第四十話『夏祭り』
Side〜ウリア〜
「お待たせしました」
「おう、気にする……な……?」
私とラウラが浴衣を着て、髪型もセットしてから一夏の元へ行きました。
すると、一夏は私を見ると目を見開いて固まりました。
「どうかしましたか?」
「ウリア、なのか……?」
一夏は私なのかと聞いてきました。
「ウリアですよ? 本当にどうしたんですか?」
「すっげえ見違えた。 一瞬ウリアなのかわからなくなった。 すっげえ綺麗だ、ウリア」
「ありがとうございます♪」
今私が来ているのは、紅の生地に白の花があしらってある浴衣で、髪はいつもと違いストレートではなく、アップヘアにしていつもは隠れているうなじが見えています。
「お、お兄様……」
控えめにラウラが一夏に声を掛けます。
「あ、悪いラウラ。 うん、ラウラも似合ってる。 見違えたぞ」
「あ、ありがとうございます」
少し顔を赤くして俯くラウラ。
恥ずかしいのでしょうか。
「一夏も似合っていますよ。 格好いいです」
「おう、ありがとな」
一夏の浴衣はシンプルですが、とてもよく似合っています。
「んじゃ、行こうぜ。 今から行けば六時くらいには着けるだろう」
「そうですね。 じゃあ、行きましょう」
「はい、お兄様、お姉様」
『またのお越しを、お待ちしております』
お店から出て、夏祭りのある神社『篠ノ之神社』へと歩を進めます。
「お、おい、あの娘たち……」
「うおっ、滅茶苦茶可愛いじゃねえか……」
「銀髪美少女二人……しかも片方は眼帯……」
「それなのにあの可愛さ……」
「あの野郎、何て羨ましいんだ……!」
私たちを見る男性たちがこそこそとしゃべっています。
「あ、あの人……」
「格好いい……」
「一緒にいる二人も物凄く可愛い……」
「両手に花ね……」
「いいわね、あの娘たち。 私もあんな格好いい彼氏が欲しいわ……」
一夏を見てこそこそとしゃべる女性たち。
「……なんか、こそばゆいな」
「……そうですね」
「……お姉様を見て鼻の下を伸ばしている下劣な男……! それにお兄様を嘗め回すように見る下品な女……!」
ラウラがわなわなと震えています。
今にも襲い掛かりそうな勢いです。
「ラウラ、抑えて。 そういうのは気にせず、見せ付ければいいんです」
「居心地悪いけど、相手にしてたら時間の無駄だ。 だから無視すればいいんだよ」
「……お二人がそう仰るのなら、我慢をしましょう……」
少し納得いかない感じでしたが、ラウラは抑えたようです。
私はそんなラウラの手を取ります。
「? お姉様?」
「いいじゃないですか、偶には」
「んー、じゃ、俺も」
一夏もラウラの手を取ります。
私の右手にはラウラの左手が、一夏の左手にはラウラの右手が握られています。
仲の良い兄妹姉妹って感じに見られるのではないでしょうか?
……あ、そうだ。
「? お姉様? どうかしましたか?」
一旦ラウラの手を離し、紙とペンを取り出す。
持ってきておいて正解ですね。
私はぱぱっと術式を書き、それらを一枚ずつ一夏とラウラに渡します。
「これは?」
「簡易的な認識阻害です。 これで視線も和らぐはずです。 持っていてくださいね」
「わかりました」
「ありがとな、ウリア」
本気の認識阻害だと今回は困るので、『そこに人がいる』程度の感じに見られます。
その程度なので、ばれることもありますけど、まあ問題ないでしょう。
「上手く起動していますね」
「みたいだな。 視線が一気に減った」
「どういう仕組みかは知りませんが、流石です」
視線が消えました。
これで落ち着いて夏祭りを堪能できますね。
「んー、この時間帯なら神楽舞が見れるかな」
「神楽舞ですか?」
「ああ。 篠ノ之神社の巫女がやる舞だよ」
「間に合うのなら、見てみましょう」
少し楽しみです。
「んじゃ、そうするか」
私たちは少し歩のスピードを上げました。
☆
神楽舞をしていたのはなんと箒でした。
篠ノ之と聞いて、もしかしてと思ったら、まさか本当に箒がしているとは思いませんでした。
侍と表現してもいいくらいにお堅い箒が、人前であんな綺麗な舞をするとは、正直意外でした。
「ま、まさかあの箒があの様なことをしていたとは……人は見かけに寄らないのだな……」
ラウラも似たようなことを考えていたようです。
「そうだな。 まあ、あいつはこういうのは見せたがらないけどな」
「そういうのは人それぞれですからね」
「んで、箒に挨拶していくか? それとももう行くか?」
「箒が見られたくないのなら、黙っておいた方がいいのでは?」
嫌がるのなら、わざわざ会いに行って不快感を与えることになってしまいますし。
箒は気づいていないと思うので、私たちは黙っていた方がいいと思います。
「んー、じゃあそうするか。 ラウラはどうしたい?」
「私はお姉様とお兄様にお任せします」
「じゃあ行くか」
というわけなので、夏祭りを楽しみましょう。
☆
「お、すげえ人だな」
人が溢れかえっており、かなりの人数です。
これだけ密集すると、認識阻害もあまり意味を成さないでしょうね。
一応教えておきましょう。
「一夏、ラウラ。 これだけ人が密集していると、あの認識阻害があまり効かないと思うので、そこのところは承知しておいてください」
「わかった」
「わかりました」
私たちはその人込みへと突入します。
やっぱり、距離が近い所為か良く見られます。
認識阻害があまり効いていないんです。
「八時から花火だから、それまでにいろいろ買っておこうぜ」
「そうですね。 ラウラ、何か食べますか? それとも何かやりますか?」
「わ、私はこういったものが初めてでして……」
「そういえばそうでしたね」
ラウラは少し俯きながら言います。
ラウラは試験管ベビーで、ずっと軍で過ごしてきましたからね。
こういったお祭ごとも初めてなんでしょう。
「じゃあ、夏祭りを目一杯楽しまないとな。 ウリア、金魚すくいって出来るか?」
「それはわかりませんね。 一夏、お手本を見せてくださいよ」
「わかった」
☆
「金魚すくいとは、中々難しかしいものですね」
「まあ、浴衣だしな。 慣れない服って言うのもあると思うぜ」
「それでも一匹は掬えていたじゃないですか。 初めてのラウラが一匹取ったことが凄いですよ」
ラウラは一匹、私は三匹、一夏は六匹掬いました。
一夏も同じ浴衣なのに、流石ですね。
そして今、私たちは屋台で焼きそばや焼きとうもろこしを食べています。
「はい、ラウラ。 あーん」
「あ、あーん」
ラウラは恥ずかしげに食べます。
「おいしいですか?」
「はい」
「こっちも美味いぜ」
一夏が焼きとうもろこしを差し出してきたので、私はそれに噛り付きます。
「おいしいです。 ラウラも食べたらどうですか?」
「では」
ラウラも焼きとうもろこしに噛り付きました。
「おいしいです。 夏祭りとはおいしいものが多いですね」
「そうだな。 それに、夏祭りって環境がより美味く感じさせるんだよ」
確かにそうですね。
「あれ? 一夏さんに、ウリアさん?」
そんなときに話しかけられました。
振り向くと、そこには蘭ちゃんがいました。
「おー、蘭か」
「奇遇ですね」
「そうだなー。 案外、知り合いに会わないと思っていたらばったりだったな。 弾は?」
世界って以外に狭いんですよね。
私と一夏が再会したのがいい例です。
「さあ? 家で寝ているんじゃないですか?」
蘭ちゃんも浴衣で、私と同じようにアップヘアーです。
「へえ、蘭の浴衣姿って初めてみたな。 洋服の印象しかなかったけど、和服も似合うんだな」
「そうですね。 とても可愛らしいですよ」
「そ、そうですか? ありがとうございます」
少し顔を赤らめる蘭ちゃん。
恥ずかしいのでしょうか?
「あー、会長が照れてるー。 めずらしー」
「そっかぁ。 他校の男子はもちろん同校の女子になびかない理由はこれかぁ」
「会長、ふぁいとっ♪」
蘭ちゃんの後ろにいた浴衣姿の女子たちがはやし立てます。
「違うわよっ!」
「きゃー、会長が怒った〜」
「逆鱗触れた〜」
「こわーい」
楽しそうですね。
「一夏さんとウリアさんは恋人同士なの! 私なんかウリアさんの足下にも及ばないの!」
自分をそんなに過小評価しなくてもいいのに。
私はそんなに大それた人ではありません。
「その娘たち、学校の友達?」
「あ、はい。 生徒会のメンバーです」
後ろの娘たちは改めて私を見たようで、なぜか固まっていました。
「すっごい綺麗な人……」
「別次元の人みたい……」
「お人形さんみたい……」
アルビノの私に、気味悪がらずよく言いますね。
って、思い返してみれば、ほとんどの人が私を気味悪がりませんね。
何故なんでしょうか?
「ところで、そちらの人は誰なんですか?」
蘭ちゃんはラウラを指して言いました。
「ラウラです。 私の妹みたいな感じですね」
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「あ、私は五反田蘭です。 一夏さんの友達の妹です」
二人は自己紹介をします。
「じゃあ、私たちはこれで」
「もう行くのか?」
「お三方の邪魔をするのはあれですので。 それに、私たちにも目的があるので」
「そうか。 んじゃ、またな」
「はい、また」
そう言うと、蘭ちゃんたちは去っていきました。
Side〜ウリア〜out