小説『IS インフィニット・ストラトス 〜銀の姫と白き騎士〜』
作者:黒翼()

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第三十話『夕食と一夏の部屋で』



Side〜ウリア〜

「うん、うまい! 昼も夜も刺身が出るなんて豪勢だなぁ」

「はい、本当においしいですね」

現在は七時半。
大広間三つを繋げた大宴会場で私たちは夕食を取っています。
私の右隣には一夏がおり、左隣にはラウラがいます。

「ラウラ、おいしいですか?」

「はい。 生で食材を食べることはサバイバルくらいだと思っていましたが、中々おいしいです」

サバイバルですか。
ラウラらしいと言えばラウラらしいですけど、女の子らしくありませんね。

「あー、うまい。 しかもこのわさび、本わさじゃないか。 すげえな、おい。 高校生のメシじゃねえぞ」

流石主夫でもある一夏ですね。
よくわかるものです。

「お兄様、本わさ、とは何ですか?」

「ラウラは知らないのか。 本物のわさびをおろしたものを本わさって言うんだ」

「本物? では、贋物もあると言うことですか?」

「ああ。 練りわさって言って、原料は確か、ワサビダイコンやセイヨウワサビとかだっけな。 それを着色したり、合成したりして見た目や色を本物に似せたものがあるんだ。 ちなみに、IS学園で出てくるのは練りわさだ」

よく知ってますね。
流石は主夫です。

「あれは贋物なのですか。 おいしかったのですが」

「ああ、練りわさも最近じゃあおいしいものが多くなったんだ。 店によっては本わさと練りわさを混ぜて出すところもあるからな。 必ずしも練りわさがまずいわけじゃないんだ」

「そうなのですか。 はむ」

……え?
ラウラ、今、わさびの山を食べませんでしたか?

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

涙目になって鼻を押さえるラウラ。
そんなラウラも可愛いんですが、何をしているんですか……。

「ラウラ、お茶です」

「あ、ありがとうございます」

ラウラはお茶を受け取るとずずずっ、とお茶をすする。

「もうっ、わさびの山を食べるなんて、何をしているんですか。 わさびの辛さは知っているでしょう?」

「す、すみません……。 つ、つい本物と贋物の違いが気になりまして……」

「だからと言ってわさびの山を食べるなよ……。 食べるなら食べるで少量でいいだろうに……」

一夏は苦笑いしています。

「つ、つい……」

ついでわさびの山を食べたんですね……。

「に、にしても、お兄様は詳しいですね……」

「まあ、料理はよくしてきたからな。 それでだよ」

「まあ、千冬義姉さんはあれらしいですからね……」

私はボソッと言う。
曰く千冬義姉さんは家事が駄目らしいみたいなんです。
料理や掃除が苦手なそうです。
いつもは強く凛々しい千冬義姉さんの意外な弱点です。
まあ、弱点と呼べるほどのものではないんですけどね。
まあ、女性としては欠点ですけどね。


Side〜ウリア〜out


Side〜一夏〜

「ふ〜、さっぱりした」

食後に温泉とはなんという贅沢だろうか。
家事向きで風呂好きな俺としては贅沢である。
上機嫌で部屋に戻ると、誰もいなかった。

(千冬姉も温泉かな?)

あ、ちょうど帰ってきた。

「ん? 一人か? アインツベルンは連れ込んでおらんのか。 お前なら押し倒しているだろうと思っていたんだがな。 つまらん」

「いや、確かに後で来るけど、押し倒すって……教師の台詞じゃ……それにつまらんって……」

ここ、千冬姉の部屋なんだぜ?
一人部屋ならまだしも、そういう行為はできないって。
ちなみに、やっぱり千冬姉も風呂に入っていたみたいで、髪の毛が濡れていた。

「なあ、千冬姉」

ごすっ。
イテェ、チョップが飛んできた。

「織斑先生と呼べ」

「まあ、それはいいじゃん。 今は二人きりだし、風呂上りだし、久しぶりに―――」


Side〜一夏〜out


Side〜ウリア〜

私は一夏の部屋……千冬義姉さんの部屋に向かっているんですが、私は目的の部屋の前で奇妙な光景を目にしました。
箒、鈴、セシリアが部屋の入り口のドアに張り付いているんです。

「……えっと……何を、してるんですか?」

これは訊いておきませんと。
よりによって一夏と千冬義姉さんの部屋を盗み聞きなんて……。

「「「………………」」」

……あのー、沈黙ですか?
すると、ドアの向こう、部屋の中から声が聞こえてきました。

『千冬姉、久しぶりだからちょっと緊張してる?』

『そんな訳あるか、馬鹿者。 ―――んっ! 少しは加減をしろ……』

『はいはい。 んじゃあ、ここは……と』

『くあっ! そ、そこは……やめっ、つぅっ!!』

『すぐに良くなるって。 大分溜まってたみたいだし、ね』

『あぁぁっ!』

ああ、この声の所為ですか。

『マスター』

『リグレッター? 何ですか?』

『一夏が千冬姉にマッサージしているんだ』

『あ、やっぱりそうですか』

一夏が千冬義姉さんに手を出すわけありません。
もし万が一していたのなら、一夏も千冬義姉さんもまとめてギルガメッシュの『乖離剣』による『天地乖離す開闢の星で(エヌマ・エリシュ)』で……。

&lt;おい、我(オレ)の唯一無二の『エア』をそんなことのために使うでは……&gt;

(はい? ギルガメッシュ? 何か文句でも?)

&lt;……いや、無い&gt;

&lt;&lt;&lt;『あのギルガメッシュを黙らせた!?』&gt;&gt;&gt;

英霊たちが何か言っていますが、いくら千冬義姉さんでも一夏に手を出したら容赦はしません。
情けもかけません。
問答無用で『乖離剣エア』をぶっ放します。
まあ、今はただのマッサージなので気にしませんが。
というより、そんなことがあるとは思えません。

「「「………………」」」

三人は未だにドアに張り付いています。
どうしてそういう考えしか出来ないんでしょうか?

『じゃあ次は―――』

『一夏、少し待て』

あ、気配が近づいてきています。

バンッ!!

「「「へぶっ!!」」」

ドアに殴られた三人は、十代女子とは到底思えない悲鳴を上げました。

「何をしているか、馬鹿者どもが」

「は、はは……」

「こ、こんばんわ、織斑先生……」

「さ……さようなら、織斑先生っ!!」

脱兎の如く逃走をしようとしますが、鈴と箒は首根っこを取られ、セシリアは浴衣の裾を踏まれて停止。
流石千冬義姉さんです。
素晴らしい早業です。

「盗み聞きとは感心しないな。 ん? なんだ、お前もいたのか」

「はい。 ここに来たら三人がドアに張り付いていたものですから」

「そうか。 では、お前は一夏と二人っきりで楽しんでいるといい」

『一夏』ってことはプライベートモードですね、これは。

「二人っきりですか? 千冬義姉さんは?」

「私はこいつらを少しばかり説教をな。 まあ、小一時間ばかりは戻るつもりは無い。 ゆっくりしていけ」

「あ、はい」

そんなにお説教されるんですか。
ご愁傷様です。

「後、声には気をつけろよ」

「はいっ!?」

ち、千冬義姉さん!?
最後に爆弾発言を残していった千冬義姉さんは、三人を連れて何処かへ行きました。

「お、ウリア。 待ってたぜ」

「お、お邪魔します」

私は一夏だけとなった部屋に入ります。
一夏はベッドに座っていました。
千冬義姉さんはああ言ったのは、するのは構わんってことなんですか……?
私は一夏の傍にまで行きます。

「ウリア」

「はい? きゃっ」

一夏に呼ばれたと思ったら腕を取られ、ベッドに押し倒されました。

「え、えっと、一夏?」

「千冬姉は一時間近く戻ってこないんだろう? だから、ちょっとだけ。 それに、あんな風に言ったってことは、してもいいってことだろ?」

た、確かにそんな風に言っていましたけど……。

「こ、ここでやるんですか……?」

「本番はしないさ。 ただ、こういうのも悪くないだろう?」

背徳感を感じながらしたいのでしょうか……?
ここ、さっきもそうでしたように、かなり声が漏れるんですよね。
流石にそれは恥ずかしいです。

「え、えっと……少し退いてくれませんか?」

この部屋に結界を張れればいいんですが、これでは出来ません。

「あ、やっぱ嫌だった?」

「い、いえ、そうでは無いんですけど、せめて結界を張らせてくれませんか?」

一夏には多少なりとも私たちアインツベルンのことは教えてあります。
令呪のことを話したついでに、ほんの僅かですけど教えておいたんです。

「おう、わかった」

一夏は私の上から退き、私はぱぱっと術式を完成させて発動させる。
これで音漏れは心配ありません。

「もう大丈夫です」

「早いな。 じゃあ、やるか」

「あ……」

ドサッと私はまた押し倒される。

「もうっ、強引なんですから……」

「満更でもないだろ?」

「相手が一夏だからなんですからね?」

一夏以外に押し倒されるなんてありえません。
一夏だから抵抗しないんですからね。

「ウリア……」

「一夏……」

それから私たちは、三十分ほどそういう行為をしました。
その後、換気をしたり、雑談などをしていると、千冬義姉さんは本当に一時間程度で戻ってきました。
帰ってきたときの反応からしてみて、私たちがそういうことをすることを望んでいましたね。
千冬義姉さん、貴女は本当に私たちをどうしたいんですか?


Side〜ウリア〜out


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