小説『とくべつの夏 〈改稿版〉』
作者:sanpo()

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 (  私が相棒を裏切ったのは単純にこれら至宝を私だけのものにしたかったからだ。
    それから、もう一つ。〈古代遺産略奪者〉という偉業を私個人の武勇伝にしたかった!
    命じられるままに〈墓堀人〉に手渡したのでは、私はただの〈運び屋〉。
    いや、もっとレベルの低い〈使い走り〉に過ぎないじゃないか……!

     愚かにも、私は物語の主人公になりたかったのさ。
  
    略奪品の隠し場所なら既に〈オーファン号〉の甲板にいる時から決めていた。
    幼い頃の遊び場。私の秘密基地、鯨岩。
     白状すると、ここ鯨岩には私だけ(多分)が知る秘密があって、
    宝物を隠すにはうってつけの場所だと昔から思っていたんだ。
    どういうことかと言うと──
    この鯨岩は、夕焼けの時、我が家の見張り台から眺めると、
    地面の影と一つになった形の尾鰭の部分が、地図に写し取った島の西の入江そっくりなんだ!
     謎めいていて不思議な符合だろう?
   
     ずっと私はそこに隠す私だけの宝物を捜していたのかも知れない。
    そして、とうとう──海賊ごっこを卒業した頃になって──ここを利用する機会を得たわけだ。
    結局、私は探検遊びの果てにこの洞窟を見つけた7歳の時から、
    ほとんど成長してなかったんだから笑えるよな?

     自分の軽率な行為を本気で後悔し始めたのは、
     アマンダ・ケリー……おまえのお母さんに出会ってからだ。

     幸運にも彼女と巡りあい、結婚し、おまえが生まれた時、私は初めて自分の罪を悔いた。

     あのな、どんな人間でも親になって、軟らかい赤ん坊を胸に抱いた瞬間に、
     我が子が人間として正しく、幸せに生きてほしいと心から願うものなんだよ。
     私も願い、祈ったさ!
    そして、同時に、おまえを愛し、見守り、導くべき父親としての?自分?について深く考え始めた。
     私はおまえに恥ずかしかった。

    
    

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