第三十九話『帰寮と夏祭り』
Side〜ウリア〜
一夏同士が相対してすでに十日。
一夏の魔力コントロールも安定するようになり、今では魔術の練習中です。
いくらアレイスターが師だとしても、一夏は本当に飲み込みが早いですね。
普通なら年単位で掛かると思うんですが。
「らあっ!」
「甘い!」
ガギィィィンッ!
今、一夏同士IS戦闘の訓練をしています。
一夏はいつの間にかセカンド・シフトしていた『白式・雪羅』を、リグレッターは宝具『黒騎士―堕天―』を纏い、互いに雪片で斬り合っています。
性能は圧倒的にリグレッターの方が上。
宝具である時点で、ただの人間が作ったものに対抗できるはずがありません。
「止め!」
「うわああああ!」
リグレッターが一夏に止めを刺し、一夏が落ちてきました。
やはりリグレッターは強いですね。
流石は英霊です。
「少し見ぬ間に、いい動きになってきているではないか」
ふと気づいたら隣にアレイスターがいました。
魔術関係の特訓以外では久しぶりに見た気がします。
「アレイスター、今まで何してたんだよ?」
「過去に私が作らせたものを作っていただけだ。 存外、時間が掛かってしまったがな」
「何を作っていたんだ?」
「滞空回線というものだ。 半永久的に情報収集をさせるために作った。 サイズは70ナノメートル。 視認するのはほぼ不可能だ」
な、なんていうものを作っているんですか、アレイスターは。
今の技術では到底作れませんよ。
「これをIS学園一帯にばら撒く。 周辺の情報は随時得れる」
べ、便利ですね。
束さんが発狂するくらいの技術差ですよ。
流石は元統括理事長。
「お前、魔術師なのに科学にも本当に詳しいな」
「一度は魔術を捨てからな。 科学技術なら、現代の二、三十年は先を行く。 まあ、ISは作ってはいなかったがな」
アレイスターって、本当に規格外な魔術師ですよね。
この世界に魔術師と呼べるのは、実際には私たちくらいしかいませんからね。
伝承などではそれなりにいたといわれますが、今ではアインツベルンしか魔術師の名を持つのはいません。
まあ、アインツベルンの情報網から逃れている魔術師がいるかもしれませんが。
「ところでウリアスフィール」
「はい? 何ですか?」
「私も英霊召喚したいのだが、構わないか?」
「はい? ……今、何て?」
「私も召喚をしたいと言っているのだ。 構わないか?」
英霊召喚を……英霊であるアレイスターが?
「確かに一夏の魔力は多いですが、それでは一夏の負担を大きくするだけです。 それに、アインツベルン以外で英霊召喚をするなんて、前例がありません。 一夏が貴方を召喚したのは、本当に異常なことなんです。 理由もわかっていません。 いくら伝説級の魔術師である貴方でも出来るかどうか……」
「出来ればいいのか?」
「それは私一人の一存では決定できません。 お母様やお父様に相談しませんと。 それと、一夏の魔力負担を増やす気ですか?」
「それは私個人の保有する魔力で事足りる。 まあ、戦闘となればマスターの負担が多少大きくなるが、戦力は遥かに上がる。 まあ、魔力はここで大分溜めれた。 ここにいる分はマスターへの負担は問題ないだろう」
この城は大きな霊脈の上に建っていますから、魔力回復には持って来いの場所です。
ですが、召喚できるかどうか……。
まあ、とりあえず聞くだけ聞いてみましょう。
「お父様、お母様」
「なんだい、ウリア」
「アレイスターが召喚したいと言っているのですが、やらせるだけやらせてもいいのでしょうか?」
「アレイスターが? 別に構わないが」
「出来るかはわからないわよ?」
あ、あっさり決まりましたね……。
「それで構わない。 成功したら戦力が上がるだけだ。 失敗したらしたで、それはそれで別に構わない」
「まあ、やるだけやってみましょう」
☆
「やっぱり駄目だったわね」
結果は失敗。
でも、何故でしょうか。
アレイスターならいつか成功させそうな気がします。
「そのようだ。 無駄な時間を取らせてしまったな」
「いや、構わない。 かの伝説のアレイスターにやってもらえるとは光栄だ。 やりたくなれば、また言ってくれ。 今回は失敗したが、貴方なら出来そうな気がする」
お父様も同じことを感じていたのですか。
「では、またやらせてもらうとしよう」
伝説の魔術師、アレイスター=クロウリー。
何を考えているかさっぱりわかりません。
まあ、一夏の敵にならないのなら、それでいいです。
☆
夏休みに入って二週間ほどで一夏はかなり強くなりました。
魔術の腕はまだ未熟(当然なんですけど)ですが、魔力コントロールは大丈夫なので、暴走させることは無いでしょう。
そして、リグレッターと戦闘訓練をしていたので、ISの操縦技術も上がっています。
魔術をある程度習得するには時間が掛かるので、初歩的なものと、とりあえず身体強化などの自身に掛ける魔術を練習しています。
私は私で、アレイスターから教わりました。
流石は伝説の魔術師。
何でも出来ました。
本当にとんでもない魔術師です。
そんな彼に教わったので、いろいろとやばい物を覚えました。
あ、私は生身の方で英霊たちと戦闘練習をしていました。
学園では出来ないので、ちょうどいいんです。
剣ならアルトリア、槍ならディルムッドやクー、弓ならシロウ、魔術ならメディアが適任です。
ランスロットはオールラウンダーですが、やはり剣です。
そんなこんなで、対武器戦闘や武器の扱いなどをより極めていたりしていました。
相手は英霊と化した伝説の人物たち。
とても勉強になりました。
「……ここ、久しぶりに見たな」
「そうですね。 二週間ぶりですからね」
そして私たちは二週間ぶりにIS学園へと戻ってきました。
そういえば、日本ではお盆ですね。
「あ、お姉様、お兄様!」
私たちが部屋へと戻っていると、ラウラがやってきました。
二週間ぶりに見るラウラも可愛いですね。
「ラウラ、久しぶりですね」
「久しぶりだな」
「はい、お久しぶりです」
家から私のお古の服を持ってきたので、また後で着せて見ましょう。
絶対可愛くなるでしょう。
「あ」
すると突然一夏が何かを思い出したように声を出しました。
「どうかしましたか?」
「ふと思い出したんだが、箒のところの神社で夏祭りがあることを思い出してな」
夏祭りですか。
一夏は唸りながら考えています。
「うーん……行くか?」
そういえば、日本のお祭りは久しぶりですね。
私はドイツに戻ってから、一度も日本に来ていませんでしたからね。
「いいですね、行きましょう。 もちろん、ラウラも一緒ですよ」
「わ、私もですか?」
「あ、用事でもありましたか? それとも嫌でした?」
「い、いえ。 そんなことはありません。 ただ、お二人の時間を邪魔してしまうことに……」
デートの邪魔になってしまうと思っていたんですね。
何て謙虚で健気な娘なんでしょう!
「もう、そのことはいいんです。 今日は久しぶりにラウラと会うので、その埋め合わせですよ」
「そうだぞ。 ラウラは気にしなくていいんだ」
「で、ではお言葉に甘えて」
夏祭りといえば、浴衣ですね。
「ということで、浴衣を買いに行きましょう」
「なんでということでなんだ? まあ、構わないけど」
「なのでラウラ、行きますよ」
「は、はあ、わかりました」
どうせなら、ラウラを可愛く着飾りませんとね!
☆
「これなんてどうです?」
「私にはわかりません……」
私は今、ラウラの浴衣を選んでいます。
一夏とは一旦別れており、それぞれで選んでいるんです。
私はラウラの浴衣を選んでいます。
「あ、これがいいですね」
紺色にところどころに赤い椿があしらってある浴衣です。
これに髪をツインテールにすればかなり可愛くなると思います。
「うーん……あ、私はこれにしましょう」
いろいろ手にとってみて、身体に当ててみる。
うーん……これ、悪くないと思いますね。
(どうですか?)
英霊たちにも聞いてみましょう。
<似合っていると思います>
<うむ。 いいのではないか?>
<いいんじゃねえか?>
<可愛いわ、ウリアちゃん!>
『俺はいいと思うぜ、マスター』
英霊たちもいいと言っているので、これにしましょう。
「すみません、着付けを手伝ってくれませんか?」
「畏まりました」
私たちは店員さんの助けを借りながら、浴衣を着ました。
流石の私でも、慣れない服は着れませんからね。
Side〜ウリア〜out