第十八話『英霊召喚』
Side〜ウリア〜
「ウリア、わかっているね?」
「はい。 すべて覚えています」
今日は6月14日の日曜日。
つまり誕生日前であり、私の試験の日でもある。
「……ならば始めよう。 アインツベルン家当主継承の儀式、『英霊召喚』を」
「はい」
私はお父様の後を追い、礼拝堂へと向かう。
そこにはすでにお母様がいた。
「聖杯は正常に動いています。 貴女は準備をしなさい」
聖杯。
アインツベルンの秘宝で、アインツベルンの城にしか存在しません。
初代アインツベルン当主が作り上げ、英霊召喚で重要な役割を持つ聖器と言われています。
「はい」
私はそこで水銀と自身の血で魔法陣の紋様を描く。
私の血は、過去に少しずつ血を抜いて保存してきたものと、今切って出てきた血を使っています。
血が多ければ多いほど、私に相性のいい英霊が呼ばれます。
だから、大量の血と水銀が必要なんですよね。
「うん、魔法陣はそれでいいね。 あとは最終段階の詠唱だ」
「はい」
詠唱はちゃんと覚えてきたし、私の魔力も十分。
私は一度目を閉じ、深呼吸をする。
落ち着いてやればなんの問題は無い……よしっ!
私は目を開け、詠唱を始める。
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。 繰り返すつどに五度。 ただ、満たされる刻を破却する―――」
「―――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば応えよ―――」
全身を巡る魔力の感触。
一般人では扱うことのできない異能の力。
その苦痛と悪寒に耐え、私はさらに詠唱を紡ぐ。
「―――誓いを此処に。 我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者―――」
「―――汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
呪禱の結びをつけるとともに、私は魔力の本流を限界まで加速させる。
そして、私の左手の甲に痛みが走り、あざの様な刻印が浮き出る。
目を開けていられないほどの光りが発し、召喚の紋様は燦然と輝きを放つ。
その光の奥から現れたのは、紅き髪と眼の青年。
「問う。 お前が俺のマスターか?」
私はその姿をしっかりと見ると言葉を失った。
なぜなら、その青年は私が愛する男性、織斑一夏に酷似していたからです。
髪の色と眼の色、身長は違いますが、目の前にいる男は一夏に似ている。
似すぎている。
「ウリア」
あっ、まずは自己紹介をしないといけませんね。
彼のことを聞くのは後にしましょう。
「あ、すみません。 貴方のマスターのウリアスフィール・フォン・アインツベルンです」
「ああ、よろしく」
やっぱり一夏にそっくりです。
「貴方の真名は何ですか?」
彼は一瞬悲しく、そして何かを悔いているかのような表情をすると、重く閉じたその口を開いた。
「……俺は、俺の名は……織斑一夏……未来の英霊だ……」
「っ!」
……やっぱり、やっぱり一夏でしたか……。
「ウリアに未来の一夏君。 まずは戻ってお茶にでもしよう」
「詳しい話はそこでしましょう」
「わかりました」
「了解」
落ち着いて話せた方が、今の私としても助かりますし、ちょうどいいでしょう。
☆
「話してもらってもいいですか?」
「ああ。 俺はさっきも言ったように、未来の織斑一夏だ。 この髪と眼は、血を被り過ぎた結果だ」
「血、ですか?」
「ああ。 その世界では戦争が起こったんだ。 その戦争は主にウリアとアインツベルンの英霊たちの力のおかげで被害を抑えて終戦したんだ。 だが、世界中の人々はその力を恐れた」
それをしゃべる一夏は凄く悲しく、苦しそうな表情でした。
「人々は理由をでっち上げてウリアを殺そうとした。 ウリアたちは交戦はしたが、決して相手を殺そうとはしなかった。 だが、相手は世界だ。 圧倒的な数でウリアを攻め続け、英霊たちはウリアの魔力切れでまともに動けなくなり、結果的に……殺された」
「っ! ……一夏は、貴方はどうしていたのですか?」
「……俺はひたすらに敵を追い払っていた。 で、俺は奴らの中枢機関を破壊するためにウリアから離れていたんだ。 だが、その間にウリアは殺されてしまったんだ。 ……そして俺はそれを認めれず、ただただ暴れまわった。 俺は錯乱して、目に見えた敵をことごとく殺した。 その返り血を浴び続けた結果がこの髪と眼だ。 俺は守れなかったんだ……ウリアを守り抜くって誓ったのに……!」
……だから貴方はそんなに苦しんでいるんですね。
「……一夏君、一ついいかい? 私たちはどうなったんだい?」
「それと、私たちを殺すなんてほぼ不可能なはずです。 今はドイツの方にいますが、最強の英霊であり、神にも等しい存在の英霊がいるのですが、彼はどうしたんですか?」
確かにいますね。
先代たちの当主たちが受け継いできた、最強のイレギュラーの英霊が。
「貴方たちも結果的に死にました。 確かに最強の英霊はいました。 だけど、それを操っていたのはウリアだったんです。 彼の力は絶大ですが、使う魔力の量が半端ではない。 いくら、当時滅茶苦茶な魔力を持っていたウリアでさえも、殺さずに追い返すのに神経を使い、ただでさえ魔力を使う存在である葉王を使い続けて疲労していったんだ。 それに危機感を覚えた俺が離れているときに……」
「私が殺された、と」
「……ああ。 そして、奴らはアインツベルンのみんなをも殺しにかかった。 俺は誰一人守れず、最後まで生き残った。 そして俺は、ウリアを殺した世界への復讐のために世界と契約して、ウリアを殺した存在を殺し尽くした。 そして、最後は後悔に埋もれて死んでいったんだ……」
だから、反英雄として、人々に語られる存在として呼び出されたんですね。
しかし謎もあります。
「その世界の私はなぜ魔力負担の大きい葉王を使い続けたのでしょうか? 私のISの『サーヴァント』には他の英霊もいますし、『サーヴァント』に組み込まれた英霊たちの魔力負担は通常よりも少ないはずです」
私の魔力量は、英霊を二十人ほど同時契約できるだけの魔力があります。
まあ、その時は宝具の真名開放は五人程度しか使えないでしょうが、それでもそれだけの魔力があります。
それだけの魔力があって、どうして私は超短期決戦特化型の葉王を使い続けたのでしょうか?
追い払うだけならば、葉王を使う必要は無かったはずです。
「……これはあくまで俺の推測だ。 ウリアたちは、英霊という存在をなくしたかったのかもしれない」
「え?」
私が、英霊の存在を否定した?
「ウリアが狙われる原因となった第三次世界大戦。 それを起こしたのは亡国機業。 そして、亡国機業が戦争を起こした際にいたのが英霊だったんだ」
「「「っ!?」」」
それには私も、お父様、お母様も驚きました。
「完全なイレギュラーな召喚により呼び出されたのが『ハーメルンの笛吹き男』なんだ。 そいつの宝具により、さまざまな人、およびISが操られた。 それを倒したのがウリアと英霊たちだったんだ」
「そして、その戦争が多少癒えたころにウリアたちが狙われ始め、さっき言ったように殺されていった。 そして、ウリアが殺された時には、聖杯は粉々に砕け散っていた。 すべての英霊が消えたのも、ウリアが死んだのとまったく同じ。 契約者が死んでも、少しは残る英霊が、同時に消えたんだ。 まるで、ウリアの命と聖杯が繋がっていたかのように」
「君は、ウリアが殺されたところは見ていないのではなかったのかい?」
「俺は暴れたんだが、捕まったんだ。 そして、ウリアが殺される瞬間を見せられた。 俺の精神が完全に死ぬまで、何度もな。 そのときに気づいたんだ。 英霊も同時に消えたことに」
私が殺されるのを何度も……。
「だから俺は思ったんだ。 ウリアは戦争が終わったころから、狙われ始めたころから死ぬつもりだったんじゃないかって」
「なるほど、そういうことか。 私たちの持つ魔力は一般人は普通は手に入れることのできない。 それに英霊という存在はあまりにも強力で異形。 優しすぎるウリアは自らを犠牲にし、新たな争いの種になり得る英霊という存在、そしてアインツベルンという異形な存在をなくそうとしたんだね」
「しかも、ウリアが愛した一夏君に黙って」
「しかし、これは俺の推測です。 俺は何も聞かなかったし、後悔を残して死んでいったんですから……」
「……貴方はこうして英霊として呼ばれましたが、何が目的なんですか?」
確かに、一夏ならば私との相性はいい。
どんな英霊よりも、私と一夏の相性はいいでしょう。
ですが、目的が一切無く呼び出されることはおそらく無い。
「俺は、ウリアの死ぬ運命を覆したい。 この世界の俺を、俺みたいにしたくない。 この世界の未来を、俺の世界みたいな世界にしたくない」
やっぱり一夏は一夏ですね。
優しい人間です。
「なら、それは私たちも応援しましょう。 自分たちが死ぬのも、ましてやウリアが殺されるのは耐えられませんからね」
「この世界は君の世界のような運命にしない。 絶対にね」
「私もです。 一夏と楽しい時間を過ごせずに死ぬのは、絶対に嫌です。 そんな未来、私たちの手で覆しましょう」
それが、悲しい未来の一夏を呼び出した私の運命。
そして、明るい未来にするための使命。
「ああ!」
貴方だけを残して死にたくはありませんしね。
Side〜ウリア〜out