第四十九話『クラスメイトの優しさ』
Side〜一夏〜
俺は虚さんと別れた後、急いで戻ってきた。
俺が戻ってくると、そこにはリグレッターがいた。
「帰ってきたのか、俺」
「ああ。 心配だったからな」
「この時代のウリアには、やっぱりこの時代の俺でないと駄目だな。 ……後は任せたぜ、俺」
「ああ、任せろ」
そう言うと、リグレッターは霊体化した。
やっぱり、心配なんだろうな。
俺は未だに眠るウリアの手を握る。
「ウリア……」
ウリアがこんなにうなされているのに、俺は何も出来ない。
俺にやれることはウリアを支えることだけだ。
だがそれがもどかしい。
今苦しんでいるウリアを助けることが出来ないのだから。
ふと、ぎゅっと手が握られた。
「ウリア?」
「……いち……か……?」
うなされていたウリアのまぶたが開いた。
「ああ、一夏だ!」
せめて安心感くらい与えられたらと思い、俺はウリアに声をかける。
「ウリア、大丈夫か?」
「……すみません……」
「どうしてウリアが謝るんだ。 ウリアが謝るようなことなんて無い」
「……迷惑を、かけてしまいました……」
「そんなもの、好きなだけかけてくれ。 俺はウリアに迷惑かけてばかりだ。 ウリアも俺に迷惑かけてくれよ」
いつもウリアは背負いすぎなんだ。
俺にも背負わせて欲しい。
「俺はいつでもウリアと一緒にいるから。 今は落ち着こう。 それで、落ち着いたら皆のところに行こう。 な?」
「……はい……」
ウリアは頷いてくれた。
俺はもう、何があってもウリアを離さない。
「ウリア、何か欲しいものはあるか? 何か食べたいものはあるか? 何かして欲しいことはあるか?」
ウリアの心が休めれるようになら、俺は何でもする。
出来ないことでも、やり遂げてみせる。
「……一緒に、いてください……」
「……わかった。 ずっと一緒にいるよ。 ウリアの気が済むまで、ずっと傍にいるよ」
こんなに弱ったウリアは始めて見る。
だからこそ、ウリアの頼りにならなければならない。
コンコンッ。
「お兄様、よろしいですか?」
「ああ、ラウラか。 ウリア、入れてもいいか?」
「……どうぞ」
ラウラだから、入れるんだろうな。
まあ、外にいる気配は一つじゃないんだけど。
「鍵は開いてるから入ってくれ」
「失礼します」
「お邪魔します」
「失礼する」
「邪魔するわよ」
「お邪魔いたしますわ」
入ってきたのは、ラウラ、シャル、箒、鈴、セシリアだった。
扉の外には、一組の女子たちもいた。
ここから見るに、半分近くいるんじゃないか?
「皆揃ってどうしたんだ?」
「お姉様の様子が気になったので来ました」
「そうか。 少し前に目を覚ましたところだぞ」
「皆さん、ご心配をかけましたね……」
ウリアが体を起こす。
ウリアは扉の外を見て、驚いていた。
いつものウリアなら気づいていただろうけど、今は寝起きで傷心中だ。
外の気配に気づいていなかったのだろう。
「ど、どうして……皆さんが……」
「皆、ウリアが心配なんだよ」
「私、あんなことをしたのに……」
やっぱりウリアは自分を責めていたみたいだ。
「そんなこと、どうでもいいんですよ」
「どうでもいいはずないでしょう!? あんな酷いことをしたんですよ!?」
ウリアは信じられないみたいで、叫んでいた。
「人間、誰しも意外な一面があるものだ」
「そ。 それはウリアだって例外じゃないってこと」
「ウリアさんは完璧すぎますから、むしろあの様な一面があって当然なのですわ」
「ですが、お姉様は優しいです。 それは、皆が知っています。 お姉様があの様なことを誰にでもやらないことはわかっています。 今日のことは、あの女がお兄様に承諾なしであのようなことをしようとしたからの自業自得なのです。 お姉様。 ここにいる者たちは、お姉様を嫌ったりしません」
ラウラがそう言うと、他の皆も頷いた。
ウリアは目を見開いて驚いていて、そして、その瞳から涙が溢れた。
俺は少し身体を動かして、ウリアを優しく抱きしめる。
さっきの体勢だと、抱きしめにくかったからな。
「ここにいる人は皆、ウリアの味方だ。 ウリアは自分を追い詰めすぎなんだよ。 もっと、自分の周りにいる人を信じてみようぜ」
「……はい……」
抱きしめる俺に身体を預けるウリアを、皆は微笑みながら見ていた。
俺は、ウリアの頭を撫でながら、ウリアの全てを受け入れる。
「もう大丈夫なのか?」
少しすると、ウリアは顔を上げて微笑んだ。
「大丈夫ですよ、一夏もいますから」
大分口調も戻ってきているし、心の起伏も安定しているだろう。
「お姉様、大丈夫なのですか?」
「万全とは言えませんけど、皆さんのおかげで大分落ち着きました」
「大丈夫そうで何よりだ。 ここにいない人も、心配していたぞ」
「本当にそうだといいんですけどね……」
「大丈夫だって。 皆アンタの優しさを知ってるんだし。 まあ、しばらくは恐怖心が残っちゃうかもしれないけどね」
二、三年生は知らないが、一年生のほとんどがウリアの優しさを知っている。
少しは怖がるかもしれないけど、すぐにまた受け入れてくれるはずだ。
ここにいる人たちみたいにな。
「ウリアさんは本当にお強いですね。 見ているわたくしまで震えましたわ。 あれがウリアさんの本気なのですね」
「まあはい、そうですね。 やりすぎてしまいましたけど……」
「あれは僕も受けたくは無いかな……。 あれを全部避けるのも、弾くのも無理そうだしね」
「あれは私の『サーヴァント』の中でも最強の火力を持ちますからね。 あれでも手加減したんですよ」
そう言えば、あの姿は見覚えがあるな。
確か、ギルガメッシュって言ってたっけ。
ウリアから聞いた話だと、古代ウルクの人類最古の英雄王だって。
道理で強いわけだ。
「あれで!? ホント化物よね、アンタとアンタのISって」
「私たちは普通では無いですので」
俺もその普通じゃないに入ってるからな。
完全なイレギュラーだとしても、魔術を知り、アレイスターを召喚したんだから。
「じゃあ、僕たちは戻るね」
「もう戻るのか?」
「はい。 私たちがいては、お姉様も落ち着けないでしょう。 お兄様と二人きりの方がよろしいでしょうから」
「アタシらがいたら、あんたらの邪魔になっちゃうからね。 アタシらはこれで退散するわ」
「私たちがいては、ウリアも落ち着けないだろうしな」
「お大事に、ウリアさん」
そういうと、皆は部屋を出て行った。
「またね、アインツベルンさん!」
「私たちはアインツベルンさんの味方だからね!」
「私たちも協力するからね!」
廊下にいた人たちも、各々で声をかけてから立ち去っていった。
皆、本当にいい人たちだな。
Side〜一夏〜out