりの興奮ぶりに気圧されて、スペルが違うことを指摘すべきかどうかクレイは躊躇した。
「中はどうだったの?調べたんでしょう?」
「ざっとだけ」
工具がないと無理な箇所があった、とクレイは認めた。
「破損してる戸棚とか、ビルジ・ウェルの内部とか。ヨットマンが本気で船内に何か隠そうと思ったらそこまでやるだろうからな。とはいえ、今日見た限りでは別にこれと言って変わったものは見当たらなかったぜ。なあ?おまえはどう思う、サミー?」
「わかんないよ」
「わかんない、はないでしょ、サミー?あんたのお父さんはこれほど手の込んだことしてるのよ。これは絶対、何か重要なものが隠してあるんだわ。その?船体の中?に」
指を顎に当てて葵里子は厳かに言い添えた。
「例えば──財宝とか」