21
「わかったか?どんなに美しくともおまえ等は皆、腐っている。私はそんな穢れた肉体など欲しくない!」
肉の焼ける匂い。ライターの炎がサミュエルの右足の裏を舐めた。サミュエルは喘いで身を捩った。
クレイも同時に悲鳴を上げた。後手に結わえられた縄に悪態をつきつつ、数歩進み出る。
それを見て教授はライターを放ると、素早く床のリボルバーを掬い取った。
「そこにいろ!動くんじゃない!」
銃口はクレイに向けたまま、サミュエルの肩をつかんで甲板から一気に引き起こす。
改めて、耳元で囁いた。
「おまえの父親は最低のコソ泥だぞ」
火傷の痛みも忘れてサミュエルは聞き返した。
「何だって?」
「私は嘗て一度、〈真実の美〉を手に入れた。だが、それをおまえの父親が略奪したんだ」
「俺のパパがそんなことするもんか!」
「したんだよ。だから──その報いでああなった」
「ヨットの事故のことを言ってるのか?」
「あれは事故じゃない。鈍いな、サミュエル。おまえの父親は殺されたのさ、私に」
なんと言っていいのか、サミュエルには思いつかなかった。
目を見開いて、本当は見たくもないリンクィストの痩せて尖った顔を見つめ続ける。一方、リンクィストは少年の視線を春の陽光のように浴びて、この上なく嬉しそうだった。
「ロヴ・プレローズは私から奪った〈財宝〉を独り占めしにしてこっそり隠した。そしてその隠し場所の地図を、何を思ったのか息子の体に残したんだとさ。傑作だろ?まあ、あいつは出会った当初からオツムの軽いイカレたお坊っちゃまだったからな。そんな男に引っ掛かるとは、おまえの母親もみてくれだけが全ての、中身の空っぽな淫売なんだろうなぁ?」
少年の真っ青な瞳を覗き込んで教授は続けた。
「この春、例の時化の夜、サイアスコンセット沖で私もあのヨットに乗っていた。なんと言ったっけ?そうそう、〈スペシャル・サマー号〉。
奴は簡単には口を割らなかった。だが、肉体上の痛みには耐えたくせに、息子の命は見逃すと言う交換条件で折れた。それで、洗い浚い打ち明ける気になったのに──皮肉なことだ!
少しばかり時間が足らなかったんだ。全てを語り終える前に奴は息絶えてしまったのさ。もう少し早く音を上げてくれていたらこんな面倒はなかったのに。お蔭で、刺青のことは聞いたが肝心の、そこに秘められた意味──〈秘密の隠し場所〉については聞けずじまいだった」