小説『とくべつの夏 〈改稿版〉』
作者:sanpo()

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 こうして、事件の全貌が詳らかになるのと比例して、事件そのものも急速に忘れ去られてしまった。

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 「俺のせいで大変な夏にしちゃったな?」
 サミュエルが伸び過ぎた黒髪を引っ張りながら呟いた。
 夏が知らん顔をして去ろうとしたいる9月最初の週。
 「そりゃ、こっちの台詞さ」
 真っ白いスキッパーシャツの下に包帯を覗かせてクレイは微笑んだ。するとまだ微かに痛みが走る。
 とはいえ、先週、8月最後の土曜日にクレイ・バントリーは本土の総合病院から退院して戻って来た。彼が受けた傷と流した血の量を思えば、これは驚異的な回復力である。きっと、高校時代にレスリングで鍛えた強靭な肉体と可愛い恋人の存在のお蔭だろう。おっと、それから、愛犬と。
 尤も、その愛犬の方は結局1度も病室には入れなかった。
 ご主人が入院中、スパーキィは〈グリル・ホープ&ウィンドゥ〉のオーナー、ジョバンニ・ラルデッリ氏と彼の愛犬タイクーンと一緒に過ごしたのだ。(そこでの生活がか快適であったかどうか、彼は頑として語ろうとしないが。)
 今、晴れて二人と1匹はプレローズ屋敷の〈見張り台〉にいた。
 夏の始めそのままに懐かしい潮風の挨拶を体中で受け止める。
 「残りの夏中を病院で過ごすのにつき合わせちまったもんなぁ……」
 「よせよ。最高の夏だったさ!例えそこが──輸液の下だろうが、警察の取調室だろうが、法廷のベンチだろうが、全然関係ない」
 いよいよ明日、サミュエルは故郷のカリフォルニアへ帰るのだ。
 新学期が始まる。
 クレイの方はサミュエルを見送った後、もう暫く島に残って養生しながら、父とその新しい花嫁を向かえる予定。
 事件直後、クレイは弁護士を通じて、クルージングハネムーン中だった父に、慌てて予定を変更して島へ戻らないよう強く希望した。ジェームズ・バントリーのヨット〈エフィーバス?号〉はちょうどラァーグ岬を巡ってオールダニー水路にあった。
 命は一応取り留めたし、自分はもう大人だし、それから──何と言ってもこちらの理由がより重要だった──恋人と二人っきりでいたいから。
 父は快諾してくれた。
 一方、サミュエルの母親だが──
 未成年であるサミュエル・ケリーの母親は当然ながら事件後、取る物も取らず血相を変えて駆けつけて来た。
 

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