小説『とくべつの夏 〈改稿版〉』
作者:sanpo()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

 (  痛い思いをさせて本当に申し訳なかった。
    どうか許して欲しい。
    虐待と罵られても言い逃れる術もない。その通りなのだから。

    あの日、愚かな私はそうすることが唯一残された道だと錯覚したのだ。
    私の〈秘密〉をおまえの体に残すことで、この先離れ離れになっても繋がっていられる、
    そんな気がした。
    目に見える親子の絆が欲しかった。

    そして、今となっては刺青は別の意味を持っている。
    それは、私の〈誓い〉となった。

    おまえの傷は一生消えない。
    だからこそ、臆病な私も目を背けることはできないのだ。
    逃げることは許されない。
    いつかおまえが私の言葉を理解できる歳になったら、
    その刺青を指し示しながら全てを告白しようと私は思い続けている。

    ああ、そうさ!
    その後で私はちゃんと警察に出頭するつもりだ。
    だが、私はまず1番先に、おまえに私の罪を告げたかったのだ。

    さあ、その日こそ、今日なんだ!
    サミー、
    今、私は洞窟の外で、全てを知ってここを出て来たおまえが、
    それでもまだ「愛してる」と言って抱きしめてくれるのを震えながら待っているよ。   
)


 サミュエルは静かに息を吐いた。
 息子との再会の夏を想定して綴られたロヴ・プレローズの手紙はいったんここで終わっていた。
 その後に、明らかにもっと新しく、乱れた文字で続く一文があった。
 それはもはや手紙や伝言の類ではなくて自分を落ち着かせる為に書き殴ったメモのように見える。
    

-77-
Copyright ©sanpo All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える