「酷いよ!」
それが、長いクレイの独白の後でサミュエルが最初に口にした言葉だった。
「?相手を取っかえ引っ変えした?ってくだりは酷過ぎる……」
「うん。酷いさ」
あっさりとクレイも認めた。「でも事実だからどうしようもない」
「誰も文句を言わなかったのか?つまり、おまえが引っ掛けた連中の内、一人もそういう仕打ちに文句を言わなかったのかよ?」
(おまえが今、こうして噛み付いてるみたいに、か?)
クレイは胸の中で訊いた。
(熱い目をして?必死になって?)
口に出してはこう言った。
「中には、俺のこと結構本気で思ってくれた奴もいたけど、俺は一人の相手と真剣な関係を続ける気はなかった」
クレイは正直に話した。
「この夏もその延長でそこそこ気楽でハッピーな日々が送れていたんだ。親父は不在。遠慮なくコテージは使い放題。そら、おまえが出会いがしら指摘した通りさ。『浜辺で拾った男の子、片っ端から連れ込める』状態?」
険しい目つきでサミュエルが何か言おうとしたが両手を上げてクレイは遮った。口早に言う。
「そうこうする内におまえに出会ったのさ」
「!」
「あの日、スパーキィと渚を歩いていると昨日までいなかった黒髪の人魚……じゃなくて王子様が砂に寝っ転がってるじゃないか。声を掛けられなかった。ただ見つめてるだけだ、1週間。そして?俺はまた生き始めてる自分に気づくのさ。心臓の歯車を入れ替えてもらって、まっさらな時計みたいに鼓動が新たな時を刻み始める……そんな感じ」
さてと、ここから先はおまえも知ってるストーリィだよ、とクレイは微笑んだ。
「俺はバカみたいにスパーキィのリードを外して嗾けたり、ディナーの用意をしたり、待ちぼうけを食わされたり、挙句の果ては──死体を担いだり、埋めたり、さ」
最後は少々おどけた口調で片目を瞑って締め括った。
「やれやれ、暗い過去を持つ色男も台無しだよな?」
二人はなお暫く闇に塗り潰された窓を見ていた。
本当のことを言えば、朧なランプの光によって硝子に映りだされたお互いの影を見ていたのだが。
「おまえとリッキーを比較する気はない」
少し考えた後で、クレイは言った。
「ぜんぜんタイプが違うしな。大体、リッキーはずっと大人だった。分別もあったし温和で、どっちが引っ掛けたの引っ掛けられたのと、または、引っ掛けられ方が気に食わないだのとシツコク拗ねたりダダを捏ねたりしなかった」
「悪かったな」
サミュエルはそっぽを向いた。
「どうせ俺はガキでシツコクて疑り深くて、焼き餅焼きだよ」