第十話『中国代表候補生』
Side〜ウリア〜
「織斑君、アインツベルンさん、おはよー。 ねえ、転校生の噂聞いた?」
「転校生? 今の時期に?」
今はまだ四月で、この時期に転校生とは珍しいですね。
このIS学園への転入は条件が厳しく、試験はもちろん、国の推薦がないとできないようになっています。
だから、必然的に―――
「そう、なんでも中国の代表候補生なんだってさ」
国の代表候補生になる。
一夏と白式のデータ目当てでしょうか?
どの国も、世界初の男性IS操縦者である一夏及び、その専用機は喉から手が出るほど欲しい存在ですからね。
まあ、そんなこと、私が赦しませんけどね。
「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら」
イギリス代表候補生のセシリア・オルコット。
腰に手を当てたポーズをよくしているのですが、なぜか似合っています。
「このクラスに転入してくるわけではないのだろう? 騒ぐほどのことでもあるまい」
彼女は篠ノ之箒。
IS開発者の篠ノ之束さんの妹で、一夏の幼馴染です。
「どんなやつなんだろうな」
一夏はその転校生が気になるようです。
「気になるんですか?」
「ん? ああ、少しは」
「……ウリアさんという人がありながら、他所のクラスの転校生に現を抜かす気ですか?」
……少し、イタズラでもしてみましょう。
「一夏……私じゃあ駄目なんですか……?」
私は瞳に涙を溜め、上目遣いで一夏に言います。
「違う! 代表候補生なんだから、どれだけ強いのかが気になってるだけだ!」
「……信じますよ?」
「ああ、信じてくれ。 俺はウリア以外考えられないから」
「一夏……」
一夏は真剣な眼差しで私を見つめてきたので、つい見惚れてしまいました。
「ゴホン。 お前ら、イチャつくなら二人っきりのときにしてくれないか?」
「仲がよろしいのはわかりますが、わたくしたちのことも考えていただきたいものですわ」
「あ、すみません」
「悪い」
二人とも、ちょっと怒ってますね。
まあ、誰だって人の惚気なんて聞きたくありませんよね。
あっ、そう言えば、パーティーのあった次の日、箒に呼び出されました。
内容は一夏について。
やっぱり、箒は小学校のときからずっと好きだったようです。
一夏は箒には好きな人がいると言っていたらしいんですが、それでも頑張っていたようです。
「ま、相手がどんな奴でも、負ける気はないけどな」
その意気ですよ、一夏。
勝利へのイメージは重要ですからね。
「織斑くんが勝つとクラスのみんなが幸せだよー」
「織斑くん、がんばってね!」
「フリーパスのためにもね!」
「今のところ専用機を持っているクラスは一組と四組だけだから余裕だよ」
「―――その情報、古いよ」
教室の入り口から声が聞こえました。
どちら様でしょうか?
「二組も専用気持ちがクラス代表になったの。 そう簡単には優勝できないから」
「鈴……? お前、鈴か?」
え……一夏、知っているんですか?
「そうよ。 中国代表候補生、凰鈴音。 今日は宣戦布告に来たってわけ」
「何格好付けてるんだ? すげえ似合わないぞ」
「んなっ……!? なんてことを言うのよ、アンタは!」
誰なんでしょうか……?
とても仲がいいように見えますが……。
「おい」
「なによ!?」
バシンッ!
千冬義姉さんの登場です。
「もうSHRの時間だ。 教室に戻れ」
「千冬さん……」
「織斑先生と呼べ。 さっさと戻れ、そして入り口を塞ぐな。 邪魔だ」
「す、すみません……」
千冬義姉さんにビビッていますが、やはり仲のいい人みたいですね……。
「またとあとで来るからね! 逃げないでよ、一夏!」
「さっさと戻れ」
「は、はいっ!」
彼女は二組に消えていきました。
「っていうかアイツ、ISの操縦者だったのか。 初めて知った」
「い、一夏、彼女は誰なんですか……?」
あの子はただの仲のいい友達なだけですよね……?
「一夏、あの女は誰だ!」
「ウリアさんとはお遊びだったんですか!?」
バシンバシンバシンバシン!
「席に着け、馬鹿者ども」
千冬義姉さんの出席簿で叩かれました。
私はそこまで痛くはなかったのですが、手加減してくれたようです。
でも、気になります。
あの子が誰なのか、あの子とはどういう関係なのかが。
<ウリアスフィール、彼女が誰であろうと、一夏との繋がりがあるのです>
<一夏を信じろ。 奴がお前以外考えられないと言っているのだ。 自信を持て>
<そうです。 主は自信を持っていいのです>
<坊主の姉に認められているのだろう? ならば堂々としておればよいのだ>
<あの雑種が何をしたところで、お前とあいつの関係が崩れる訳があるまい。 それとも、貴様の思いはその程度の物だったのか?>
(皆……ありがとう)
一夏の彼女である私が一夏を信じなくてどうするんですか。
堂々としていればいいんです。
しかも、あのギルガメッシュまでもが慰めてくれたんです。
自分を、一夏を信じましょう。
☆
「待ってたわよ、一夏!」
お昼休み、食堂で例の彼女がいた。
「まあ、とりあえずそこをどいてくれ。 食券出せないし、普通に通行の邪魔だぞ」
「う、うるさいわね。 わかってるわよ」
「のびるぞ」
「わ、わかってるわよ! 大体、アンタを待っていたんでしょうが! 何で早く来ないのよ」
話しか聞いていませんが、この子、理不尽ですね。
「それにしても久しぶりだな。 ちょうど丸一年ぶりか。 元気にしてたか?」
「げ、元気にしてたわよ。 アンタこそ、たまには怪我病気しなさいよ」
「どういう希望だよ、そりゃ……」
なんてことを考えるんでしょうか、この子は。
怪我や病気になれだなんて。
「一夏、料理が出てきたぞ」
「あちらのほうが空いていますので、そこで食べましょう」
箒、セシリアのおかげで二人の話が途切れました。
混雑しているのに、すぐにテーブルに付けたのはよかったです。
これからはお弁当でも作ってみましょうか……。
「鈴、いつ日本に帰ってきたんだ? おばさん元気か? いつ代表候補生になったんだ?」
「質問ばっかしないでよ。 アンタこそ、なにIS使ってるのよ。 ニュースで見たときびっくりしたじゃない」
話から察するに、この子は小学校か中学校の頃の友達ですね。
「一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいのだが」
「そうですわ! 一夏さん、ウリアさんを裏切るおつもりですか?」
「彼女が誰なのかは教えてください」
一夏を信じるとはいえ、どういう関係なのかは気になってしまいます。
「あ、悪いな。 こいつは幼馴染だ」
「幼馴染……?」
いつ知り合ったのか、私も気になります。
同じ幼馴染である箒ですら知らないんですから。
「あー、えっとだな。 箒が引っ越したのが小四の終わりごろだっただろ? 鈴が転校してきたのが小五の頭だよ。 で、中二の終わりに国に帰ったから、会うのは一年ぶりぐらいだな」
箒と彼女は入れ違いで転校したんですね。
「で、こっちが箒。 ほら、前に話したろ? 小学校からの幼馴染で、俺の通ってた剣道場の娘」
「で、そいつは?」
彼女―――凰鈴音は、私を見ながらそう言いました。
「彼女はウリア。 前に言っただろ、俺がずっと好きな人だって」
一夏、そんなこと言っていたんですね。
「ウリアスフィール・フォン・アインツベルンです。 よろしくお願いしますね、凰さん」
「アンタがウリアなのね……。 二人は、付き合ってるの?」
あ、もしかして、この子も一夏のことが好きだったんですね。
「ああ、俺とウリアは付き合ってるんだ」
「そう……。 アンタ、ちゃんと思い伝えられたんだ」
「ああ」
「よかったじゃない。 再会できて」
祝ってくれるんですね。
諦めがついていたのでしょうか……?
「私の存在を忘れてしまっては困りますわ。 中国代表候補生、凰鈴音さん?」
「……誰?」
「なっ!? わ、わたくしはイギリスの代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!? まさかご存じないの?」
「うん。 あたし他の国とか興味ないし」
「な、な、なっ……!?」
怒りで顔を赤くするセシリア。
代表ならまだしも、代表候補生全員を覚える人はほとんどいないでしょう。
「い、い、言っておきますけど、わたくしあなたのような方には負けませんわ!」
「そ。 でも戦ったらあたしが勝つよ。 悪いけど強いもん。 言っとくけど、アンタにも負ける気はないわよ」
「私をご存知なんですか?」
他国には興味ないと言っていたので、私も知らないと思っていたのですが、思い違いだったようです。
「ええ。 アインツベルン家の次期当主だって国の奴らから聞いたわ」
国ということは、『サーヴァント』のデータが目的ですね。
アインツベルンを敵に回してただで済むはずがありませんのに、馬鹿なことを考えますね。
「代表候補生には負けません。 アインツベルン家の次期当主たる者、代表候補生に遅れを取るのなら、当主になる資格はありません」
当主になるため、代表候補生以上にきつい訓練を色々やってきましたから。
それに、千冬義姉さんにも勝ったのに、代表候補生に負けれません。
もしも負けるようなことになれば、千冬義姉さんの名前を汚すことになってしまいます。
「そういえば一夏、アンタ、クラス代表なんだって?」
「おう、成り行きでな」
「ふーん。 絶対に負けないから」
「俺も負ける気なんてねえよ。 負けたら教えてくれるウリアに示しがつかない」
一夏は物凄い勢いで成長していますからね。
代表候補生ともまともに戦えるでしょう。
『零落白夜』の扱い方も、凄い勢いで上達していますしね。
クラス対抗戦、いい試合になりそうです。
Side〜ウリア〜out