第十九話『現在と未来の一夏』
Side〜ウリア〜
英霊召喚により、IFの未来の世界の一夏を呼び出した次の日。
つまりは私の誕生日で、月曜日。
「ウリア、その左手の包帯どうしたんだ?」
左手の包帯。
それは、私が英霊召喚をして左手の甲に現れたマスターの証『令呪』を隠すためのものです。
まだ完全に令呪を隠す術式が馴染んでいない為、包帯で隠してあるんです。
ちなみに、血を出すために切った傷は、お母様の治癒魔術で完治しています。
「昨日のちょっとありまして。 ここでは話せないので、二人っきりのときにでも」
「おう、わかった。 そういえば、上手くいったのか?」
「はい、おかげさまで」
未来の一夏―――本人曰く『後悔する者』と呼んで欲しいとの事―――は他の英霊たちとは違い、私のISには入らず、範囲無しで動ける。
ISに入らないのは私の自由を妨げずに行動するためだとのこと。
他の英霊と比べると、ほんの僅かですけど魔力の消費が多いけど、私の保有魔力量の前では、全く支障は無いので問題ないです。
『昔の俺か。 懐かしいな』
『懐かしいですか。 一夏を鍛えることについては大丈夫ですか?』
『大丈夫だ。 ただ、人の目があるとISは使えないな』
確かにそうです。
彼のISは宝具と化しており、そのため普通のISとではスペックが違いすぎる。
現に【英霊・アルトリア・ペンドラゴン】で戦ったのに負けましたし。
威力を抑えていたとはいえ、『約束された勝利の剣』を真正面から受け止められましたし。
宝具のスペックもですが、リグレーターの技量も高く、その実力は本物でした。
私に勝ったときは『ウリアに勝てた』って泣いて喜んでいましたが。
どうやら、その世界の私に、結局一度も勝てなかったようです。
いくらISが宝具化していないとしても、彼は純粋に強かったんです。
それなのに、一度も勝てなかっただなんて……その世界の私、どれだけ強いんですか……。
『滅茶苦茶強かった。 今のマスターも十分強いが、俺の世界だともっと強くなっていたぞ。 いくら俺が頑張っても勝てなかったし。 てか、俺がマスターに勝てたのはスペックの差が大きいと思うぜ』
『確かに宝具化したISは強かったですからね』
リグレッターの宝具は『白式』ではありませんでした。
コアは同じなのに、全く違う機体と化していました。
『もし同じスペックだったら苦戦していたさ。 俺の技量は今のマスターより少し上くらいだし』
『よく言いますね。 それで私の攻撃をことごとく避けたくせに。 ほとんどダメージを与えられなかったんですよ? 私』
『いや、俺にダメージを与えれる方がおかしいって。 これでも千冬姉を無傷で倒せるくらいには強くなってたんだぞ?』
千冬義姉さんを無傷って……。
リグレッター、貴方という人はどれほど強くなっているんですか……。
と言うより、千冬義姉さんを無傷で倒せるほどに強いのなら、リグレッターの技量は私より少し上程度じゃあありません。
<それにダメージを与えた君が異常だと言う事に気づけ>
<シロウ、それはウリアスフィールの努力の賜物です。 それに、私も一緒に戦っていましたから>
<かの騎士王を倒すとは、中々の実力ではないか>
<それは彼の努力の賜物。 主を守るために手に入れた力なのだから>
<それでも結局守れなかったがな。 故に哀れ>
<この世界には絶対はない。 たまたまそういう運命であっただけだろう>
そう、ここにいる一夏―――リグレッターはたまたま私が死んでしまう未来になってしまっただけ。
リグレッターの望みが『私の死の運命を覆す』ことならば、そうなるようにするだけ。
「一夏、今日はいつとは少し違う特訓をしますからね」
「おう。 わかった」
私だって、一夏と別れて死ぬのは嫌ですしね。
☆
「で、今日は何をするんだ?」
「模擬戦です。 ただし、相手がいつもの私だと思わないでくださいね」
今回の相手は、私であって私ではありません。
『やりますよ』
『だが、本当にいいのか?』
『はい。 これも貴方の望みを叶えるためです』
『……わかった』
「憑依……」
「!!」
特殊な術で、英霊を体に憑依させるものです。
そして、私の白銀の髪は紅く染まる。
元から赤い目も、少し暗い色となります。
ISでの展開の場合、私が操り、英霊の力のすべてを出すことはできない。
だから憑依をさせ、英霊の力を十全に使えるようにします。
ただし、体は私のものなので、100%英霊の動きではありません。
だって体の大きさや力の違いなど、いろいろ違いがありますからね。
だから、私の体に負担が掛かってしまいますが、それは気にしません。
だって一夏のために、一夏が憑依するんですから。
「安心しな。 俺はマスターの体に憑依しているだけで、問題はほとんど無い」
私の声でリグレッターの口調になる。
……自分で聞いていて、違和感満載ですね。
「そっか、それなら良かった。 で、ウリアに憑依しているのは英霊って奴だよな?」
「ああ。 俺は昨日召喚された英霊だ。 俺は俺の目的のためにやらせてもらうぜ? ちなみに、マスターの了承も得ているからな」
「いいぜ。 やってやるよ」
「さて、目覚めろ『黒騎士』」
どこからとも無く現れた黒いガントレットから一瞬光り、漆黒の装甲に包まれ、白き翼が生える。
これが【英霊・織斑一夏】の宝具にて彼の剣『黒騎士―堕天―』。
『白式』と同じコアの機体です。
この機体になったのは、世界に復讐するために世界と契約した時だそうです。
つまり、未来の私が死んだ後ですね。
「行くぜ!」
「おう!」
私に憑依した未来の一夏と、現代の一夏がぶつかり合う。
白き騎士と黒き騎士。
二人の実力、機体スペックの差はあまりにも大きい。
リグレッターは一夏を試している。
一夏の実力を確かめているんですね。
私はしばらく観戦しましょうか。
☆
「大丈夫ですか?」
「………………」
特訓が終わって一夏は屍と化していました。
リグレッターの特訓が異常なほどにきついみたいで、ピットまで運んだんですが、しゃべれることもできないようです。
『……少しやりすぎたか?』
『少しじゃなくて大分ですっ!』
ちなみに、リグレッターは私に負担が掛からないように自重してくれていました。
やっぱり一夏ですね。
出来れば、一夏に対しても少しは自重してくれたらよかったんですけど。
「一夏、起きてください。 ここで寝ては風邪を引いてしまいます。 頑張ったご褒美をあげますから起きてください」
「(ピクッ!)」
あ、反応しました。
「抱きつくでもキスでも何でもしますから、だから起きてください」
「……今すぐ……動きたいのは……山々……なんだが……体が……動かん……」
『リグレーター……』
『……すまん』
一夏がキスを聞いても動けないなんて、一度もありませんでしたよ?
どれほど疲れているんですか……。
「……仕方がありませんね。 少しここで休んでから戻りましょう」
私は一夏の汗を拭き、スポーツドリンクを自分の口に含む。
そしてそのまま一夏の顔に近づける。
「むふぅ!」
まあ、俗に言う『口移し』です。
それを何度か繰り返し、一夏の頭を私の膝の上に乗せる。
膝枕ですね。
「一夏、大丈夫ですか?」
「おかげさまでな。 だけど、もう少しこのままでいさせてくれ」
僅か三十秒ほどで普通にしゃべれています。
驚異的な回復力ですね。
「いいですよ。 今日はいつもより早いですから、まだ時間はありますよ」
あまりにもリグレッターの特訓がきつかったらしく、いつもより三十分近く早く終わりました。
いつもなら一夏にも余裕があり、時間ぎりぎりまでやっていたんですが、今日は三十分も早く終わり、その原因が一夏のスタミナ切れ。
……もう少し易しくしましょうよ、リグレッター。
『ああ……。 さすがにやりすぎたと思っている』
リグレーターもそう感じているみたいですね。
「んー! ふっかぁぁぁつ!!」
そしてさらに一分後、一夏が復活しました。
もう元気ハツラツですね。
「もう大丈夫なんですか?」
「おう! ウリアのおかげであの疲れがぶっ飛んだぜ!」
死にかけの感じだったのに、たったの一分三十秒でここまで回復するなんて、これが愛の力ですかっ!
……もう私も一夏も常識から外れてしまっている気がします。
「それならよかったです。 では、戻りましょう」
「おう、そうだな」
でも、一夏への愛に終わりはありません!
Side〜ウリア〜out