第一話『再会』
「全員揃ってますねー。 それじゃあSHRを始めますよー」
そう言うのは、『子供が無理して大人の服を着ました』的な不自然さを持っている、担任の山田真耶先生。
「それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますね」
「………………」
誰も答えません。
原因は、ここにいる唯一の男性で、私の初恋の相手の織斑一夏がいるからです。
唯一の男性であるが故に、クラスの視線は全て彼に向けられています。
まあ、私も見ているんですけどね、だって一君とっても格好よくなってるんですもの。
「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。 えっと、出席番号順で」
少し待つと、私の番になりました。
「ウリアスフィール・フォン・アインツベルンです。 よろしくお願いします」
私に気づいてくれるかな?
一君は今この空気に飲まれちゃってるから気づかないかな?
まあ、後で話しかければいいかな。
Side〜一夏〜
キツイ、これは想像以上にキツイ!
男が俺だけってこれだけ視線を集めるものだな。
「……くん。 織斑一夏君っ」
「は、はいっ!?」
いきなり大声で名前を呼ばれたので思わず声が裏返ってしまった。
案の定、くすくすと笑い声が聞こえてきた。
く、くそぅ、ミスった……。
「あっ、あの、お、大声出しちゃってごめんなさい。 お、怒ってる? 怒ってるかな? ゴメンね、ゴメンね! でもね、あのね、自己紹介『あ』から始まって今『お』の織斑君なんだよね。 だからね、ご、ゴメンね? 自己紹介してくれるかな? だ、駄目かな?」
山田先生はぺこぺこと頭を下げる。
この人、本当に先生なのだろうか?
同級生と言われても納得する自信があるぞ。
「いや、あの、そんなに謝らなくても……っていうか自己紹介しますから、先生落ち着いてください」
「ほ、本当ですか? 本当ですね? や、約束ですよ。 絶対ですよ!」
俺の手をとり詰め寄る先生。
凄い注目されるんですけど……。
うわ、すっげー視線。
「えー……えっと、織斑一夏です。 よろしくお願いします」
『もっと喋ってよ』と言う空気が流れている。
だが、話すことが何も無い。
………しばらく考えたが何も無い。
助けを求めて幼馴染の箒を見るが、目をそらされた。
あ、あれ?
あの子、もしかして……。
い、いや、まさかな。
だって、あの子がここにいる訳が……。
……っと自己紹介の最中だったな。
「……以上です」
女子数名がずっこけるが、俺にとってはどうでもいい。
彼女があの子なのかが気になって仕方が無い。
っ! 殺気!
パシッ!
この攻撃の鋭さ、重さ、間違いない!
「ほう、防ぐか」
黒スーツにタイトスカート、すらりとした長身、狼を思わせる鋭いつり目。
間違いない。
俺の実の姉なのだが、職業不詳で月一、二回しか家に帰ってこないのだ。
だけどなんでここに?
「……やっぱり千冬姉だったか」
パシッ!
「織斑先生と呼べ。 馬鹿者」
もう一度出席簿が振り下ろされるが、それをも防ぐ。
別の目的で鍛えているんだが、まさかそれがこんなところで役立つとは。
「あ、織斑先生、もう会議は終わられたのですか?」
「ああ、山田君、クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」
俺は聞いた事のない優しい声だ。
まさか……影武者?
いや、それはないか。
あんな攻撃が出来るのはそうはいないし、千冬姉そのものだ。
「い、いえっ。 副担任としてこれくらいはしないと……」
山田先生は若干熱っぽくなった。
……そっちの気があるわけではないよな?
「諸君、私が織斑千冬だ。 これから一年間で君達を使い物にするのが私の仕事だ。 私の言う事はよく聞き、よく理解しろ。 理解出来ない者は出来るまで指導してやる。 私の仕事は弱冠15歳を16歳までに鍛え抜くことだ。 逆らっても良いが、私の言う事は聞け、いいな」
なんという暴力発言。
教師有るまじき発言だと思うぞ、我が実姉織斑千冬よ。
……何のキャラだ、コレ?
まあいいや。
「キャーーーーーーー! 千冬様、本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした!」
「私、お姉様に憧れてこの学園から来たんです! 北九州から!」
「あの千冬様にご指導いただけるなんて、嬉しいです!」
「私、お姉様の為なら死ねます!」
キャアキャア騒ぐ女子達を、千冬姉はうっとうしそうな顔で見ている。
こういうの、あまり好きじゃないからな、千冬姉は。
「……毎年、よくもこれだけ馬鹿者共が集まるものだ。 感心させられる。 それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」
人気は買えないんだから、もうちょっと優しくしようぜ?
……言っても無駄だろうけど。
「きゃあああああっ! お姉様! もっと叱って! 罵って!」
「でも時には優しくして!」
「そしてつけあがらないように躾をして〜!」
このクラスは変態さんが多いのか?
ノーマルだよな? ノーマルもいるといってくれ!
俺は変態さんの軍団の中で生きる自信が無いぞ!
「で? おまえは挨拶も満足にできんのか、お前は」
「いや、千冬姉、俺は――――」
パシッ!
本日3度目。
俺、止めてなかったらもう脳細胞が一万五千個死んでるぞ?
「織斑先生と呼べ」
「了解です、織斑先生」
俺と千冬姉が姉弟なのがばれた。
「え……? 織斑君って、あの千冬様の弟……?」
「それじゃ世界で男で『IS』が使えるって言うのもそれが関係して……」
「ああっ、いいなぁっ。 代わってほしいなぁっ」
最後のは放っておこう。
放っておくべきだ。
「さあ、SHRは終わりだ。 諸君らにはこれからの基礎知識を半月で覚えてもらう。 その後実習だが、基本動作は半月で体に染みこませろ。 いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」
なんという鬼教官だ。
「席に着け、馬鹿者」
馬鹿で結構です。
Side〜一夏〜out
Side〜ウリア〜
一君、強くなってるみたい。
あの千冬さんの攻撃をああも防ぐなんて、早々出来ないのに。
<ますます惚れましたか?>
(うん。 写真で見るよりもずっと格好いいしね)
<その恋が実るといいな>
(うん。 ……一君、覚えているかな?)
あ、彼らはアインツベルンが創った私の専用機『サーヴァント』の人格たち。
アインツベルンが過去に召喚した英霊たちらしい。
神話に出てきた英霊たちの力を貸してもらうことができるのが、私のISの強みなんだ。
キーンコーンカーンコーン。
あ、一時間目が終わった。
一君はダウンしていた。
大丈夫かな?
<主よ、話しかけなくてもよろしいのですか?>
(あ、そうですね)
私は席を立ち、一君の席に行く。
「ちょっといいかな?」
私以外にもう一人、一君に話しかけようとしていた子がいたけど、私は確かめずにはいられない。
「はい? ……っ!(ガタッ!)」
一君は私を見ると驚いて席を立った。
周りは何事かと見てるけど、気にしない。
そんな些細なことは、気にしていられない。
「覚えてる……かな?」
「ウリア、なのか……?」
「うん、そうだよ。 久しぶりだね、一君」
「本当に、ウリア……なんだな?」
「そうだよ。 幼稚園のころに別れた、ウリアスフィール・フォン・アインツベルンだよ」
「久しぶり、ウリア。 俺、ずっと覚えていたぞ。 ウリアと別れてから十年間、ずっと」
「うん……私もずっと忘れなかった……」
よかった、一君が私のことを覚えていてくれて……。
涙が出そうですけど、ここでは我慢します。
<おめでとうございます、ウリアスフィール>
<まだ早いぞ、アルトリアよ。 それはウリアの恋が実ってから言うべき台詞だとは思わないかね?>
<ほう、わかっているではないか>
<イスカンダル、私は鈍感であったが、それは過去の話だぞ。 それに、流石にそれくらいは俺でもわかる>
<新顔英霊が言うではないか>
<無駄な言い争いをするな。 我らは主に仕えるだけであろう>
<間違っているぞ、ディルムッドよ。 余は仕えてはおらぬ。 この契約は余たちの気分次第だ>
<イスカンダルの言うとおりだ。 現にギルガメッシュは現界しているが、力を貸すことは滅多にない>
<そういえばそうだったな>
このISに宿る英霊たちの中でも群を抜いて最も強い力を持つギルガメッシュは、滅多なことがない(ていうか、二回しか使ったことが無い)と力を貸してくれないから困ります。
『我の宝物をそう簡単に使おうとは片腹痛い』とか言うから、ギルガメッシュの力はほとんど使えず仕舞い。
人類最古の英雄王はいつになったら私にちゃんと力を貸してくれるのでしょうか?
「これからもよろしくね、一君」
「ああ、よろしく。 あと、一夏でいいぞ」
「今はまだ一君のほうがいいからこのまま」
「そうか」
キーンコーンカーンコーン。
「時間みたいだから、また次の時間にね」
「おう」
私と一君の繋がりが切れて無くてよかった〜。
Side〜ウリア〜out