小説『とくべつの夏 〈改稿版〉』
作者:sanpo()

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 「おい、ちょっとこっちへ来てみろよ!」
 洞窟の真ん中辺りでクレイの呼ぶ声がした。
 サミュエルと葵里子が行ってみると、アウトドア用のテーブルセットが置かれていた。周囲の彫像と比べてその新しさが妙にリアルで生々しかった。
 曇ったスチールのテーブルの上に高性能ランタンと冊子が乗っている。サミュエルとクレイにはそれが欠落していたロヴ・プレローズの航海日誌だとすぐわかった。
 真っ先に葵里子が手に取って、小脇に懐中電灯を抱えた姿勢のままパラパラとページを繰っていたが、やがて黙ってサミュエルの方へそれを突き出した。
 開かれていたのはノートも終いの方、栞代わりに写真を挟んだページ。
 ロヴ・プレローズが赤ん坊を抱いて写っているその一枚はサミュエルが始めて目にするものだった。
 ママが撮ったのだろうか?この白い柵は見張り台だ。風を受けて父は零れんばかりの笑顔を浮かべている。 一方、自分ときたらひどい。今にも泣き出しそうな──或いは、くしゃみがしたいのか?──クシャクシャで猿そっくりの最低のショットだった。
 水平線が、ちょうど自分を抱く父の日焼けした太い肘の辺りにあって、右端高くカモメが旋回している。
 それから、1行目が目に飛び込んで来た。

 ( よく来たな、サミー。私が、この日の来るのをどんなに待っていたかわかってほしい。 )

 「ちょっと、こっちも点けた方がいいんじゃない?使えるんでしょ、このランタン?」
 傍らで葵里子が命じるとクレイは無言で指示に従った。
 直立のままサミュエルは力強く奔放な筆致で続く、いつ書かれたのかも定かではない父からの?手紙?を読み始めた。

 ( この場にいるおまえは何歳かな?
   十三歳?十五歳?十七歳?
   いづれにしろ私と一緒に過ごした今年の夏がおまえにとって楽しかったことを願っている。
   そして、これが、私が用意した、この夏最後の贈り物だ。

   今、おまえは私の指示通りここへやって来た。
   現実の私は洞窟の外にいて、ビクビクしながらおまえを待っているのだろうな?
   そう思うと不思議な気がするよ。
   だが、ここにいるおまえはもう充分に私の話を理解できるはずだ。
   これから私はおまえに私の秘密を明かすつもりだ。
   それは──それこそ、私の犯した罪の話だ。                       
)



  

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