小説『IS インフィニット・ストラトス 〜銀の姫と白き騎士〜』
作者:黒翼()

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第三十五話『戦いの終わり』



Side〜ウリア〜

『マスター、時間だ』

『そうですか……ありがとうございます……』

顔を洗って、気を引き締めましょう。
私は顔を洗うと、一夏が眠っている部屋に行きます。
そこには、まだ箒がいました。

「ウリア……」

おそらく、起きるのを待っているのでしょう。

「……行ってきますね、一夏」

私は一夏の顔を撫で、キスをする。
見られていますが、気にしません。

「ウリア、私も連れて行ってくれ」

やはり言ってきましたか。
予想の範囲内です。

「駄目です」

「……それは、私が力に溺れていたからか?」

「それもそうですが、戦闘の邪魔なんです。 一人の方が闘いやすいんですよ。 貴女たちがいては、全力が出せませんので。 はっきり言います。 弱い人は引っ込んでいてください」

「………………」

悔しげにしていますが、邪魔がいては宝具の真名解放が出来ません。
出来るのは対人宝具くらいですので、イスカンダルの『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』による『遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)』などの対軍宝具や、アルトリアの『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』などの対城宝具、ましてやギルガメッシュの『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』は対界宝具ですので以ての外です。
巻き込んで怪我をさせてしまいます。
『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』に至っては巻き込んだら死にますね。
規格外宝具ランクEXであり、一撃で雌雄を決する対城宝具を凌駕しますからね。
というより、ISに組み込んでいくら威力を落としても、怪我は必須なほどの威力ですから、使ったらとんでもないことになります。

「では、私は行きますので、一夏のことを見ていてくださいね。 言っておきますが、ついて来ようなどと馬鹿なことは考えないように」

私はそうとだけ言うと部屋を去ります。
そこには千冬義姉さんがいました。

「……行くのか?」

「はい。 今から行きます」

「福音の居場所は変わっていない。 先の戦闘で消費したエネルギーを回復させているのだろう」

「そうですか」

「帰ってこいよ」

「当然です」

私はそういうと、旅館を離れて『サーヴァント』を【英霊・イスカンダル】で展開します。

『俺はさっきと同じで構わないのか?』

『はい、お願いします』

リグレッターは引き続きここの守護を任せます。

<行くぞ>

(はい)

飛行時のエネルギーを抑えるのに、イスカンダルの宝具はとても役立ちます。
IS化した宝具はエネルギーと魔力で動かしているのですが、魔力だけでも動かせるんです。

<AAAALaLaLaLaLaie!!>

イスカンダルは雄叫びを上げる。
そして『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』は高速で空を駆る。
二頭の雄牛に牽かれた戦車(チャリオット)『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』の本来の最高速度は時速四百キロを超えます。
ですが、その速度はIS化したことによりさらに速くなっています。
その最高速度は時速四千キロ。
それがIS化した宝具の機動力です。
まあ、雄牛にISのスラスターをくっ付けただけなんですけどね。
で、それを魔力と僅かなシールドエネルギーで動かしているんです。

<この速さ、なんとも素晴らしいものだのぅ>

(こんな時に何を言っているんですか)

<いや何、目標まで多少時間があるのでこいつの速さを堪能しているのだ>

(多少って、後少しで辿り着きますよ)

<む、もうか。 もう少し堪能したかったのぅ>

(また今度、堪能してください)

<む、その言葉、忘れるでないぞ>

(わかってます)

福音は海上二百メートル上空で胎児のように蹲っていました。
私は福音から五キロ離れた位置で『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』を止めます。

<む、交代か?>

(はい。 シロウ)

<私か>

サーヴァントは姿を変え、【英霊・イスカンダル】から【英霊・エミヤシロウ】となります。
私は弓と剣を投影して構える。
私はその剣にエネルギーを籠める。

「<赤原猟犬(フルンティング)>」

この剣は射手が狙い続ける限り追い続ける。
速度はおよそ秒速四キロ。
たとえ気づいたとしても、その速度と追尾性で、避けることはできません。
そして、その剣は福音に当たり、その衝撃が感じ取れた。

<直撃だな>

そこにはダメージを負った福音の姿があった。
福音は私に向かって飛んできます。
私は新たに剣を投影する。
その剣を番えて構えます。

「<偽・螺旋剣(カラドボルグ?)>」

福音とは五百メートルほどになったところで剣を放つ。
続けて放った剣はまたしても直撃。
ボロボロになった福音は落下していきました。

<……わかっていたことなのだが、改めて思うと君は存外酷い性格をしているな>

(ナターシャさんは助けますが、福音をただで終わらせるつもりはありませんよ。 まあ、しばらく使用不可能にはしますね)

福音がこの程度で終わるとは思えません。
ナターシャさんも福音も、互いに信頼関係が深いですからね。
ナターシャさんを守ろうと、何かしらのアクションを起こすでしょう。

「っ! やっぱり来ましたか」

突如海面が強烈な光の球によって吹き飛ばされた。
球状に蒸発した海は、そこだけ時が止まっているように凹んだままでした。
その中心には、青い雷を纏った福音が、自分を抱くように蹲っていた。
これは、『第二形態移行(セカンド・シフト)』です。

(さて、ここから本番ですね)

今度は、本来の姿になります。
そして、右手に二メートルほどの長さの真紅の長槍『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』を、左手に妖精文字が刻印され、かの聖剣『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』と起源を同じくする神造兵器『無毀なる湖光(アロンダイト)』を持ちます。
『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』は魔力・エネルギーを刃が触れている瞬間だけ打ち消し、『無毀なる湖光(アロンダイト)』は抜き放っている限り、自らのステータスを一段階上げるものです。
どちらも、常時発動型宝具なので、真名開放出来ないこの姿でも、十分使えます。

『キアアアアアアア……!!』

福音は獣のような咆哮をすると、一直線に私の方へ飛んできました。
速い。
第二形態移行でここまで速度が上がりますか。

私は右の長槍を

(なかなかやりますね。 もしナターシャさんが使っていたら、私でも梃子摺るでしょうね)

私は福音の動きを観察していると、突如エネルギーの翼が生えた。
機械で出来たスラスターがあった部分が、エネルギーの翼に変わっていました。
これが福音の第二形態移行ということでしょう。

<主よ。 福音はおそらくエネルギーも少なからず回復しているはずです。 でなければ、あの速度を維持するのは難しいはずです>

福音は、第二形態移行の前に『赤原猟犬(フルンティング)』と『偽・螺旋剣(カラドボルグ?)』の直撃を受けています。
いくら軍用ISでエネルギーが多いとはいえ、エネルギーはほとんど削られているでしょう。

(あの速度と翼を維持するには、それなりの量のエネルギーは必要なはずですからね。 それに、私もあまり時間を掛けるつもりも無いので、一気に終わらせます)

<わかりました>

時間を掛けすぎると、もし本当に英霊が来たときに厄介になりますからね。
英霊を相手にするのに、邪魔がいると本当に厄介です。

私は両手の得物を握りなおし、福音へと突撃します。
福音はそのエネルギー翼からエネルギー弾を放ちますが、私は当たるものだけを『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』で消していきます。
魔力・エネルギーで出来た物なら、この槍の刃が触れた瞬間に消滅するので、一夏の『零落白夜』に似ていますね。
ですが、これは『零落白夜』よりもずっと強力で、凶悪です。
なぜなら、『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』は、絶対防御すら消滅させてしまうからです。
だからこれは、ほとんど使わないんです。
福音との間合いが近づいた瞬間、私は瞬時加速を行い、一気に間合いを零にします。

「はぁっ!」

そして、右手の『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』をしまうと、左手の『無毀なる湖光(アロンダイト)』で斬りつけ、右手に『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』を持つと、一気に畳み掛けます。
真名開放で一気に片付けることは出来ませんが、『無毀なる湖光(アロンダイト)』のおかげで全てのステータスが上がっているので、私の攻撃の威力は馬鹿になりません。
避ける、逃げる、攻撃をする隙を一切与えずに、私の一方的な蹂躪が始まりました。

「これで、終わりです!」

数撃の後、振り上げた両手の剣を振り下ろすと、福音は解除され、ナターシャさんが落ちていきました。
私は両手の剣をしまうと、海へ真っ逆さまのナターシャさんをキャッチします。

「これで帰れますね」

<そうですね。 お疲れ様でした>

英霊が出てくることも無く、無事に帰れますね。
一件落着、ですね。


Side〜ウリア〜out


Side〜一夏〜

ざあ、ざあん……。
波の音を聞きながら、俺は飽きもせず女の子を眺めていた。
その歌は、その踊りは、なぜか俺を懐かしい気持ちにさせた。

(……あれ?)

ふと気づくと女の子は歌うことを止めていた。
踊りも止めて、空を眺めていた。
俺は立ち上がって女の子の隣へと向かう。

「どうかしたのか?」

女の子は俺の声に反応せず、空を見つめたまま動かない。
俺は空に何かあるのかと思い、空を見上げる。

「感じる……行かないと……」

「え?」

女の子が声を発したと思って隣を見ると、その女の子はどこにもいなかった。
きょろきょろと辺りを見回すが、女の子の姿は無く、歌も聞こえない。
聞こえるのは、ざあざあ、と波の音だけだった。

「どこに行ったんだ?」

俺は仕方が無くさっきまで座っていた流木へと戻る。
すると、戻ろうとする俺の背中に声を投げかけられた。

「力を欲しますか……?」

「え……」

振り向くと、そこには膝下までを海に沈めた女性が立っていた。
その姿は、白く輝く甲冑を纏った騎士さながらの格好だった。
大きな剣を自らの前に立て、その上に両手を預けている。
その顔は目を覆うガードに隠されて、下半分しか見えない。

「力を欲しますか……? 何のために……」

「ん? 力? そんなこと決まってる」

俺が力を欲する理由なんて、たった一つしかない。

「仲間と、ウリアを―――俺が愛する人を、俺を愛してくれる人を守りたいからだ」

「仲間と愛する人を……」

「そう。 俺が愛する人は、残念ながら俺よりも強い。 その人は俺よりも優れていて、俺が守られている立場にいる。 だから、俺は彼女のために、俺を慕ってくれる人のために力が欲しい。 彼女たちを守れる力が」

俺は自分でもびっくりするほどに饒舌にしゃべっていた。

「この世界の不条理なことから、道理の無い暴力とかから彼女を、仲間を、できるだけ守りたいんだ。 一緒に戦う仲間を、俺が愛する人―――俺を愛してくれる人を」

「そう……」

女性は、静かに答えて肯いた。

「だったら、起きなきゃね」

「ん?」

また後ろから声を掛けられた。
そこには白いワンピースを着た女の子が立っていた。

「ほら、ね?」

手を取られ、微笑みかけられる。
俺は、その笑みに見覚えがある気がした。
そして俺はそれがどこか懐かしくて、

「ああ」

つい口元を緩めながらうなずいた。
すると、変化が起こった。

「なんだ?」

空が、世界が、眩いほどに輝きを放ち始める。
その光に抱かれて、目の前の光景が徐々にぼやけていく。
夢の終わり、そんな言葉がふいに浮かんだ。

(ああ、そういえば……)

あの女性は、誰かに似ていた。

白い―――騎士の女性。


Side〜一夏〜out


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