第三十二話『作戦会議』
Side〜ウリア〜
「では、現状を説明する」
旅館の大座敷・風花の間に、私たち専用機持ちと教師人が集められています。
「二時間前、ハワイ沖で試験稼動にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS『銀の福音』が制御下を離れて暴走。 監視空域より離脱したとの連絡があった」
福音の暴走？
福音ということは……まさかナターシャさんが！？
「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過することがわかった。 時間にして50分後、学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった」
ナターシャさんは、何度か戦ったことのある人で、中々手強かったので、よく覚えています。
「教員は学園の訓練機を使用して空域および海域の封鎖を行う。 よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」
そういうことですか。
第二世代じゃあ、調整だけでは福音のスピードには追いつけないですからね。
だから、私たち第三世代型以上の専用機持ちに白羽の矢が立った訳ですね。
「それでは作戦会議を始める。 意見があるものは挙手するように」
早々に手を挙げたのはセシリアでした。
「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」
「わかった。 ただし、これらは二カ国の最重要軍事機密だ。 けして口外はするな。 情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも二年の監視がつけられる」
「了解しました」
データが表示される。
性能は、以前より少しばかり上がっていますね……。
「広域殲滅を目的とした特殊射撃型……わたくしのISと同じく、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」
「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。 厄介だわ。 しかも、スペック上ではあたしの甲龍を上回ってるから、向こうの方が有利……」
「この特殊武装が曲者って感じはするね。 ちょうど本国からリヴァイヴ用の防御パッケージが来てるけど、連続しての防御は難しい気がするよ」
「しかも、このデータでは格闘性能が未知数だ。 持っているスキルもわからん。偵察は行えないのですか？」
「無理だな。 この機体は現在も超音速飛行を続けている。 最高速度は時速2450キロを越えるとある。 アプローチは一回が限度だろう」
やはり、教えれることは教えておきましょう。
「話を割りますが、私はこの機体についてですが、少しなら知っています」
「何？」
「以前戦ったことがあるのです。 そのときより性能は上がっていますが、それ以外に変化はありません」
皆さんが私の方に注目します。
まあ、貴重な情報ですからね。
「福音の翼はといい、砲門の数は三十六。 全方位への一斉射撃ができます。 変わっていなければ、それから発せられるエネルギーの弾丸は少しでも当たれば爆発します」
「つまり、確実に避けないと爆発で抉られる、というわけか」
「はい。 軍用なため、エネルギー量も多いですので、を乱射させてエネルギー切れを起こすことは相当な時間撃たせないと無理です。 福音と当たれるのは精々一回ですので、一撃必殺の攻撃力を持つ機体で行かないと難しいでしょう」
自然と一夏に視線が移る。
一夏の白式の零落白夜ですね。
私の『サーヴァント』でも可ですが。
「……俺か？」
「あんたの零落白夜で落とすのよ」
「それしかありませんね。 ただ、問題は―――」
「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね。 エネルギーは全部攻撃に使わないと難しいだろうから、移動をどうするか」
「しかも、目標に追いつける速度が出せるISでなければいけないな。 超高感度ハイパーセンサーも必要だろう」
「それでは作戦の具体的な内容に入る。 専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれだ？」
「それなら、わたくしのブルー・ティアーズが。 ちょうどイギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られてきていますし、超高感度ハイパーセンサーもついて―――」
『にゃにゃぁ！？』
『『『！？』』』
突然天井から聞き覚えのある声の悲鳴が聞こえた。
やっぱりいたんですね……。
「た、たたたた大変だよ、ちーちゃん！！！」
天井から降りてきた束さんが、慌てた様子で千冬義姉さんに詰め寄ります。
束さんにしては、焦りまくっていますね。
「何が大変なんだ？」
「私のラボの機体が制御下から外れてこっちに飛んできてるんだよぉ！」
「何！？」
またですか！？
ということは、英霊が出てくるかもしてませんね……。
「束さん、その数は何体ですか？」
「五機だよ！ 前回の発展機！」
前回ということは、対抗戦で着た機体よりも強いものですか。
「織斑先生！ それは私が対処をします！」
「一人でか？」
「はい。 あれが出てくるかもしれないので」
「……わかった。 それの対処はアインツベルンに一任しよう」
「ありがとうございます」
英霊が出てきたら、魔術の行使ができない人では死にに行くだけですからね。
この場で倒せるのは、私か、千冬義姉さんです。
ですが、千冬義姉さんはこの場から離れることは出来ません。
なので、これは私にしか出来ないんです。
「束さん。 予測ルートは？」
「あ、うん。 えっとね、福音の到達地点とは真逆の方向から来るよ」
「では、ここから十キロの地点に到達するのに、どれだけ時間がかかりますか？」
「二十分も無いよ」
「わかりました」
今からでも十分間に合いますね。
「では、私はこれで」
私は部屋を出ます。
他の皆さんの邪魔になりますからね。
Side〜ウリア〜out
Side〜一夏〜
ウリアが一人で五機の無人機と戦うらしい。
手伝いたいが、俺じゃあウリアの足手まといになるし、そもそも福音がある。
そして、ウリアが部屋から出ると、会議が再開された。
セシリアの機体が最高速度が出るようなんだが、なんか束さんが言うには箒の紅椿の方が速いらしい。
なんか、束さんが調子に乗って作った機体は第四世代型で、展開装甲ってやつがあるらしい。
どうやら、俺の雪片にも同じ機構が積まれているようで、白式も第四世代型ISだったらしい。
本当にふざけた人だな、束さんは。
「では、では本作戦では織斑・篠ノ之の両名による目標の追撃及び撃墜を目的とする。 作戦開始は30分後。 各員、ただちに準備にかかれ」
どうやら、福音は俺と箒の二人でやるらしい。
でも、なんか嫌な予感がするんだよな。
気を付けなければ。
さて、俺は白式の調整をするとしよう。
万全な状態で挑みたいからな。
……よし、白式に異常は無し。
これでいいかな。
うーん、調整も終わってしまったからな。
時間が来るまで散歩でもしてよう。
一応高速軌道の練習もしたことあるからな。
大して聞くことも無いんだよ。
教えてくれたのはウリアだしな。
「あ、一夏」
ウリアと出会った。
「なぁウリア」
「大丈夫です。 安心してください」
微笑みながら応えたウリア。
俺が何を言いたいのかわかったのか。
「一夏、気をつけてくださいね」
「ああ、わかってる。 相手は強敵なんだろ？」
「そうですけど、箒に気をつけてください」
「っ！ どうしてそう思うんだ？」
ウリアは敵と箒にも気をつけろと言った。
ウリアは箒に、何かを感じているようだ。
「箒は紅椿を手に入れてまだ時間が経っていないです。 初心者だからということもありますが、私が見た感じ、箒は力に溺れています」
もしかしたら、俺の嫌な予感とはこれのことかもしれない。
「ありがとう、ウリア。 気をつけるな」
「いえいえ。 無事に帰ってきてくださいね」
「ああ、任せろ」
怪我なんてするつもりは無いからな。
Side〜一夏〜out