集中治療室のベッドの上でクレイはアマンダ・ケリーと初対面を果たした。
息子と同じ黒い髪と青い瞳を持つ小柄で魅力的な婦人はクレイと目を合わせた途端ニッコリと微笑んだ。
このすこぶる良好な母の反応は、食い込むようにしてずっと両肩に置かれていた細い指から直接サミュエル自身に伝わった。
(……ママは俺のパートナーに満足したんだ!)
こんなことは、勿論、初めてだった。サミュエルは驚いたが、もっと驚いたのは、『お店を放っとけないから』と言う理由でアマンダ・ケリーが三日後には息子を一人残してさっさとカリフォルニアへ帰ってしまったこと。
「『後のことは全て、我が家の顧問弁護士フィリップ・ケストナーさんに任せてあるし』だとさ!それにしても──」
ジィーンズのポケットに両手を捩じ込んでサミュエルは溜息混じりに洩らしたものだ。
「ママが一人息子よりベンチュラ・ブールバードにあるあのイカレたアンティークショップの方を大切に思ってるとは知らなかったな!」
自分を溺愛していた心配性の母の豹変振りが、少年にとっては嬉しくもあり意外でもあった。
実はアマンダは西へ帰る前日、息子がいないのを見計らってこっそりクレイの病室を訪れたのだが、その時の経緯をクレイは未だサミュエルには内緒にしていた。
*
アマンダ・ケリーが別れの挨拶にやって来た時、サミュエルはクレイと些細な口喧嘩をして病院地下のカフェテリアへ一人で降りて行った後だった。
クレイはまだベッドで起き上がれない状態だった。そのせいで、覗き込んだ元プレローズ夫人の顔と天井の両方を少々居心地の悪い思いで見上げていなくてはならなかった。
天井は医療機関に付き物の馬鹿げたペパミントグリーンで、その上夕焼けのせいもあって物凄いフラミンゴ色に見えた。
「クレイ、あの子のことお願いね?」
アマンダ・ケリーは懇願した。
「あの子を見てると昔の自分を見てるような気がするわ。恋をしていて、幸せだった頃の……」
彼女のショートカットの髪は息子よりずっと短くて、銀のピアスがフェイジョイの葉っぱのように煌いている。