「そうね」
アマンダは言い直した。
「私はずっと、今も、ロヴを愛してるけど全然幸せじゃない」
いよいよ泣き出しそうに見えた。
「私達が幸せだったのは本当に短い間だけ。どうしてこんな風になっちゃったのか私にはわからないわ。あっちの島の美しい浜辺で出合った瞬間から、私達お互いを〈最高の恋人〉だと確信したのに。私達の〈愛情物語〉は何処へ消えてしまったのかしら?」
我慢できずにクレイは声を立てて笑い出した。傷口が引き攣って死ぬ思いを味わった。
「失礼。イテテ……でも、ああ、やっぱりサミーのママだなと思って……」
「あら?」
可愛い唇を突き出して不平を言う処と、すぐそうやって物事を映画のタイトルに喩える処。
「〈ガラスの部屋〉もサミーと一緒に見たんですってね?」
実は今しがた入れ違いで出て行ったサミュエルの捨て台詞がそれだった。
『本当は今でもリッキーのこと忘れられないんだろう?』と絡んだ挙句──暇を持て余すたびに、または儀式のように定期的にサミュエルはこれを言う──『そんなにリッキーがいい男なら、いいよ、じゃあさ、あの世で俺達〈ガラスの部屋〉しようぜ。俺に異存はない。あー、今から楽しみだな!』ときた。
?ガラスの部屋?は知る人ぞ知る3角関係の珠玉の名作である。
「にしても、毎回感心しますよ。古い映画までよく知ってるな、サミーの奴……!」
アマンダはあっさり認めた。
「映画マニアは私なのよ」
シーツに伸ばしっ放しだったクレイの左手をギュッと握ると、
「こうやって、手を繋いで、深夜、ソファでビデオを見るのが離婚後の私と息子の習慣だったの。二人ともベッドへ行かずそのままソファで夜を明かしたことが幾晩もあったわ、数え切れないほど。ほら、一人ぽっちのベッドが怖くて……」
「ティッシュがサイドテーブルの上にありますよ」
クレイは教えながら思った。泣き虫のところも似ているな?
「あの、誤解しないでね、クレイ?私とロヴにも幸せな時はあったのよ。私が2度と島へ行きたくないのは、あそこが嫌いだからじゃなくて──哀しいからよ」
事実、東海岸に滞在した三日間、彼女は島へは一度も渡らず病院近くのホテルで過ごした。
「だから」
宛ら宣誓するごとく右手を肩の高さに上げてアマンダは言った。
「安心して、クレイ。私は今後、あの子が島へ行くのをけっして反対したりしないわ」