小説『IS インフィニット・ストラトス 〜銀の姫と白き騎士〜』
作者:黒翼()

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第三十六話『一夏の異常とイレギュラー』



Side〜ウリア〜

「!?」

私はナターシャさんを連れて、『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』で旅館に戻っていると、私はそれを感じた。
それは魔力の流れ。
しかも、かなり大きい魔力です。
大きな魔力の感じる方向は私の目的地と同じ。
つまり、旅館なのです。

「イスカンダル! 速度を上げてください!」

<おうよ、わかった!>

私の乗る『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』の速度が上がる。
私が出来ることは一夏たちを守ることです。
魔力の大きな相手が何者かは知りませんが、これは急がないといけません。

『マスター!』

『リグレッター、何があったんですか?!』

距離が離れすぎているため、念話はできません。
でも、リグレッターの宝具は元はISなので、プライベート・チャンネルで話しかけてきました。

『落ち着いて聞いてくれよ』

『わかりましたから、早くしてください』

『一夏の傷口が開いた』

『!?』

どうして?
一夏は安静状態なのに、どうして傷口が開いた?
まさか誰かが傷口を開けたのでは!?

『おそらくマスターの考えていることは違う。 何の前触れも無く、突然傷口が開いたんだ』

一体どうして……。
まさか何者かの襲撃ですか?!

『リグレッター、魔力の大きな反応があるんですが、敵なんですか?』

『おそらく違う。 英霊なら俺が感知できる。 だが、俺にはそれは感じない。 もしかしたらハサンのような者かも知れないが、まず確かのは、この魔力の発信源は一夏だ』

『……え?』

……一夏……?
え、何で……どうして……?

『何が原因かはわからない。 だが、このでかい魔力は一夏の物だ。 間違い無い』

英霊であるリグレッターがそう言うのなら間違いは無いんでしょうが、どうして一夏が?
多少の魔力ならわかります。
まれに多少の魔力を持つ人がいますから。
でも、一夏は突然、何の前触れも無く魔力を発した。
しかも、素人とは思えないほどの、ありえないの魔力量です。
一体どうして……。

<困惑しとるところ悪いが、もう少しで着くぞい>

「はっ!」

イスカンダルの声で我に返ります。
今は一夏の容態を確認しないと。
私は旅館のすぐ傍でISを解除し、ナターシャさんを近くの部屋に寝かして、急いで大きな魔力反応のある場所―――リグレッターの言う通りなら一夏のいる場所―――に向かう。
そこには、箒やラウラたちが、千冬義姉さんがいました。

「あ、お姉様!」

「千冬義姉さん、一夏は?!」

「今治療中だ。 いきなり傷口が開いてな、今は治療の最中だ。 少し血を流しているが、まだ大丈夫だ」

まだ、ということは危なくなるということですね。
でも、今はそれよりも重要なことがあります。

「どいてください。 急いで一夏に会って確かめたいことがあるんです」

この感じは正常な魔力の流れではありません。
しかも、その溢れ出る魔力量は、素人である一夏が、未熟である魔術師が耐えれるレベルのものではありません。
たぶん、急に傷口が開いたのはそれが原因だと思います。
異常な魔力の流れに、慣れもしない魔力、しかもかなりの量を発生させている一夏には、その身体がその魔力に耐えれないのでしょう。
そうであろうと無かろうと、この魔力を抑えないといけません。

「おそらく、これを止めれるのは私しかいません。 これは、アインツベルンが関わってきますから」

「……わかった」

「織斑先生!?」

「どの道この状況を打破できるのは私たちではない。 アインツベルンが関わるのなら、アインツベルンが適任だ。 私たちは待つことしかできん」

私は治療室に入り、治療をしている先生たちを外に出す。
これは、一般人が見ていいものではありません。
今からやることは、『魔術師』ウリアスフィール・フォン・アインツベルンとしての仕事です。
一夏は体中から血を流し、致死量でないにしろ、かなりの量の血が流れていました。

(メディア)

<わかったわ>

メディアが実体化する。

「私が一夏の魔力を抑えます。 メディアはもう一度、駄目でも傷の方をお願いします」

「わかったわ」

私は一夏の暴走する魔力を取り込むため、眠る一夏にキスをする。
それに加えて私は魔力を練り上げる。
一夏の魔力を放出するように、一夏から溢れる魔力を無理矢理抑え込むように。
性交が一番なのですが、今の一夏では体力が持たないでしょうし、そもそも誰かに見せるのは嫌ですから、それはしません。

「ぅぐ!」

私は一夏の魔力を取り込んでいると、一夏は突然声を上げた。

「マスター、下がって!」

メディアが切羽詰ったように叫びます。
私は魔術師として、自分よりも高位であるメディアの言う通りに下がる。
私が下がった瞬間、一夏を中心に目を開けていられないほどの眩い閃光が奔る。
しかしこの感じ……まさか!

「……あの子の右手、令呪らしきものが見えたわ」

「っ! やっぱり……!」

光りが収まり、目を開けるとそこには、緑の手術衣を着た、男性にも女性にも、聖人にも囚人にも見える長い銀髪?の人間が立っていました。

「っ!」

私は、一夏が召喚したと思われるその英霊の姿を捉えた瞬間、異様な不快感を抱きました。
な、何なんですか、これは……。
私、こんな人知りません。
銀髪で手術衣、男性にも女性にも、聖人にも囚人にも見える人物なんて、聞いたこともありません。

ドバンッ!

「アインツベルン! 今の光は何だ!?」

召喚の際のあの光が、外にまで漏れていたようです。
かなりの光量だったので、気になったのでしょう。

「っ! ……貴様、何者だ?」

千冬さんは手術衣を着た人物を視界に捕らえると、嫌悪した表情で彼を睨み付けました。
彼は千冬さんを一瞥したら、さも興味が無いように一夏に視線を向けた。

「……ふむ……パスが繋がれている。 どうやら私は、素質はあるようだが、素人の、しかも死に掛けの魔術師に召喚されたようだな」

「「!?」」

確かに一夏は魔術師としては基礎も知らないド素人です。
ですが、今は魔力の流れも落ち着いてきているのに、それを感じ取れるなんて……。
この人、キャスター系の英霊ですね。
しかも、かなりのやり手の魔術師だったのでしょう。

「答えろ! 貴様は何者だ!?」

「すみません、千冬義姉さん。 今は彼の邪魔をしないでください」

私がそういうと、彼は驚いたよう私の方を向いた。

「私を認識して、不快感や嫌悪感を覚えてもなおそう言うのか」

「……貴方は、一夏が召喚した英霊です。 一夏の一存も無しに、貴方を消すことはしません」

「なるほど、君は私を召喚したこの男と深いつながりを持つようだな。 私と同じキャスター系の英霊に、かなりのレベルの魔術師。 だが、それだけでは私は倒せん」

「でしょうね。 貴方は私たちが倒せるような魔術師ではありません。 ですが、私には他の英霊たちがいます。 いくら貴方が強かろうと、貴方と同じ英霊が複数いれば倒せます」

「まあ、私のマスターたるこの少年が未熟な魔術師だ。 君たち全員を相手に出来るほどの魔力は無いだろう。 さて、話はこの程度にして、傷を治すとしよう。 私とて、召喚されてすぐ消えるつもりはないのでな」

彼は一夏に手をかざし、たった一言だけ言った。
たったそれだけで、一夏の全身の傷が癒えた。
私とメディがしても効かなかった魔術を、一瞬で!?

「「「っ!?」」」

やはりこの人、かなりの魔術師ですね……。
しかも、メディア以上の魔術師です。

「取り込み中すまない、マスター。 辺りに他の英霊の気配は無かった」

リグレッターが実体化して、私と彼の間に立つように入り込んできました。

「そうですか。 わかりました」

「で、マスター。 この不快感満載な奴は誰の英霊だ? 敵か?」

リグレッターはいつでも黒騎士を展開できるように身構えながら、一夏が召喚した魔術師を睨みつけます。

「いいえ。 彼は一夏が無意識で召喚した英霊です」

「では、敵ではないのか?」

「それはわかりません。 今一夏を治しましたが、彼の目的が知れません」

彼の正体も目的も不明です。
さらには見ているだけで、その存在を思うだけで不快感を感じさせるあの人を、警戒しないわけがありません。

「私の目的か? 私の目的は世界を見届けるだけだ」

「世界を、見届ける?」

この英霊も、葉王みたいな理由なんですか?

「そうだ」

「では訊きます。 貴方は敵ですか?」

「さあな。 それは君たち次第であり、私のマスター次第でもある」

「つまり、どちらでもないと言うことですか」

「そうだな。 まあ、今はこの未熟なマスターに従うとしよう」

そう言うと、彼?は霊体化しました。

「……メディア、一夏の容態は?」

「……問題ないわ。 あの英霊、相当な使い手よ。 あれだけの傷が、もう完治しているわ」

「っ!」

あの一瞬の治癒魔術で、一夏の傷を完治させるなんて……。
一体どんな魔術師なんでしょうか……。
あの英霊と一致する魔術師など、私は知りません。
しかも、想像するだけで不快感を覚えるなど、相当な反英霊だったのでしょう。
わかりませんね……。

「……アインツベルン」

「後でお話します。 一夏が起きてからですけどね」

今は一夏が起きるのを待ちましょう。
一夏の右手の甲にある令呪。
これがあるということは、間違いなく一夏は英霊のマスターです。
ならば私は、一夏が起きるまで、一夏の魔力が暴走しないように見ておくまでです。


Side〜ウリア〜out


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