第九話『就任パーティー』
Side〜ウリア〜
「ではこれよりISの基本的な飛行実践を実践してもらう。 織斑、アインツベルン、オルコット。 試しに飛んでみせろ」
四月も下旬になり、本日も千冬義姉さんこと、織斑先生の授業を受けています。
私は、一夏との交際を認めてもらってから、プライベートでは千冬義姉さんと呼ぶようにしています。
それに、千冬義姉さんも満更でもないみたいですしね。
「早くしろ。 熟練したIS操縦者は展開まで一秒とかからないぞ」
あれ?
一夏はまだ展開できていませんね。
他のことでも考えているのでしょうか?
「よし、飛べ」
ちなみに、私は今は通常形態です。
これくらいのことに、英霊の力は使いません。
「何をやっている。 アインツベルンはともかく、スペック上ではオルコットのよりは出力は上だぞ」
順番で言うと、私、セシリア、一夏の順番。
遅いですね、どうしたのでしょうか?
「大丈夫ですか、一夏?」
「ああ、なんとかな」
急上昇、急停止は最近やり始めた分ですしね。
でも、ちゃんと出来ていたはずなんですが……。
「体調でも悪いのですか?」
「大丈夫だ。 もう切り替えたから」
やっぱり何か考えていたようです。
「織斑、アインツベルン、オルコット、急降下と完全停止をやって見せろ。 目標は地表から10センチだ。 アインツベルンは地表から3センチだ」
私だけ差別ですか?
まあ、大丈夫ですけど。
「私から行きますね」
私は急降下し、地表5ミリの位置で停止した。
クラスの皆さんから拍手されました。
これくらいできないと、千冬義姉さんに申し訳ありませんしね。
私に続いて降下してきたのはセシリア。
難なくクリアしました。
流石は代表候補生と言うところですね。
最後は一夏です。
大丈夫でしょうか……。
『ウリア、大丈夫だ。 俺を信じろ』
プライベート・チャンネルで一夏から声が聞こえました。
私、そんなに不安そうな顔してましたか?
<物凄くしてましたよ>
そうなんですか。
でも、心配なのは仕方がないと思うんですね!
だって一夏が怪我をすると思うと、平常心でいられる自信がありません!
<それは威張るようなことではない。 そういうときほど平常心でいなければ、一夏に愛想つかされるぞ>
(話しかけてもないのに、私の心を読まないでください。 それと、あれは冗談です)
<主よ、気のせいに聞こえないのは気のせいでいいんですよね?>
(大丈夫です! 大怪我でもしたらわかりませんが……)
一夏が大怪我なんてしたら、平常心でいられるほうがおかしいです。
千冬義姉さんでも取り乱すかもしれません。
あ、一夏が急降下を始めました。
よかった、墜落はしなかったようです。
「13センチ。 まだまだだが、まあいいだろう」
まだ始めたばかりですからね、大丈夫です。
一夏は物凄くの見込みが速いですから。
「織斑、武装を展開しろ」
「はい」
一夏は雪片弐型を展開します。
「遅い。 0.5秒で出せるようになれ」
一夏には本当に手厳しいですね、千冬義姉さん。
「オルコット、武装を展開しろ」
一秒と経たずに展開、射撃可能まで完了しています。
流石、と言いたいところですが、
「さすがだな、代表候補生。 ―――ただし、そのポーズはやめろ。 横に向かって銃身を展開させて誰を撃つ気だ。 正面に展開できるようにしろ」
こういうことなので、少々残念ですね。
「で、ですがこれはわたくしのイメージをまとめるために必要な―――」
「直せ。 いいな」
「……はい」
千冬義姉さんは一睨みして黙らせます。
流石ですね。
いくら代表候補生といえど、世界最強の千冬義姉さんに反論できません。
「オルコット、近接用の武装を展開しろ」
「えっ。 あ、はっ、はいっ」
手の中の光はなかなか像を結ばず、くるくると空中をさまよっています。
これは、決定的な欠点ですね。
「くっ……」
「まだか?」
「す、すぐです。 ―――ああ、もうっ!!」
もうやけくそですね。
初心者用の手段であるため、代表候補生であり、プライドの高いセシリアにとっては相当屈辱的なことでしょう。
「……何秒かかっている。 お前は、実践でも相手に待ってもらうのか?」
「じ、実践では近接の間合いに入らせません! ですから、問題ありませんわ!」
「ほう。 アインツベルンとの試合では、宙を舞う剣に手も足も出なかったように見えたが? あの様でアインツベルンが特攻してきても間合いに入らせないと?」
「あ、あれは、その……」
千冬義姉さん、なかなか毒を吐きますね。
「では、見本でも見せてもらおう。 アインツベルン、武装を展開しろ」
「わかりました」
私の手元がほんの一瞬光り、光が晴れた頃には両手に黒鍵が握られている。
そして、それを一瞬で収納し、新たに弓を展開。
また収納し、最後に銃を出す。
『高速切替』と呼ばれる技術ですね。
「あそこまで速くなれとは言わんが、あれが最も理想的な形だ。 よく覚えておくように」
ラピッド・スイッチは努力だけじゃあ難しいですよ。
だって、ラピッド・スイッチの真髄は、多彩な武器を状況に応じて切り替えて戦うことですから。
いくら切替が早くとも、状況判断ができなければ宝の持ち腐れですからね。
でもまあ、覚えておいて損はないですけど。
「時間だな。 今日の授業はここまでだ」
授業が終わりました。
☆
「というわけでっ! 織斑くんクラス代表決定おめでとう!」
「おめでと〜!」
クラッカーが乱射されました。
皆さん、盛り上がってますね。
ですが、このパーティーの主役の一夏は暗いですけど。
「いやー、これでクラス対抗戦も盛り上がるねえ」
「ほんとほんと」
「ラッキーだったよねー。 同じクラスになれて」
「ほんとほんと」
相槌打っているのは一組の人ではありませんよね。
そもそも、クラスの人数を明らかに超えてますし。
「すみません、一夏。 私が出来ればよかったんですが……」
「気にするな。 俺はウリアのその気持ちだけで嬉しいから。 確かに、千冬姉を倒せるような人が代表になっちゃ駄目だしな」
「一夏、あれはまぐれですよ。 『最後の約束された勝利の剣』が上手く決まったから、勝てたんですから」
もしも『約束された勝利の剣』が決まらなかったら、負けていたのは私でしょう。
あれは膨大なエネルギーを使用するので、魔力を使わないで使用するとなると、二回使えればいい方なんです。
それに、『約束された勝利の剣』を使い終わった直後は、あまりの威力ゆえにすぐに動けないんですね。
「まぐれであっても、それもウリアの実力だぜ」
一夏……。
やっぱり一夏は優しいです。
「はいはーい、新聞部でーす。 話題の新入生、織斑一夏君と、姿を変えるISを使うアインツベルンさんにインタビューをしに来ました〜!」
一同盛り上がりました。
というか、私にもですか?
「あ、私は二年の黛薫子。 よろしくね。 新聞部副部長やってまーす。 はいこれ名刺」
あ、私にもくれました。
とりあえず、画数の多い字ですね、って一夏なら考えていそうです。
「ではまず織斑君! クラス代表になった感想を、どうぞ!」
「まあ、なんというか、頑張ります」
「えー。 もっといいコメントちょうだいよ〜。 俺に障るとヤケドするぜ、とか!」
久しぶりに聞きましたね、その台詞。
「自分、不器用ですから」
「うわ、前時代的!」
日本の名優を侮辱しますか。
そういうあなたも前時代な台詞を言ったじゃないですか。
って、私も侮辱しちゃってますね。
「う〜ん、じゃあまあ、適当に捏造しておくからいいとして」
それでいいんですか、新聞部。
「アインツベルンさん、あのISは何? 姿が変わるという話ですが、その真相は?」
まともな質問ですね。
ですが、それには答えられません。
「それには答えることはできません。 企業秘密ですから。 まあ、アインツベルンを敵に回したいのなら、話は別ですが」
企業秘密を暴露するわけがありません。
というより、教えたところで真似なんてできませんが。
なぜなら、この『サーヴァント』が使えるのは私だけですし、英霊は魔術師しか呼べませんから。
「そ、それじゃあ仕方ないわね。 うん、仕方がないね! じ、じゃあ、専用機持ち三人でスリーショットでももらいますかね!」
黛さんが動揺しているのは、アインツベルンを敵に回したくないからです。
アインツベルンは、世界で唯一の魔術を扱う家系でありながら、世界でも大きな権力を持ちます。
そんなアインツベルンを、敵に回したいと考える人はいないでしょう。
にしても、写真ですか……。
一人邪魔なのがいますが、気にしないようにしましょう。
きっとクラスの皆が乱入してくると思いますから。
「それじゃあ撮るよー。 35×51÷24は〜?」
「え? えっと……」
「74.375ですよ、一夏」
「お、正解!」
「うおっ!」
パシャッとシャッターが切られる。
一夏に抱きついて正解でしたね。
だって―――
「なんで全員入ってるんだ?」
―――本当に私の予想通りに動きましたから。
「あ! アインツベルンさん、織斑君に抱きついてる!」
「羨ましい!」
皆さんが騒ぎ出しますが、気にしません。
もうこの際、一夏の彼女が私であるとばらしてしまいましょう。
「みんなの前で抱きつかなくてもいいだろ?」
「一夏は私が嫌いですか?」
「そんなこと、あるわけないだろ。 ただ、人の目を考えてほしくてだな……」
「いいじゃないですか、見せ付ければ。 千冬義姉さんからも認めてもらっているんですから」
千冬義姉さん公認であるというのは、絶対の理になりますからね。
「でも、よかったのか? ばれると厄介だって、前に言ってただろ?」
「どうせ後々ばれるんです。 ちょうどいいですし、この際ばらしてしまったほうが良いかと思ったので」
「そうか? ウリアがいいのなら、俺も良いんだけど」
一夏の了承も得ましたので、ばらしちゃいましょう。
「……えっと、織斑君とアインツベルンさんの関係は……?」
確認のために聞いてきた黛さん。
もうこの際、これから堂々と一夏とイチャつくために、ばらしちゃいましょう。
「恋人です♪」
『『『えっ?』』』
「俺とウリアは、恋人同士です」
『『『え、えええええええええええええええええっ!?!?!?!?』』』
食堂でみんなの絶叫が響きます。
「ちなみに、千冬義姉さん公認です♪」
『『『えええええええええええええええええええっ!?!?!?!?!?』』』
また大絶叫が響きます。
耳がキーンとなりました。
「なにを馬鹿騒ぎしている!」
千冬義姉さんが来ました。
でも、バッドタイミングです。
「あ、あのー付かぬ事お伺いしますが、織斑君とアインツベルンさんの交際を認めているって本当ですか?」
恐る恐ると言った感じで、黛さんが千冬義姉さんに確認を取りました。
「なんだ、もうばらしたのか」
「はい。 この際ばらしてしまおうかと思ったので」
「そうか。 確かに、認めている」
千冬義姉さんがそう言うと、この場にいるほとんどの人が失意体前屈(orz)となりました。
やっぱり、千冬義姉さんの発言力は大きいようです。
「織斑、アインツベルン、今のうちに戻っておけ。 奴らが復活する前に逃げておくことをお勧めする」
「そうですね。 では、私たちは部屋に戻ります。 行きましょう、一夏」
「おう。 そうだな」
私と一夏は部屋に戻り、その日はやりすごしました。
でも、もしかしたら……というより、確実に明日問い詰められるでしょうね。
Side〜ウリア〜out