クレイは思い出した。出会った夜、サミュエルから聞いたロヴ・プレローズの死様──
『死体がさ、物凄かったって。見れたものじゃなかったって。海難事故にはつきものらしいけど……』
「おまえがやったって?パパを切り刻んだ?……あれを・・・…おまえが?」
絞り出すようなサミュエルの声が甲板に響いている。
「自業自得さ。奴は盗人なんだ」
「違う!この、変態野郎っ!」
サミュエルは華奢だが爆発的な瞬発力がある。実際、エルンストの首を絞めて殺しかけたし、クレイの重厚な樫のベッドをひっくり返したこともあった。今度も怒りで火の玉のようになった少年は体格で勝るリンクィストを弾き飛ばすと馬乗りになって押さえつけた。銀髪をつかんで数度、甲板に叩きつける。
「おまえは見たかったんだ、パパが苦しむところ。畜生!パパを傷つけて楽しんでいたな?おまえは葵里子の言う通り、正真正銘の変質者だっ!」
「サミー!」
クレイも走り出す。1秒でも早く傍へ行って加勢したかった。片や葵里子、身を捩って大声で喚いた。
「銃よ!サミー!早く銃を確保してっ!」
だが、遅かった。
虚を突かれていったんは少年に組み敷かれたリンクィストだったが、握っていた銃ごとサミュエルの横面を張って、甲板に殴り倒した。
「ここまでだ!」
後、数インチで跳びかかれたはずのクレイを振り返る。銃口はサミュエルの乱れた黒髪の中に突っ込まれていた。
教授が息を整える間、サミュエルの美しい漆黒の髪の中で銃も微かに上下した。
それは吐き気を催す、ゾッとする光景だった。
「安心しろ」
アンブローズ・リンクィストは久しぶりに微笑んで、言った。
「右足は死後、丁寧に切り落としてやるからな。私は潜水のみならず解体のベテランでもあるんだ。勿論、ケニーとお揃いに裸に剥いてから」
こいつは喋り過ぎる。サミュエルはうんざりだった。職業病かも知れないけど。
「楽しみだろ、サミュエル?おまえだって死体の方がずっと美しいって知ってるか?今のおまえの美を損ねている低俗な欲望から私が解放してやろう」
リンクィストは二、三歩サミュエルから離れた。皮膚にくっつけて撃って、醜い火傷の痕を残したくなかったのだ。殺すには充分な距離を空けて立ち、腕を伸ばして少年の胸に照準を合わせた。
チラッとクレイと葵里子を肩越しに見る。
「おまえ等にも見せてやろう。この子の〈真実の美〉を!」
そして、教授は引き金を引いた。