第十三話『休日、城にて』
Side〜ウリア〜
六月頭の日曜日。
私は今、日本にある別荘の家(城)に来ています。
お母様とお父様に呼ばれて来ました。
ちなみに、一夏は友達の家にいるそうです。
「ウリア、一夏君とはどうかい?」
「一夏とですか? 楽しくやっていますが……」
「それならいい。 もしも彼がウリアを泣かせるようなことをしていたら……フフフフ……」
「駄目ですよ、あなた。 その程度じゃあ。 ウフフフフ……」
私の両親は過保護です。
しかも、かなり重度の。
正直実の娘でもこれは引きます。
「だ、大丈夫ですから、どうか戻ってきてください」
「おっと、つい」
「お父様、お母様。 言っておきますが、もしも一夏に手を出したら、いくら二人でも私は赦しませんからね?」
一夏を亡き者にするのなら、いくらこの二人といえど、私は絶対に許さない。
地獄の果てまで追って復讐に走るでしょう。
そして、復讐が終わったら、私も死ぬでしょう。
「わかっている。 ウリアに嫌われることを、私たちがするわけがないだろう」
「そうよ、ウリア。 私たちはウリアのことを大事に思っているのだから」
娘を思うのはいいのですが、限度というものがあってもいいのでは?
「あ、忘れていました。 それで、私に用とは?」
「ああ、それか。 今回呼んだのは、先日の無人機の襲撃についてだ」
「……なぜ知っているのでしょうか? それは機密なのですが……」
あれは、情報規制がかけられて、漏れていないはずなんですが……。
「ウリアのIS『サーヴァント』の中にいる英霊たちに、定期的に連絡をさせるようにしているのだよ」
「……そういうことは最初から教えておいてくれませんか? プライバシーの侵害ですよ?」
「冗談だよ」
「冗談でも止めてください」
まったく、そんな冗談を言ってないで、話を進めて欲しいです。
「ウリアのプライベートは気になるけど、そんなことをした嫌われるからね。 していないよ」
「で、どのようにして?」
「私の召喚した英霊の仕業ですよ」
「お母様の?」
現アインツベルン家当主であるお母様。
そういえば、お母様が身近においている英霊は知りませんね。
「卑弥呼、来なさい」
「何ですか、マスター」
虚空から現れたのは、見たことの無い女性でした。
「卑弥呼って、あの卑弥呼ですか?」
「ええそうよ。 邪馬台国の女王、卑弥呼よ」
美人で、一般的な服を着ている。
とても卑弥呼には見えません。
「ああ、貴女がマスターの娘さんね?」
「あ、はい。 ウリアスフィールです」
「そう、貴女が。 マスターに良く似ているわね」
「よく言われます」
昔はそうでもなかったんですけどね。
どちらかと言うと、お父様似だったんです。
「さて、卑弥呼の宝具によって知ったのよ」
「宝具、ですか? 一体どのような……」
「真名は『民衆導く鬼道の神具』よ。 能力は過去・現在・未来、知りたい情報を知ることのできる」
「情報蒐集に特化した宝具ですか」
過去・現在だけでなく、未来までもを見るなんて、末恐ろしい宝具ですね。
「ええ。 でも、長時間の使用はできないし、未来の情報を見るのは時間がかかるの」
「魔力不足ですか?」
「そうよ。 八咫鏡は使っているだけで魔力を大量に消費するの。 特に未来を見るときはね。 私の魔力じゃあ、長く持たないの」
私は、アインツベルン家の中でも桁外れの魔力量を誇っています。
お母様は、魔力が比較的少ないので、その所為もあるのでしょう。
「なるほど、それで無人機のことを知っていたのですね」
「そういうこと」
「話を戻そうか。 その無人機、束ちゃんの作ったものなのだろう?」
束さんは、なぜか実家や別荘であるこの城にちょくちょくやってきます。
その所為か、束さんとお母様たちは仲がいいんです。
「そのようです。 束さんからメールが届きましたから」
「その無人機はもともとIS学園に向けて飛ばされていたんだ」
「え?」
束さん、貴女はなにをしているんですか?
どうしてわざわざ襲撃なんてしようとしているんですか。
「その途中、その無人機は暴走した」
「それであれですか」
思い出すのは無人機の乱入と一夏の奮闘。
「暴走した瞬間を見たんだけど、あれ、クラッキングによる暴走じゃないわ」
「……ということはつまり……」
「そう。 宝具によるものだ」
「しかし、機械を暴走させるなんて、どんな……」
「暴走を始める少し前、笛の音色が聞こえていたんだ」
「笛の、音色?」
「おそらく、その宝具の持ち主は『ハーメルンの笛吹き男』こと、魔法使いマグスだろう」
ハーメルンの笛吹き男は、ハーメルンの人々の依頼でねずみ退治を行った。
男は笛の音でねずみを引き付け、残さず川に溺死させ、依頼を成功させたと言います。
ですが、人々は報酬を出し渋ったため、男の怒りを買い、住民が教会にいる間に、街の子供たちを連れ去った。
130人もの少年少女は男の後ろについていき、洞窟の中に誘い入れられた。
洞窟には中から封印がされ、中に入った男も、子供たちも二度と戻ってこなかったと言われる。
一部、二人の子供が残された伝えられてもいます。
まあ、『ハーメルンの笛吹き男』についてはこんなところかな。
「しかし、機械を音で操る芸当が可能なのでしょうか?」
「可能なのだろう。 それが英霊という存在であり、宝具という逸脱した代物なのだから」
「問題は、どのようにして英霊を召喚したのか、ということよ」
「アインツベルンから儀式についての情報が漏れたとは考えられない。 たとえアインツベルンから儀式についての情報が漏れているとしても、相当の魔力が必要になるからほぼ不可能だ」
召喚の儀式には、相当の魔力が必要になります。
召喚する際にも膨大の魔力を消費し、たとえ出来たとしても、魔力が少ない者がやれば、即座に魔力切れで契約が破棄されてしまいます。
もしも、情報漏れがあるのなら、すぐさま伝わるはず。
なのに、そういった兆しは見られなかった。
「私の八咫鏡でも見れなかったわ。 靄がかかっているようで、その英霊と思しき正体、そしてその召喚者の姿は見れなかったの。 私の宝具を無効化する能力でも持っているのかもしれないわ」
「相手の戦力は未知数で、八咫鏡の力を遮断する能力を持っているってことよ」
情報戦で圧倒的な力を持つ八咫鏡を、無効化するなんて、相当厄介ですね。
考えられるのは、キャスタークラスの英霊、ということですね。
「厄介ですね……」
「卑弥呼の八咫鏡でも見れなかった以上、ウリアも警戒しておくように。 何かあったら私たちに教えてくれ」
「わかりました。 お父様たちも、何かわかれば教えてください」
「わかっているわ」
一応、千冬義姉さんに伝えるだけ伝えておきましょうか。
「私たちからの話は以上だ。 ゆっくり休むなり、好きに過ごすといい」
「わかりました」
とりあえず、休みましょう。
私は自分の部屋へと向かう。
途中、外を見たりしていると、アルトリアとシロウがいい雰囲気だったり、クーとお父様の英霊、フェルグスが戦ってたり、イスカンダルとギルガメッシュがお酒を飲み交わしていたりと、みんな各々で何かしていた。
「やっぱり実体化すると生き生きしてますね」
そうこうしているうちに部屋に着きました。
「たまにはこういうのもいいですね」
Side〜ウリア〜out