小説『IS インフィニット・ストラトス 〜銀の姫と白き騎士〜』
作者:黒翼()

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第四十五話『始業と怒り』



Side〜ウリア〜

「でやあああああっ!!」

空中で一夏と鈴が戦闘をしています。
今日は九月三日。
二学期初の実践訓練は、一組と二組の合同で始まりました。

「甘い」

「くっ……!」

クラス代表同士ということで始まったバトルは、一夏が圧倒的に圧しています。
第二形態になった白式はより燃費が悪くなったものの、一夏はあの夏休みでかなり強くなりました。
なんと言っても、リグレッターが召喚されたことで、IS操縦に関しては彼の右に出る者はいません。
そんな彼に二週間ほどですが、みっちり扱かれたんです。
しかも、二人がやっていたのはただの戦闘ではなく、“殺し合い”を想定した戦闘です。
今の一夏は代表候補生にやられるほど、弱くはありません。

「終わりだ」

一夏は雪片を振り下ろし、試合終了のブザーが鳴り響きました。
にしても、本当に一夏の成長スピードは速いですね。
まだ私は負けませんが、一年もすれば、今の私くらいになるしょう。
いえ、一年も掛からないかもしれません。
私も負けていられませんね。
私ももっと強くなりませんといけません。




 ☆




「俺の二連勝だな。 言い出しっぺはお前なんだから、文句は言うなよ」

「くぅ……!」

鈴は悔しそうに一夏に昼食を奢ります。
鈴が言い出して、『負けた方が買った方に昼食を奢る』という賭けをしていたんです。

「だから言ったじゃないですか。 負けるだけだって」

私はちゃんと忠告したんですよ?
一夏は本当に強くなったので、鈴に忠告したんですよ?

「確かに言ってたけどさぁ! まさかこの夏休みでこんなに変わってるなんて思わなかったのよ!」

「確かに、一夏さんはこの夏休みでとても強くなられましたわね」

「あの強さははっきり言って異常だぞ。 あれならばウリアにも勝てるかも知れぬな」

「ああ、無理無理。 マジの本気出したウリアには敵わねえよ。 勝てる気がしねえ」

そんなに言いますか?
過大評価だと私は思うんですけど。

「まだ負けていられませんよ。 一夏に負けていては、師としての面目がありませんからね」

「それ以前にお前が強すぎるのだ。 お前はいつも手加減をしているのか?」

「手加減なんてしてませんよ。 いつも全力ですけど、本気を出していないだけです」

私が最近本当に本気になったのは、夏休みに一夏とやった時ですね。
一夏が本当に強くなって、一夏に頼まれたのでやったんです。
そしたら瞬殺でしたね。

「お姉様。 お兄様にやったのですか?」

「ええ」

ラウラが尋ねてきたので答えます。
そういえば、ラウラは受けたことがありましたね。

「前やったら瞬殺された。 あれはいかん。 冗談抜きで殺されるかと思った」

英霊たちの力やその宝具を使っていますからね。
英霊は伝説にまでなったかの偉人たち。
それに、宝具は人一人が起こすには異常なほどの性能を持ちますからね。
いくら宝具がIS化されて一部劣化しているとはいえ、宝具が人の物にそう簡単には負けませんよ。

「私が本当に本気の時は、殺しに掛かりますからね」

「あのお姉様ははっきり言って怖いです。 私がまだ空っぽのときに一度だけそれを受けて、あまりの恐怖に震えましたから」

「ですからまあ、貴女たちにはやりませんよ。 そんなことをしてしまったら、しばらく戦う以前に私を見るだけでも怖くなるでしょうから」

そうなった人が、過去にいましたから。

「そ、そんなになのか?」

「多分そうなると思うぜ。 俺もウリアと付き合ってなかったら正直しばらくトラウマになってただろうしな」

「私は正直トラウマになりかけました」

ラウラは本気でも弱い方でしたので、まだ大丈夫でしたね。

「ラウラや一夏でもそうなるのか……?」

「アンタ、どんだけ怖いのよ……?」

「見てみたいという興味もありますが」

「やめておいた方がいい気がするね」

「まあ、ここではそう簡単になることはありませんよ。 基本はただの模擬戦ですし、私が相手に殺意を沸くほどに切れることもそうそうありませんから」

私をそこまで怒らせる人は、そうそういませんよ。
流石に、“あの人”はもう懲りていると思いますしね。
……いえ、またやらかすかもしれませんね、“あの人”ならば。

「午後も実習ですし、早めに食事は終わらせておきましょう。 食べてすぐは動き辛いのでね」

まあ、“あの人”については今考えても無駄ですね。
今まで絡んで来なかったし、今更来ないでしょう。


Side〜ウリア〜out


Side〜一夏〜

「やっぱり無駄に広いな……」

もはや俺専用となっているロッカールームは、静か過ぎて逆に落ち着かない。
少し物音があったほうが落ち着く。
俺は白式のコンソールを呼び出して調整を始めた。
前にウリアに、常に最高の状態で扱えるように、調整をしておくように言われたからな。
確かにその通りなので、俺も自分で調整できるように勉強したんだ。

(どこも問題はなさそうだな……)

問題は無いが、白式のエネルギー割り振りを少し変えようかと考える。

(うーん、このままでもいいけど、雪羅に割くエネルギーを少し減らしてスラスターに回すか……。 防御を回避に変えた方が攻撃に鋭さが増すしな……うーん……悩むな……)

速さにエネルギーを振れば、雪羅使用の攻撃が減る。
どっちもどっちなんだけど、手が減るのは痛い。
だから、結局今の割合がベストなんだよな。
まだ、俺には防御が多い方がいい。
もう少し強くなってから、スピードに割くか。
エネルギーをどっかからか持ってこれれば、大胆にスピード振りも出来るんだけどな。
ふと、ここに俺以外の誰かの気配を感じた。

「そこにいるのは誰だ?」

殺気を出しながら問う。
俺もウリアやもう一人の俺、アレイスターほどではないが、殺気という物が出せるようなった。

「あら、気づかれちゃった?」

出てきたのは水色の髪をした二年生の生徒(リボンの色が教えてくれた)だった。
扇子で口元を隠した、隙が無い人だった。

(……隙がまったく無い。 この人、相当の手練(てだれ)だな。 だけど、ウリアや千冬姉よりも下だ)

ここは学校だけど、ここまでの手練はそうはいない。
警戒しておくに越したことは無いだろう。

「うふふっ。 私を警戒するのはいいけど、急がないと織斑先生に怒られるわよ」

「は?」

やべっ!
この人に注意を向けすぎた!
時計を見ると、すでに授業から三分経過していた。

「テメェ! って、いねぇ!? ああもう! 何なんだよ!」

元凶はすでにおらず、俺は身体強化をかけて猛ダッシュで走った。
アレイスターの奴も教えてくれても良かっただろうに!


Side〜一夏〜out


Side〜ウリア〜

一夏がなぜか授業に遅れてきて、千冬義姉さんに問い詰められています。
にしても、一夏が遅刻だなんて何かがあったに違いありません。

「……遅刻の言い訳は以上か?」

「いや、だから見知らぬ二年生に絡まれまして―――」

「ではその女子の名前を言ってみろ」

「だから初対面ですって! 何か危険な感じがしたんで警戒してたらこんな時間になってしまったんですよ!」

危険な……感じ?
いや、まさか“あの人”じゃありませんよね。
“あの人”は懲りているはずですから。

「ほう。 お前はアインツベルンという女がいながら、初対面の女子との会話を優先して、授業に遅れたのか」

「会話はして無いって! 千冬姉ならわかるんじゃないか?! 水色髪の二年生で、武術だか何かを習っていて、相当な手練の女子生徒!」

水色、髪……?

「一夏、ちょっといいですか?」

ここははっきり問いただした方がいいでしょう。
もしも“あの人”ならば、『また』お仕置きをしなければなりませんからね。

「その女子生徒、水色の髪で扇子を持っていませんでしたか?」

「持ってたけど……それがどうしたんだ? 知り合いなのか?」

そうですか……やっぱり“あの人”でしたか……。

「またですか……」

『『『っ!?』』』

「貴女は本当に懲りないですね……」

「お、おい、ウリア?」

一夏が恐る恐ると言った様子で話しかけてきました。

「ふふふ……どうしたんですか一夏?」

「だ、大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ? ちょっと枷が外れそうですけど、大丈夫ですよ?」

「そ、そうなのか?」

また“あの人”は性懲りも無く……。
本当に私を怒らせるのが好きですね、“あの人”は。

「あ、アインツベルン。 殺気が漏れ出している。 出来ることなら抑えろ」

千冬義姉さんも何やら動揺していますね。
まあ、私の殺気が漏れ出しているのなら、わからなくはないですね。

「ああ、すみません。 ですが、今はどうにも抑えれそうにありませんね。 悪いんですが、しばらく休ませてもらいます」

「あ、ああ。 そうしてくれて構わない」

私は列から離れます。
今は、“あの人”への怒りがぶり返してきているんです。
私でも、今すぐこれを抑えることは出来そうにありません。

「……織斑。 お前はアインツベルンの傍にいてやれ。 今のあいつは何をするかわからん」

「……あっ、はい。 わかりました」

一夏が走って来ました。
どうやら、皆さんに心配をかけてしまったようですね。

「ウリア。 一体どうしたんだ?」

「すみません、一夏。 一夏の会ったあの人だけは、放置しておくわけにはいかないんです」

“あの人”だけは、放っておくと大変なことになってしまいますからね。

「あの人が誰なのかは知らない。 だけど、俺も頼ってくれよ」

「……はい」

とりあえず、今はこの気持ちを抑えないといけませんね……。


Side〜ウリア〜out


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