小説『IS インフィニット・ストラトス 〜銀の姫と白き騎士〜』
作者:黒翼()

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第三十一話『『天災』乱入と異常事態』



Side〜ウリア〜

合宿二日目、今日は午前中から夜まで、丸一日ISの各種装備試験運用とデータ取りになります。
特に専用機持ちは大量の武装が送られてくるのですが、私はありません。
『サーヴァント』はそういうのはありませんからね。
あるのはかの豪傑な英霊たちの力だけです。

「ようやく全員集まったか。 ―――おい、遅刻者」

「は、はいっ」

今日は珍しくラウラが寝坊をしたようです。
本当に珍しいですね。
何かの前触れでしょうか?

「そうだな、ISのコア・ネットワークについて説明してみろ」

「は、はい。 ISのコアはそれぞれ相互位置情報交換のためのデータ通信ネットワークを持っています。 これは元々広大な宇宙空間における相互位置情報交換のため設けられたもので、現在はオープン・チャンネルとプライベート・チャンネルによる操縦者会話など、通信に使われています。 それ以外にも『非限定情報共有(シェアリング)』をコア同士が各自に行うことで、様々な情報を自己進化の糧として吸収しているということが近年の研究でわかりました。 これらは製作者の篠ノ之博士が自己発達の一環として無制限展開を許可したため、現在も進化の途中であり、全容は掴めてはいないとのことです」

「さすがに優秀だな。 遅刻の件はこれで許してやろう」

胸をなでおろすラウラ。
千冬義姉さんの恐ろしさを軍でも味わっていたのでしょう。

「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。 専用機持ちは専用パーツのテストだ。 全員、迅速に行え」

一学年全員が並んでいるので、かなりの大人数です。
傍から見ればかなり奇妙な光景でしょうね。
全員がISスーツを着ているため、なんかエロチックです。

「ああ、篠ノ之。 お前はちょっとこっちに来い」

「はい」

「お前には今日から専用―――」

「ちーちゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!」

こ、この声は!
一夏も気づいたのか、苦笑いをしています。

ずどどどど……! と砂煙を上げながら走ってくる人影が一つ。
あの千冬義姉さんをあんな呼び方をするのはこの世界でただ一人―――

「……束」

そう、昨日にんじんから出てきた束さんです。
というより、ここって関係者以外立ち入り禁止ですよね。
まあ、束さんにそんなことは通用しませんけど。

「やあやあ! 会いたかったよ、ちーちゃん! さあ、ハグハグしよう! 愛を確かめ―――ぶへっ」

飛び掛った束さんの顔面を片手で掴む千冬義姉さん。
その指は思いっきり食い込んでいます。
容赦ありませんね。

「うるさいぞ、束」

「ぐぬぬぬ……相変わらず容赦のないアイアンクローだねっ」

それからあっさり抜け出す束さん。
流石、というべきでしょう。
で、その束さんが次に向いたのは実妹の箒です。

「やあ!」

「……どうも」

「えへへ、久しぶりだね。 こうして会うのは何年ぶりかなぁ。 おっきくなったね、箒ちゃん。 特におっぱいが」

がんっ!

「殴りますよ」

「な、殴ってから言ったぁ……。 し、しかも日本刀の鞘で叩いた! ひどい! 箒ちゃんひどい!」

……どうして日本刀を持っているのでしょうか?
というより、どこから出したのでしょうか?
さっきまで持っていませんでしたよね?

「え、えっと、この合宿では関係者以外―――」

「んん? 珍妙奇天烈なことを言うね。 ISの関係者と言うなら、一番はこの私をおいて他にいないよ」

「えっ、あっ、はいっ。 そ、そうですね……」

束さんに何を言っても無駄です。
無駄に頭のいいから理屈屁理屈で相手を黙らせるんですよね。
『天才』篠ノ之束は『天災』なんですから。

「おい束。 自己紹介くらいしろ。 うちの生徒たちが困っている」

「えー、めんどくさいなぁ。 私が天才の束さんだよ、はろー。 終わり」

これでようやくこれが篠ノ之束だと気づいた女生徒たちが騒がしくなります。
まあ、いきなり目の前にISの製作者が現れればそうなりますよね。

「はぁ……。 もう少しまともにできんのか、お前は。 そら一年、手が止まっているぞ。 こいつのことは無視してテストを続けろ」

「こいつはひどいなぁ、らぶりぃ束さんと呼んでいいよ?」

「うるさい、黙れ」

「束さん、邪魔しにきたなら斬りますよ、『エア』で」

束さんを黙らせるには、絶対的な力による恐怖です。
それが一番手っ取り早いですからね。

「ええ!? ウーちゃん私を殺す気?! 『エア』は駄目だよ『エア』は!?」

「『エア』が駄目なら『エクスカリバー』? あ、『ゲイ・ボルグ』でも構いませんよ?」

「そもそもの前提に宝具は駄目だからね?! 真名解放されたら死んじゃうからね!? 跡形もなく消滅するからね!?」

先の会話からわかるように、束さんはアインツベルンの英霊についてと、私のISについては知っています。
なので、『エア』や『ゲイ・ボルグ』のことも知っているし、その脅威も知っています。

「まあ、冗談ですけど」

「し、心臓に悪いよぉウーちゃん……」

少し疲れた様子の束さんに、おずおずと箒が話しかける。

「それで、頼んでおいたものは……?」

それを聞いた束さんは目を光らせた。

「うっふっふ。 それはすでに準備済みだよ。 さあ、大空をご覧あれ!」

ズドーンッ!

空から金属の塊が降ってきました。

「じゃじゃーん! これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』! 全スペックが現行ISを上回る束さんお手製ISだよ! と、言いたいけど、ウーちゃんの『サーヴァント』には勝てないかも!」

まあ、『サーヴァント』は、人間霊が神話や伝説の中で為した功績が信仰を生み、それにより精霊の領域にまで押し上げられた英霊が宿っていますからね。
ただの人間が作ったものが、存在そのものが奇跡と呼べる英霊の宿る物に勝てるはずがありませんよね。

「さあ! 箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズをはじめようか! 私が補佐するからすぐ終わるよん♪」

束さんはフィッティングとパーソナライズを始めました。




 ☆




「はい、フィッティング終了〜。 超速いね。 さすが私」

束さんはふざけているいますが、正真正銘の天才です。
同時に天災でもあるんですけど、それはこの人が一周回って馬鹿だからなので仕方が無いです。

「あの専用機って篠ノ之さんがもらえるの……? 身内ってだけで」

「だよねぇ。 なんかずるいよねぇ」

ふとそんな声が聞こえました。
そして、その声に最初に反応したのが、意外なことに束さんでした。

「おやおや、歴史の勉強をしたことが無いのかな? 有史以来、世界が平等であったことなど一度も無いよ」

まあ、そうなんですけどね。
私の存在そのものがそれの体現ですからね。
というより、アインツベルンがそうですからね。
この世界で、唯一魔術を行使する一族ですからね。
魔術の素質を持つ人はいますけど、それを発生させることができるのは、相当なことが無い限り、存在しません。
魔術を自由に行使できるのは、私たちアインツベルンの人間だけですから。

「あとは自動処理に任せておけばパーソナライズも終わるね。 あ、いっくん、白式見せて。 束さんは興味津々なのだよ」

「え、あ。 はい」

一夏は白式を展開する。
相変わらず綺麗な白ですね。

「データ見せてね〜。 うりゃ」

言うなり、白式の装甲にぶすりとコードが刺す束さん。

「ん〜……不思議なフラグメントマップを構築してるね。 なんでだろ? 見たことないパターン。 いっくんが男の子だからかな?」

フラグメントマップとは、各ISがパーソナライズによって独自に発展していく道筋のことです。
ちなみに、人間で言うと遺伝子になります。




 ☆




ちょっと時間を飛ばして紅椿の試運転。

「じゃあ刀使ってみてよー。 右のが『雨月』で左のが『空裂』ね。 武器特性のデータを送るよん」

データを受け取ると、箒は二本同時に抜き取った。

「親切丁寧な束おねーちゃんの解説付き〜♪ 雨月は対単一仕様の武装で打突に合わせて刃部分からエネルギー刃を放出、連続して蜂の巣に! する武器だよ〜。 射程距離は、まあアサルトライフルくらいだね。 スナイパーライフルの間合いでは届かないけど、紅椿の機動性なら大丈夫」

「次は空裂ねー。 こっちは対集団用の武器だよん。 斬撃にあわせて帯状の攻性エネルギーをぶつけるんだよー。 振った範囲に自動で展開するから超便利。 そいじゃこれ打ち落としてみてね、ほーいっと」

言うなり束さんは十六連装ミサイルポッドを呼び出す。
そして一斉に発射しました。

「―――やれる!この紅椿なら!」

流石は束さんが作った機体ですね。
ですが、今の箒は危険ですね。
貰ったばかりの強大な力に溺れています。

「たっ、た、大変です! お、おお、織斑先生っ!」

突然山田先生が、いつも異常に慌ててやってきた。
……問題発生ですか。

「どうした?」

「こ、こっ、これをっ!」

渡された小型端末の、その画面を見て千冬義姉さんの表情が曇った。

「解く命令レベルA、現時刻より対策をはじめられたし……」

「そ、それが、その、ハワイ沖で試験稼動をしていた―――」

「しっ。 機密事項を口にするな。 生徒たちに聞こえる」

「す、すみませんっ……」

「専用機持ちは?」

「ひ、一人欠席していますが、それ以外は」

人の目を気にしてか手話でやり取りを始めました。
あの手話はちょっと特殊な奴ですね。
ですけど、あれなら私にも理解できますね。
……なるほど、そういうことですか……大体の事情はわかりました。

「そ、それでは、私は他の先生たちにも連絡してきますのでっ」

「了解した。 ―――全員、注目!」

山田先生が走り去ったあとに、千冬義姉さんが声を上げた。

「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。 今日のテスト稼動は中止。 各班、ISを片付けて旅館に戻れ。 連絡があるまで各自室内待機すること。 以上だ」

「え……?」

「ちゅ、中止? なんで? 特殊任務行動って……」

「状況が全然わかんないんだけど……」

一気に騒がしくなる女子たち。

「とっとと戻れ! 以後、許可なく室外に出たものは我々で身柄を拘束する!いいな!!」

「「「はっ、はい!」」」

全員慌てて動き始めます。

「専用機持ちは全員集合しろ! 織斑、アインツベルン、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰! ―――それと、篠ノ之も来い」

「はい!」

妙に気合の入った返事をしたのは箒でした。
やはり、危険ですね。


Side〜ウリア〜out



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