足を組み変えて、さり気ない風を装ってクレイは尋ねた。
「夏が終わったら……おまえ、どうするんだ?」
即座にサミュエルは答えた。
「学校に戻らなきゃ。ママも待ってるし。おまえは?」
「うん。俺もさ」
今度尋ねるのはサミュエルの番。やはりさり気ない調子で聞いてみる。
「大学はボストンだっけ?」
「Hの方」
「ハーバードかぁ。俺も来年そこへ行こうかな。こう見えて成績悪くないんだ」
短い沈黙。クレイはいきなり立ち上がった。
「かせよ」
積み上げられた冊子へ手を伸ばす。、
「俺んちへ戻ろう。どうもここは落ち着かない。中身をチエックするにしろ──向うでしようぜ」
「うん、あっ?」
「おっと」
何がぎこちなかったのか二人のタイミングが微妙にブレて、強張った腕と腕が交差し、結果、日記の山が床に雪崩れ落ちた。二人とも虚を突かれて、零れた水でも見るように足下に散らばった冊子をただぼうっと見下ろしていた。それから、慌てて拾い集める。
「おい、これ、中身がないぞ」
花園を浮き上がらせた絨緞の上から、嫌に軽い一冊を拾い上げてクレイが訴えた。
「何処かへぶっ飛んだらしいや。探してくれ」
「どれ?」
部屋の隅の方で首を伸ばしてサミュエルが答えた。
「ああ、それか。それはハナから中身はなかった。カバーのサックだけ本棚に立ててあったんだ」
「へえ?」
興味を覚えてクレイはランプの傍へ寄った。
と記されている。
「ミロス島?エーゲ海だよな!ほんと、いろんな処へ行ってるんだ、おまえの親父さん」
「彼とはどうなったんだよ?」
クレイは抜け殻のサックから顔を上げてまじまじとサミュエルを見た。
少年は回収した父の航海日誌を両腕に抱えて戻って来ると机の上に元通り積み上げた。
「いきなりの突っ込みだな。彼って、どの彼さ?」
「中学1のヒーロー。初恋のヘイゼルのお兄ちゃん。彼とは長かったのか?」
「ああ、その話か」
やっと合点がいって、クレイは苦笑した。
「ずっと続いたよ。おまえは俺のこと浮気性と決めて掛かってるけど、お生憎様、入れ込む質なんだ」
サミュエルが黙っているのでもっと続けた。
「恋人は生涯一人。それが理想だね」
「だけど、結局、別れたんだろう?それともあっち、ボストンで待ってんのかよ?やっぱり俺はひと夏のバカな相手ってわけか?」
少年はもう涙声になっていた。