小説『IS インフィニット・ストラトス 〜銀の姫と白き騎士〜』
作者:黒翼()

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第六十話『キャノンボール・ファスト開幕』



Side〜ウリア〜

キャノンボール・ファスト当日になりました。
会場は超満員で、空には花火が打ち上げられています。

「よく晴れたなぁ」

「そうですね」

今日のプログラムは、まず最初に二年生のレースがあり、それから一年生の専用機持ちのレース、そして一年生の訓練機組のレース。
そのあとに三年生のエキシビジョン・レースになります。

「あ、お兄様にお姉様。 こちらにいらしたのですか」

「あ、ラウラ。 もう時間か?」

「はい。 お兄様がいらっしゃらないので、探していたのです」

「そっか。 それは悪かったな」

「では、私は応援していますね。 二人とも、頑張ってください」

私はレースに出ないので、観客席で見ることになっています。

「ああ。 じゃあまたな、ウリア」

「では失礼します」

一夏とラウラはピットへ向けて歩いていきました。
私も自分の席へと向かうとしましょう。
私は特等席らしく、見晴らしが一番いいところみたいです。
何か皆さんに悪いですね。

『マスター、敵がいる』

リグレッターがそう念話で言ってきました。
やはり出てきましたか。

『数は?』

『一人だ。 だが、後々襲撃をかけてくることもありえる』

一人で来るなんて、余程自信があるみたいですね。
そうなってくると、ここに来たのは絞られてきますね。
どうせスコールでしょう。

『マスターの推測は当たりだ。 来ているのはスコールだ。 だが、英霊の気配は感じない』

スコールは亡国機業のリーダーに近い位置にいる幹部です。
私たちでさえも亡国機業のリーダーはわかっていないのですが、スコールがそれに近い位置にいるのはわかっています。

『で、どうするんだ?』

『今は様子見です。 こちらから問題を起こすのは控えたいので。 事が起こってからでは遅いのですが、そうしておいた方がいいでしょう。 ハサンに監視をさせますが、リグレッターも警戒をしておいてください』

『了解した』

ハサンはスキル『隠密行動』を持つので、攻勢に出ない限りは英霊でさえも気づくのは難しいのです。
なので、諜報にはとても助かります。
こういうのには、アサシンクラスの英霊は大活躍です。

(ハサン、話を聞いていましたね? スコールの監視、任せましたよ)

<御意>

これでスコールの監視は問題ないでしょう。
とりあえず、私も警戒しておくとしましょう。
スコールがここに来ている以上、襲撃が起こる可能性は高いでしょう。
千冬義姉さんにも伝えておきましょう。
メールでもしておきましょう。

『襲撃の可能性あり。 警戒はしておいてください』

これでいいですね。
返信はすぐに来ました。
千冬義姉さんの返信は相変わらず早いですね。

『わかった。 悪いが、もしもの時はお前の力を借りるぞ』

多分、そうなるでしょうね。

『当然です』

簡単ですけど、これでいいでしょう。
千冬義姉さんも忙しいでしょうしね。

『それでは皆さん、一年生の専用機持ち組のレースを開催します!』

大きなアナウンスが響くと、観客たちが今まで以上に沸きあがりました。
世界で唯一ISを動かせる男である一夏が出るので、この盛り上がりもわかります。
そして、スタートのシグナルランプが点灯しました。
3……2……1……、始まりました。
一番最初に飛び出したのはセシリアでした。
その後ろに一夏がついています。
スリップ・ストリームで空気抵抗を減らしてエネルギーの使用量を減らすつもりみたいです。
レースは白熱し、抜きつ抜かれつのレースですが、一夏は一度も先頭には出ず、先頭の背中にずっとくっついていました。
そして、そんなレースも二週目に入り、異変が起こりました。
そう、危惧していた襲撃が起こったのです。
上空から飛来した機体『サイレント・ゼフィルス』がその時トップだったシャルロットとラウラ、そしてその後ろについていた一夏を狙ってレーザーを撃ち放ちました。
一夏はそれを完璧に避け、ラウラとシャルロットは直撃はしませんでしたが、被弾しました。
その所為で二人はコースアウトしましたが、あの程度なら問題はそこまで大きく無いでしょう。

「きゃああああっ!」

誰かの悲鳴が上がり、そこから混乱は広がり、あっという間にパニックで包まれてしまいました。

「落ち着いて! 皆さん、落ち着いて避難してください!」

スタッフの声が響きますが、誰もがパニックに陥っているため、誰にも届いていません。

『マスター、どうするんだ?』

そこに、リグレッターが聞いてきました。

『とりあえず、襲撃者は一夏たちに任せます。 私は避難誘導をしてからにします。 まずは観客を逃がさないと、戦いの足枷にしかなりませんから』

『わかった』

さて、避難誘導をしませんとね。
敵が観客に手を出さないとも限りませんし、流れ弾が来ないとも限りませんからね。

『一夏』

『ウリアか! こいつは俺の方で何とかしてみる! その間に観客の避難を済ませてくれ!』

一夏に念話をしたら、私が何も言わなくてもわかってくれました。

『わかりました。 それと、あの機体はイギリスから強奪されたものですので、もしかしたらセシリアが無茶をするかもしれません。 そうなった時は、セシリアが邪魔なら力尽くでもいいので眠らせてください。 後、身体強化以外の魔術を使っても構いません』

『わかった!』

今の一夏の実力なら互角以上に戦えるでしょうが、セシリアが不安要素です。
正気ではないセシリアがいたら、逆に一夏の邪魔になってしまうでしょう。
私も合流するために避難を促しましょう。


Side〜ウリア〜out


Side〜一夏〜

ウリアは観客の避難をしてくれている。
だから、俺はこいつを抑え込まないとな。
こいつが客を攻撃しないとも限らないからな。

『アレイスター。 やれるか?』

『とりあえずは身体強化にISの強化でいいのか?』

戦闘だけに集中したいし、まだまだ未熟な俺よりもずっと優れた魔術師であるアレイスターに任せた方がいい。
俺の出来る強化よりも、ずっと効果の高い強化をしてくれる。

『ああ。 それだけやってくれれば十分だ。 魔力なら俺から好きなだけ持って行ってくれて構わない。 思いっきりやってくれ!』

『いいだろう』

若干魔力が減ったが、それでも全然余裕で動けるほどに僅かであった。
流石はアレイスターだ。
魔力消費量が少ないのに、俺の魔術よりもずっと効果が高い。
実際は違うが例えるのなら、俺の強化に使う魔力が5だとして、アレイスターが使う魔力は1。
しかも俺がやった場合の効果が1だとして、アレイスターは5だ。
やっぱり魔術師としては天と地の差だな。
まあ、伝説の魔術師と比べること事態が間違っているが。
さて、アレイスターのおかげで俺も白式も常時の倍並の力を得ている。
この状態を完璧に扱いきれるかどうかは正直まだ不安だが、やるしかない。

「一夏さん! あの機体はわたくしが!」

「おい! 待てセシリア!」

セシリアはウリアの思った通り飛び出していった。
あいつ、自国の機体だから自分の手で取り返そうとしているのだろうが、まず無理だろうな。
見た感じだが間違いない。
セシリアと敵とでは実力が違いすぎる。
セシリアが一対一で勝つことは不可能だ。

「鈴! 箒! シャルとラウラの様子を見ておいてくれ!」

「「了解!」」

あんな焦ったような状態で戦われても、元より格上の相手とやるには危険だ。
ウリアも言ってたが、最悪無理矢理眠らせて俺が一対一でやるか。
だが、まだだ。
まだ眠らせるには早い。
今眠らせて自然落下するセシリアに気を向けてはいられない。

『セシリア! 俺がやる! 援護しろ!』

俺はサイレント・ゼフィルスと抗戦しながらセシリアにプライベート・チャンネルで通話する。

『いえ! この敵はわたくしが!』

やっぱり自分の手で奪還するつもりだな。

『お前はわからないのか?! お前とあいつの力の差が! 今のお前では負けるだけだ! 最悪死ぬぞ!』

『ですが! あの機体は元々イギリスの物! ならばイギリス代表候補生であるわたくしが取り返すのが責務ですわ!』

『そんな下らないことでお前は命を捨てる気か! こんなことで命を捨てるんじゃねえ!』

下らない理由で命を捨てるのは赦せない。
元々は国が奪われたのが原因だ。
その尻拭いをするのは国であり、セシリアじゃない。
確かにセシリアはイギリス代表候補生だ。
だが、それとこれとは話は別だ。
国の失態の尻拭いに、それに無関係で、候補生でありながらも学生でもあるセシリアを利用するのは許せない。
セシリア自身が勝手に言っているのだとしても、それでも命を捨てていい理由にはならない。

『……わかりましたわ。 不甲斐無いですが、一夏さんにお任せしますわ』

わかってくれたようだ。
これなら、わざわざ眠らせなくてもいいだろう。

『行くぞ、セシリア! 援護は任せたぞ!』

『お任せください!』

俺とセシリアの即席コンビが出来上がった。
さて、やるとするか!


Side〜一夏〜out


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