第四十七話『お仕置きと言う名の蹂躪』
Side〜ウリア〜
「さて、楯無」
「は、はいっ! 何でございましょうか?!」
そんなに私って怖いですか?
「さっきも言ったとおり、私に一撃攻撃を入れればその時点でお仕置きは終了です。 いいですね?」
「はい!」
戦闘となると、少しは私のトラウマは治まるようです。
流石は更識家当主と言ったところですか。
戦闘時に戦えなければ意味がありませんからね。
でも、それでも完全にはトラウマは消えていないようです。
僅かにですが、震えていますから。
「織斑先生。 お願いします」
『わかった』
千冬義姉さんは立会いに来ました。
私が忠告したにもかかわらず、思いの他観客が集まったことと、私がやり過ぎないかという監視のために来たみたいです。
『試合、開始!』
千冬義姉さんの合図と開始に、ギルガメッシュの象徴たる宝具『王の財宝』を発動します。
私の背後の空間が歪み、黄金に染まる。
そして、その黄金に染まった空間から出現する剣や槍、ハルバードなどの武器。
しかも、この武器全てが宝具です。
「さあ、逃げてください」
そういうと同時に、武器を一本高速射出する。
「っ!?」
楯無はそれを避けるが、その剣は大地を抉った。
その威力に、楯無は恐怖した。
「ほら、この『王の財宝』の射出から逃げてくださいよ!」
私は次々に射出していく。
楯無は、その嵐のような宝具の雨に、ただ逃げることしか出来ない。
楯無のIS『霧纏の淑女』はエネルギーを伝達するナノマシンで水を操り、攻守に使えるのだが、今のところ防御にしか使っていない。
いや、攻撃に回す余裕が無いのでしょう。
だって、もう既に半泣きですもの。
元々『天の鎖』は使う気はありませんでしたが、これならやっぱり使わなくてもいいですね。
「ほらほら、この程度ですか?」
楯無は先ほどから大型ランスに内蔵されている四連装ガトリングガンでしか攻撃していません。
私がただのガトリングに当たるはずも無く、全て回避し、弾きます。
「楯無、貴女が本当にこの程度ですか? まったく、拍子抜けですね。 ……もう終わらせましょうか」
『『『っ!?』』』
楯無及びに観客全員が息を飲んだ。
なぜなら、先ほどまで展開されていた黄金の空間が一回り以上大きくなり、出現した宝具の数も倍以上になったから。
その数は47。
その全てが、Cランクの宝具です。
Bランク以上は、流石に可愛そうですからね。
「さあ、今の貴女に、この宝具の一斉掃射を避けれます?」
「ひぃっ!」
完全に脅えている楯無。
私はわかりやすく、軽く上げた右手を楯無に向ける。
その瞬間、47の全ての宝具が一斉に射出されます。
楯無はその宝具の雨に成す術無く飲み込まれました。
「ふふふ……」
楯無は大地に倒れ、ISも解除されている。
まあ、あれだけの宝具の雨を受けたんですから、当然と言えば当然ですか。
『……しょ、勝者、ウリアスフィール・フォン・アインツベルン!』
「あははっ!」
アリーナは静まり返り、誰も声を発することが、動くことが出来ないでいた。
そのアリーナの中で唯一笑い、動いているのは私だけです。
まずいですね……感情のコントロールが出来ていません。
……とりあえず、宝具を回収しましょう。
大地に突き刺さっている宝具は霧のように霧散し、これで回収は完了しました。
私は楯無を抱えてピットに戻り、アリーナに残ったのは宝具による被害の爪痕と、観客の私に対する恐怖心だけでした。
はぁ……、どうしてお仕置きとなるとやりすぎてしまうんでしょうか……。
Side〜ウリア〜out
Side〜一夏〜
あのウリアが会長相手に無双を、一方的な蹂躪をやってのけた後、俺はすぐにピットに走った。
まさかこんなことになるとは思ってもいなかった。
というより、観客が全員ウリアに脅えていた。
わからなくは無いが、ウリアも結構本気だった。
ウリアはあの人に対して本気の殺気をぶつけていた。
ウリアは会長のみに殺気をぶつけていたが、あまりにも大きな殺気が観客にも流れ、その殺気に中てられて気絶する人もいた。
あんな笑い方もしない。
とにかく、俺はウリアの元に走った。
あんなウリアは普通じゃない。
「ウリア! っ!」
ピットに辿りついて、ピットの中を見て俺は言葉を失った。
さっきあんなことを仕出かしたウリアが落ち込んでいた。
物凄く落ち込んでいた。
「う、ウリア?」
「……え、ああ、一夏ですか……」
反応が薄い。
今まで見たことが無いほどに落ち込んでいた。
「……すみません一夏……私、やりすぎちゃいました……」
「あ、ああ……」
あまりの落ち込みように、俺は未だに固まっていた。
はっとした俺は、ウリアを抱きしめる。
何がなんだかわからないが、とにかく抱きしめた方がいい気がした。
「私……お仕置きとなると見境がなくなってしまうんです……。 ……あそこまでやるつもりは無かったのに……」
「ウリア……」
ウリアはやりすぎてしまったことに落ち込んでいるんだ。
お仕置きだとしても、自分の中のイメージ以上にやりすぎてしまったのだろう。
自分の理性で抑えられない、あの黒い一面が、ウリアをより落ち込ませているんだろう。
それに、関係ない観客にも恐怖心を植え付けてしまった。
そのことに落ち込んでいるのだろう。
俺は、何か言わないといけない。
今何か言わなければ、ウリアが壊れてしまう気がしたから。
「大丈夫だよ、ウリア。 ウリアには俺がいる。 たとえ他の人に拒絶されても、ウリアには俺たちが、千冬姉やラウラたちがついている。 だから、そんなに脅えなくていいんだよ。 そんなに自分を追い詰めなくてもいいんだよ」
いざ言おうとしたら、すらすらと言葉が出てきた。
自分でも驚くほどにすらすらと出てきたが、これは紛れも無い俺の本心だ。
これが少しでもウリアのためになってくれればいいんだが……。
「だからさ、今はゆっくり休みな」
今のウリアは、精神的に弱っている。
今の状態で他の生徒に会わせると、ウリアの精神が壊れてしまうだろう。
「……はい……」
ウリアは俺に身体を預け、瞼を閉じた。
お休み、ウリア……。
Side〜一夏〜out