第十七話『黒兎と偽装者』
Side〜ウリア〜
「はい、わかりました。 では」
お父様からの連絡で、誕生日(ちなみに、私の誕生日は6月15日)の前日が日曜日なので、その日に継承として英霊召喚をするようです。
初めての英霊召喚で、成功すれば当主になるようです。
ただ、それは名前だけで、本格的な当主としての仕事は、IS学園を卒業してからのようです。
にしても、英霊召喚ですか……。
最初は聖遺物無しでの召喚で、自分と相性のいい英霊が呼び出すようです。
どんな英霊が呼び出されるのでしょうか?
まあ、それはやってみてからのお楽しみですね。
<……主>
っと、ハサンの報告が来ました。
(ハサン、デュノアの様子は?)
<未だに連絡はしない様子。 やはりデータを送ることに躊躇いを持っているようです>
ということは、デュノアは男装して転入したのは望んでいないようですね。
やはりデュノア社社長の命令でしょうか?
(……では、引き続き監視をお願いします)
<御意>
デュノアには常に二人のハサンをつけている。
これくらいの警戒は必要です。
もし外道なことをしてきたら、即対応できるように、ハサンを二人つけています。
「さて、一夏の所に行きましょう」
最近一緒にいれていませんからね!
<ウリアよ、それでも十分一緒にいるはずだぞ?>
<シロウ、諦めましょう。 ウリアスフィールは一夏にべったりなのですから>
<……そうだな。 言うだけ無駄であったな>
アルトリアとシロウが何か言っていますが、気にしませんよ。
気にしないったら気にしませんよ?
あ、一夏です。
抱きつきましょう。
「一夏〜」
「ウリアか。 どうした?」
「好きな人に抱きつくのに、理由が要りますか?」
「いらないな。 あ、そういえばウリア、誕生日の前日、休みなんだけど、どうするんだ?」
休日ですし、デートでもしたかったんですけどね。
「その日は城に行くことになっていまして……すみません……」
「あーそうなのか。 俺は行かない方がいいんだよな?」
「アインツベルンの継承をしなくてはならないので……。 悪いんですが、関係者以外に教えれないんです……」
いくら一夏と言えど、まだ見せれません。
英霊を見せる分ならまだいいんですが、召喚の儀式は駄目です。
「いや、いいさ。 その日は一緒にいれないけど、誕生日は一緒にいれるんだ。 俺だって、ウリアの家がどういうのなのかは、一応はわかってるからさ。 何するかは知らないけど、上手くいくといいな」
「はいっ」
「じゃあさ、その次の日曜にさ、出かけようぜ。 誕生日プレゼント、一緒に選ぼうぜ」
「はい、そうしましょう」
一夏とデート♪
それに一夏からの初めてのプレゼントです♪
「織斑一夏、ウリアスフィール嬢」
この呼び方とこの声は……。
「ラウラですか。 どうしたんですか?」
やっぱりラウラでした。
「織斑一夏、私と戦え」
「……何のためにだ? 無駄な争いはしたくない」
「言葉では表しにくい。 だが、お前と戦って確かめたいことがある」
「……わかった。 だが、月末にあれがあるだろ、学年別トーナメント。 どうせならそこで決着をつけようぜ。 模擬戦をしようにもなかなか場所が取れないし、そっちの方が思いっきりやれるだろ?」
確かに、思いっきりやるなら、邪魔がいないほうがいいですね。
「……わかった。 だが、私と戦う前に負けることだけは赦さん」
「わかってるさ。 お前こそ負けるなよ」
「ふん、誰に向かって言っている? 私を甘く見るな」
「お前こそ俺を甘く見るなよ」
一夏とラウラから火花が迸っているように見えます。
……疲れじゃありませんよね?
「二人とも、いがみ合ってないで鍛えたらどうです?」
「む、そうでした。 では、私はこれで」
ラウラは走り去っていった。
「さて、一夏もやりますよ」
「おう、そうだな。 ところでウリア、あいつに何か言ったのか?」
「少しですけどね」
まあ、内容は重いですけど。
「ふーん、そっか」
「じゃあ、ラウラに負けないように特訓しましょう。 ラウラは強いですよ?」
「それでも負けて堪るか。 ウリアに教えてもらっている俺が、そう簡単に負けては示しがつかないからな」
「一緒に頑張りましょう。 私も全力で応援しますから」
「ありがとな。 ウリアの応援があれば百人力だ」
嬉しいことを言ってくれますね。
「んじゃ、いっちょやりますか!」
「その意気ですよ、一夏」
どちらも頑張ってほしいですけど、一夏には勝ってほしいですね。
私は出られませんから、一夏の応援を全力でします。
あ、私が出られないのは強過ぎるせいらしいです。
千冬義姉さんにまぐれでも勝ってしまいましたからね、仕方が無いですね。
なので、一夏を応援します。
格好いい一夏が見たいですからね!
☆
「「「………………」」」
数日後、シャルル・デュノアの正体が一夏にばれました。
私はハサンの報告で知り、一夏の部屋に来ました。
「シャルル・デュノア、あなたはやっぱり女だったんですね」
「気づいてたんだ……。 いつから僕が女だって気づいたのかな?」
「初めからです。 あなたの行動も、すべて監視していました」
「……なら、どうして今まで放置していたの?」
「それはあなたが連絡するのを躊躇っていたからです。 現に、今日まで一度もデュノア社に連絡をしていない」
「ちょっと待ってくれ。 俺をおいて話を進めないでくれ。 どうしてシャルルは男装していたんだ?」
あ、一夏は知りませんでしたね。
私も詳しくは知らないんですが。
まあ、大方の予想は付きますけどね。
「実家からの……デュノア社の命令でね」
「デュノア社社長からの命令ですか?」
「うん。 僕の父がそこの社長なんだ。 その人からの直接の命令なんだ」
やっぱりですか。
にしても、どこか違和感が……。
「親って、どうして……」
「僕はね、愛人の子なんだ」
っ! そういうことですか……。
これで全部、繋がりました。
「その親はどうしようもないほどの糞野郎ですね」
「ウリア!?」
驚いていますね。
まあ、こういう言葉は滅多に言いませんからね。
「あなたは利用されているのでしょう? 実の娘なのにもかかわらず、愛人との子だという理由で道具として使っている。 そんな奴を糞と言って何が悪いんです?」
<胸糞悪いですね>
<外道だな>
<まったくだ>
「デュノア社の経営危機になったために、一夏と白式、アインツベルンのISのデータを盗んでこいとでも命令されたのでしょう? それと、男と偽装した貴女自身が広告塔となり、デュノア社の株を上げる。 そして、同じ男子ならば、一夏との接触が容易になる。 だから男装して編入してきた。 違いますか?」
「うん、そうだよ。 アインツベルンさんの言う通り、僕はあの人に一夏と白式、アインツベルンのISのデータを盗んでくるようにって言われていたんだ」
予想通りでしたね。
「一夏とアインツベルンさんにばれちゃったし、僕は本国に呼び戻されるだろうね。 デュノア社は、まあ潰れるか他企業の傘下に入るか、どの道今までのようにはいかないだろうけど、僕にはどうでもいいことかな」
「貴女はどうするんですか?」
「どうって、どうしようもないよ。 ばれるのも時間の問題だし、国にばれれば代表候補生をおろされて、よくて牢屋行きだよ」
「それでいいんですか?」
「良いも悪いも無いよ。 僕には選ぶ権利が無いから、仕方が無いんだよ」
諦めきっていますね。
まあ、当然といえば当然ですか。
<どうにかなりませんか? 彼女が可哀相です>
(手が無いわけではありません。 時間稼ぎくらいにはなります)
「なあウリア、なんとかならないか? そんな親に利用されているシャルルがかわいそうだ」
やっぱり、一夏は優しいですね。
あって間もない人のために手を探しているんですから。
「何とかなりますよ。 特記事項第二十一『本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。 本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする』。 つまり、少なからずは時間稼ぎにはなります。 多少は時間が稼げれば、後はアインツベルンの力で何とかなります」
「……えっと、まず、よく覚えれていたね。 特記事項って五十五個もあるのに。 それと、アインツベルンさんって家を動かせるの?」
「現当主……まあ私のお母様なんですが、超がつくほどに過保護なんですよ。 もし『私に手を出そうとした』なんて言ったら確実に終わります。 それに明日、私は継承の儀式を行います。 当主になればアインツベルンを動かすのは容易です」
私の両親はどちらも超過保護です。
だから『デュノア社がアインツベルンと私に手を出そうとした』なんて言えば確実にデュノア社を潰そうとするでしょう。
経済的にも、物理的にも、ね……。
「もっとも、決めるのはあなたですけどね」
「えっと、ありがとう、アインツベルンさん」
「私はあなたの親が赦せないだけです。 それと、一夏が言ったからです」
一夏がいなければ、ここまで即決はしていませんでしたよ。
「ありがとう、ウリア。 俺一人じゃあ手に負えなかった」
「一夏の頼みですから」
他ならぬ一夏の頼みです。
無視することはは出来ません。
「シャルル・デュノア、一つ言っておきます」
ちゃんと忠告しておかないといけませんね。
もちろん、殺気を出してです。
「な、何かな?」
「一夏に色目を使ったりしたら貴女もまとめて潰します。 一夏が何と言おうと潰します。 一夏は、私だけの彼氏ですからねっ」
「わ、わかったよ」
一夏は誰にも渡しませんよ、絶対に!
Side〜ウリア〜out