「いや、その点は似てるよ。リッキーも実はひどい焼き餅焼きだった!そして、肝心なのは──俺もそうだってこと」
サミュエルはまだそっぽを向いたままだ。だから、この日最も重要な言葉を告げるクレイの表情を見逃すハメになったのだ。
クレイ自身はまさにここが正念場だと腹を括っていた。
「俺はおまえが物凄く大切で?特別?だと思っている。だから、どうだ、この辺で手を打ってくれよ?」
サミュエルから返事はなかった。相変わらず横を向いたまま。
念には念を入れて準備しておいたもう一つの台詞──結局、カードは全て使うことになるのだ!
「じゃ、さ、こういうのはどうだ?おまえは俺にとって正真正銘の〈一人目〉だよ。つまり、リッキーのことをキチンと告白した相手として、かけがえのない〈一人目〉だ」
「そうさ!いい気味だ!」
少年はパッと顔を上げて叫んだ。
「俺とリッキーなら、この勝負、俺の勝ちだ!だって、リッキーは俺のこと知らないんだもんな、永遠に!」
クレイはサミュエルの言い分に呆れてしまった。が、腹は立たなかった。サミュエルが顔を背けていた理由を知ったから。サミュエルは泣いていたのだ。暗い父の書斎で、もっと暗い影のほうを向いて。
(泣き虫め……)
こいつに泣かれるとたまらない気分になる。涙の原因がいつも自分だと責められて割りが合わないけれど、幸せだった。その上、今やサミュエルが?リッキー込み?で自分を受け入れてくれたことをクレイは確信した。
「さあて、じゃ、早いとこ帰って寝直そうぜ。明日、葵里子は改めて〈アマンダ号〉の捜索をするつもりらしいからな」
プレローズ屋敷の暗くて長い廊下を、航海日誌を抱えながら去って行く際、ふと思い出してサミュエルは言った。
「俺さ、今となってはエルンストに心から感謝してるんだ。落ち着いたら絶対、豪勢な墓を立ててやる。だって、考えても見ろよ、あいつが俺達の絆を深めてくれたんだから。あいつが死体にならなかったら俺はおまえのことをこれほど理解できなかっただろうな?」
感慨深げに少年は深く息を吐いた。
「おまえが俺のために、俺を庇おうとして、あいつを埋めてくれたこと、心から嬉しく思っているよ。ありがとう、クレイ」
クレイ・バントリーに関しては、今夜、全ての謎が解けた、とサミュエルは思った。
「うん。まあ、俺は前の時は全く動けなかったから、今度は──今度こそは恋人を助けたいと無我夢中だったんだ」
「あいつは」
居間の前を通りしなドアを横目で見ながらサミュエルは声を潜めて囁いた。
「生きてる時はロクデナシだったけど、死んでからは、ほんと、人の役に立つ存在になったよなあ!」
年上のクレイは控えめに同意した。
「まあ、そういう言い方もできなくもないかも……」