小説『IS インフィニット・ストラトス 〜銀の姫と白き騎士〜』
作者:黒翼()

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第四十二話『織斑家訪問』



Side〜ウリア〜

今私たちは、一夏の家の前にいます。
一夏は今日は朝早くから家に戻っていたのです。
曰く『家が心配だ。 ここ最近戻って無いから、千冬姉が戻ってたら大変なことになっている』だそうです。
千冬義姉さんは家事出来ませんからね……。
来たければ来てもいいとのことだったので、ラウラを連れてやってきました。
ラウラも暇だったみたいですし、ちょうど良かったようです。

「ここがお兄様と教官の家ですか」

「そうですよ」

私はインターホンに手を伸ばし、ボタンを押しました。
ピンポーンと、日本人(ちなみに私は日本生まれです)なら誰もが知っている音が鳴ります。

「……出てきませんね」

「……そうですね。 買い物にでも行っているのでしょうか?」

一夏がいるのなら、出てこないなんてありえないですし。
この時間に一夏が寝ているはずもなく、掃除に熱中してい聞こえないのでしょうか?

「とりあえず、もう一度押してみましょう」

私はまたインターホンを押し、またおなじみの音が鳴りますが、やはり一夏は出てきません。
物音一つしてません。

『アレイスターの気配は無いぞ』

リグレッターがそう言うので、アレイスターはいないのでしょう。

「……待ちますか」

「……待ちましょう」

生憎、私は合鍵を貰っていませんので家に入れません。
暑いですが、待ちましょう。

「お姉様、あれ……」

待つことを決めてすぐ、ラウラが指を指しながら呟きました。
指の先には、物凄い勢いで走ってくる人影がありました。
このスピード、只者ではありません!

「おおおおおおおおっ!」

といっても、一夏なんですけどね。
一夏は身体強化を使っているようで、常時以上の速度で、声を出しながら走ってきました。

「はぁ……はぁ……」

一夏は私たちの前に着くと止まり、肩で息をしていました。
どれほどの距離をあの速度で走っていたのでしょうか?

「わ、悪い、ウリア、はぁ……、合鍵、渡し、忘れて、た……」

息も絶え絶えといった様子で、一夏は謝罪をしてきました。

「いえ、気にしないでください。 というより、どうしてあんなに慌てて走ってきたのですか?」

私とラウラの共通の疑問です。
息をある程度整えた一夏は答えました。

「アレイスターがな、二人が家に来たって教えてくれたものだから、急いで戻ってきたんだ」

アレイスターの気配はありませんでした。
というわけは、英霊としての反応を隠していたのか、はたまたここにも滞空回線(アンダーライン)を飛ばしているかのどちらかですね。
おそらく、後者でしょう。
……アレイスターほどの魔術師ならば前者が出来そうですが。

「ところでお兄様。 どこに行っていたのですか?」

「ちょっとホームセンターに買い物に行っていたんだよ」

そういって袋を掲げる一夏。
もう息が整っています。
相変わらず体力回復速いですね。

「んじゃ、入ってくれ」

「「お邪魔します」」

一夏の家はごく普通の家です。
元々は中古物件だったようなのですが、千冬義姉さんが格安で買ったみたいなんです。
それでも、一夏が手を入れたり掃除をしたりしていたみたいなんです。

「やっと自由に出てこれるな」

家に入って扉を閉めた瞬間、アレイスターが実体化しました。
それと同時に、ラウラが警戒してアレイスターを睨み付けました。

「……貴様、何者だ?」

アレイスターのスキル『悪意』により、ラウラは不快感を覚えているのでしょう。

「君はまだ私を見ていなかったな」

アレイスターはラウラの殺気はどこ吹く風といった感じで受け流し、まったく気圧されていません。
まあ、アレイスターほどの魔術師が気圧されるなんて、今の時代早々ありませんよ。

「ラウラ、こいつは敵じゃないから安心しろ」

一夏はラウラに教えます。
まあ、いきなり不快感満載の不審者が現れたらこうなりますよね。

「っ! 不快感が、消えた……?」

あ、アレイスターが認めたようですね。
ラウラはいきなり消えた不快感に戸惑っているようです。

「私は一夏の味方だ。 そう睨むな」

アレイスターはそう言うとリビングへと入っていきました。

「あいつは悪い奴じゃないから安心してくれ」

苦笑しながらそういう一夏。
アレイスターは悪であっても、敵ではないですからね。

「あいつが実体化しているけど、くつろいでくれ」

無理かも知れないけどな、と最後に言って、一夏もリビングへと入っていきました。

「行きましょう、ラウラ。 危険はありませんから」

「……わかりました」

少し納得していないようですが、まあそれは時間が経てば解決されるでしょう。




 ☆




「ほい、麦茶」

一夏はコップに注いだお茶を私とラウラの前に置きました。
アレイスターはテレビを見ています。
……伝説の魔術師がテレビを見るなんて、なかなかシュールな光景ですね。

「今朝作ったやつだからちょっと薄いかもしれないけど、そこは許してくれ」

「ありがとうございます」

ラウラは先ほどよりかは落ち着いていますが、やはりまだ警戒が抜けていません。
まあ、わからなくはないんですけどね。

「そういえば一夏」

「何だ?」

「ここの様子ってどうだったんですか?」

一夏の手の届いていない家は、千冬義姉さんによって散らかされて放置されている可能性がありますからね。

「あー、それか。 うん、まあ、そこまで酷くはなかったな。 掃除なんてしてなかったからそれなりに汚れてたし、千冬姉が戻ってて散らかってたけど、酷くはなかった。 俺一人でも十分対応できる程度だった」

それくらいならまだ良かったのではないでしょうか?

「まあ、これからは楽になると思うと、気が軽くなるな」

「と、言いますと?」

「アレイスターの技術で自動掃除ロボットを作ってもらうんだよ」

「なるほど。 それなら楽になりますね」

アレイスターの持つ科学技術は現代科学の軽く二十年は先を越しますからね。
全自動掃除ロボットの一つや二つ、ありますよね。

「お姉様、お兄様。 あの変人は一体何者なのですか?」

「変人って……強ち間違いじゃないけどさ」

一夏の敵ではないといっても、正体不明ですからね。
気になるのもわかります。

「言っていいのか?」

一夏は私に問いかけます。
ラウラは多少は事情を知っているので、話してもいいでしょう。

「いいですよ。 ただ、あまり詳しいことは止めますので」

「わかった」

ラウラは私と長くいたおかげで、英霊の存在は知っていますからね。
多少言うくらいなら問題ないです。

「あいつは俺の召喚した英霊だ」

「なっ!? どうしてお兄様が!?」

普通、英霊はアインツベルン家の人間しか召喚できないので驚くラウラ。

「俺はイレギュラーみたいなんだよ。 誰も理由がわからないが、あいつは俺が確かに召喚した英霊だ」

「……あの変人の名前は?」

「アレイスター=クロウリー。 世界最大悪人と呼ばれる伝説の大魔術師だ」

「アレイスター=クロウリーだと!? なぜそのような人物がお兄様から召喚されたのですか?! おかしいです!」

あ、ラウラはアレイスターを知っていたんですね、驚きです。

「召喚そのものが異常なんだよ。 だから、過去のアレイスターじゃなくて並行世界、パラレルワールドのアレイスターなんだ。 悪いことをやってきたみたいだけど、間違いなく、あいつは俺の味方だ」

「そう、なのですか……」

何かを考え込むように黙り込んだラウラ。
少ししてからラウラは立ち上がり、アレイスターの方へと歩いていった。

「……私に何か用か?」

アレイスターは振り返ることなくラウラに訊ねた。

「お前は悪人だ。 だが、お兄様を裏切ることは無いな?」

「愚問だな。 私にも目的がある。 それがある限り、私のマスターたる一夏を騙すことはあっても裏切ることは無い。 それに令呪もある。 私たち英霊は令呪がある限り、マスターを裏切ることは出来ん」

「お前はお兄様を守ってくれるのか?」

「それこそ愚問だ。 私にも目的があると言ったはずだ。 私はマスターがいて現界している。 故にマスターは守るべき対象だ」

「……そうか。 ならばいい。 邪魔をしたな」

ラウラは戻ってきました。
アレイスターと聞いて、一夏が裏切られないか心配になったのでしょう。
というより、どうしてラウラはアレイスターなんて知っていたのでしょうか。
魔術師として、悪人として叩かれたアレイスターですが、マイナーなはずなんですが……。

「もういいのか?」

「はい。 あの男は信用は出来なくとも信頼は出来ます」

「そっか。 マスターとして嬉しいぜ」

自らが召喚した英霊が仲間に信頼されるのは、やりやすいですしね。
私は教えてはいないですけど、私の力の元だと言えば信頼できると思います。
まあ、力を過信することはありませんけどね。


Side〜〜out


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