第四十六話『お仕置きの前』
Side〜ウリア〜
私が怒りを思い出した翌日。
あの人の今回の目的がまだわからないので、まだお仕置きはしていません。
そして今は、SHRと一限目の半分を使っての全校集会が行われています。
内容は、今月中程にある学園祭のことです。
「それでは、生徒会長から説明をさせていただきます」
生徒会の虚さんがそう言いました。
虚さんとは、あの人関係で会ったことがあるので知っています。
「やあみんな。 おはよう」
「っ!」
「………………」
隣で一夏が反応しました。
やっぱり貴女でしたか。
「さてさて、今年は色々と立て込んでいてちゃんとした挨拶がまだだったね。 私の名前は更識楯無。 君たち生徒の長よ。 以後、よろしく」
この人、碌なことはしないくせに、カリスマ性があるからでしょうね、無駄に人気があるんですよ。
「では、今月の一大イベント学園祭だけど、今回に限り特別ルールを導入するわ。 その内容と言うのは」
まぁた禄でもないことをやる気ですね。
「名付けて、『各部対抗織斑一夏争奪戦』!」
ディスプレイには一夏の写真が映し出されました。
「は?」
『『『ええええええええ〜〜〜〜〜〜〜っ!?』』』
割れんばかりの叫び声がホールに響きます。
一夏の様子を見る限り、というか当然一夏の承諾がありませんね。
というより、まだ一夏を狙っている人がいたんでしたね。
「静かに。 学園祭では毎年各部活ごとの催し物を出し、それに対して投票を行って、上位組は部費に特別助成金が出る仕組みでした。 しかし、今回はそれではつまらないと思い―――」
扇子で一夏を指し示す楯無。
「織斑一夏を、一位の部活動に強制入部させましょう!」
「ふふふふふ……」
私は声が漏れた。
やっぱり、貴女にはお仕置きが必要みたいですね……!
「う、ウリア?」
「あははははっ!」
私の笑い声に、ホールが凍りつく。
そんなに殺気は出していないんですけどねぇ。
私は歩き出し、楯無の立つ壇上へと向かう。
「久しぶりですねぇ、楯無」
この人は年上でありますが、珍しく呼び捨てにしているんです。
私が年上であるのに呼び捨てにするのは、そうはいませんよ。
「また貴女は性懲りも無く、禄でもないことを企てているみたいですねぇ」
「そ、それは……」
顔を青くし、汗を流しながら後ずさる楯無。
こうなるくらいなら、最初からやらなければいいのに……。
「一夏の承諾を得ているのならまだ良かったんですけど、そんなことはしていないんでしょう? ねぇ、楯無?」
「う、ウリアスフィール様……」
ああ、またその呼び方ですか。
様付けは止めてくださいと、何度も言っているんですけどねぇ。
「私は前にもほどほどにするようにと言ったはずです。 忘れてしまいましたか?」
「そ、そんなことはありません」
「ならば、どうしてこうなっているのでしょうねぇ? 私の納得できる内容で説明してくれませんか?」
私は壇上に上がり、蒼白となった楯無の目の前で問いかけます。
「あ、あのですね? 織斑一夏君が部活に入っていないと言うことで、生徒会に多くの苦情が来ていまして、学園長にも言われたので、今回はこのようなことをさせていただきました。 無理矢理なのはわかりますが、生徒会権限を使って入れるようにとのことでしたので、強行手段を取らせて頂きました」
「まあ、それなら仕方はありませんね」
楯無はぱぁっと表情が明るくなるが、誰も良いとは言っていません。
「ですが、それでも本人に一言言うのが礼儀と言うものではないのですか?」
「それは……」
「あまつさえ、昨日は一夏を授業に遅らせたり、私的にも貴女にはお仕置きが必要だと思うのですよ」
「っ!」(ぶんぶんぶんっ!)
楯無は高速で首を振ります。
前回のお仕置きでもトラウマになっていましたからね。
まあ、自業自得なんですよね。
「と言うわけで織斑先生」
「な、何だ? アインツベルン」
「楯無にお仕置きしないといけないので、今からアリーナを借りてもよろしいですか?」
「か、構わんぞ」
あれ?
どうして千冬義姉さんが動揺しているのでしょうか?
……まあいいでしょう。
今は楯無にお仕置きをすることの方が優先されます。
「あまり見ない方がいいですよ。 とても見ていれるようなものじゃあないので。 まあ、見るなら自己責任でお願いします」
私はそうとだけ言い、楯無を引き摺って行きます。
今回は、少しばかり本気で殺るとしましょうか。
☆
さてやってきましたアリーナに。
楯無はがくがくと震えていますが、抵抗しなければ余計にトラウマが酷くなるだけです。
「あ、あの、ウリアスフィール様……」
「何ですか、楯無?」
「ほ、本当にやるのですか……?」
「当然です。 人様に迷惑をかけるのもほどほどにしろと前にも言いましたが、貴女は一夏を標的にしてしまったのが悪かったですね。 私の一夏に迷惑をかけるだなんて、赦せませんよ」
「も、申し訳ありません」
「謝っても駄目です。 お仕置きはしないといけませんので」
冷酷だと言いたければ言えばいいのです。
私は一夏の害となるものを野放しにしておくことは出来ません。
「お、おい、ウリア?」
「あ、どうしたんですか? 一夏」
私たちを追ってきたのか、一夏がいました。
お仕置きのことで頭がいっぱいで気づきませんでした。
私もまだまだ未熟ですね。
「えーっと、何をするつもりなんだ?」
「何ってお仕置きですよ。 楯無はまたやらかしたのですから、お仕置きしないといけないのです。 いくら一夏が止めようとも、お仕置きはやめませんよ。 この娘はお仕置きをしないとわからないみたいですから」
「お、おう、わかった。 く、くれぐれもやり過ぎないようにな?」
「ふふふっ、わかっていますよ。 言われなくても、死なない程度に抑えますから」
「お、おう」
一夏はそう言うといそいそと出て行きました。
観戦でもするのでしょうね。
「さあ楯無。 やりますよ。 一度でも攻撃を通せれば、お仕置きは止めますから。 ただ、出来なければお仕置きが長引くだけです。 ふふふふふっ」
いけませんね。
笑いがこぼれてしまいます。
「速く準備をしなさい、楯無。 残念ですが、あまり時間をかけられないので」
「は、はいぃ!」
楯無は走って去っていきました。
もし逃げようものなら、お仕置きがグレードアップするだけです。
まあ、逃げるなんて真似、出来ないと思いますけどね。
(二人っきりなら固有結界もありだったんですけど、観客が多いので使えませんね)
<それなら、私とイスカンダルは無理だな。 私ならば『無限の剣製』があったのだがな>
<余の『王の軍勢』では、仕置きではなく蹂躙になってしまうからのう>
<ならばどうするのですか? 基本私たちの武器は対人や対軍ですし、それにお仕置きに向くような……っ! ウリアスフィール、貴女まさか!>
(そのまさかです。 ギルガメッシュ。 貴方の力を貸してください)
<この我の力を仕置きなんぞに使う気か?>
(そのつもりですけど何か? 楯無にはきついお仕置きが必要なんですよ。 ふふふっ、駄目ならいいんですよ? 出番が今以上に減るだけですから)
『マスター。 メタ発言は止めてくれ』
<……ふん、仕方が無い。 今回だけだぞ>
『<<<ギルガメッシュが出番に靡いた!?>>>』
(ありがとうございます、ギルガメッシュ)
さて、これでお仕置きの手段は決定しました。
あ、来ましたね。
(行きますよ、ギルガメッシュ)
<良いだろう。 せめて我を退屈させるなよ>
(それは保障できませんが、退屈になることは無いでしょう)
私はサーヴァントを【英霊・ギルガメッシュ】で展開します。
この黄金の鎧を纏うのも久しぶりですね。
さて、殺りますか。
私はピットを飛び立ちます。
Side〜ウリア〜out