第六十三話『一夏の誕生日パーティー』
Side〜ウリア〜
「はい、一夏。 アンタのためにわざわざ作ってあげたわよ」
ゴトッ、とテーブルの上にどんぶりを置いた鈴。
その中身はラーメンで、とても美味しそうです。
「出来立てだから美味しいわよ。 何たって麺から手作りだからね」
「へぇ、手込んでるなぁ」
「ささっ、冷めないうちに食べなさい」
「おう。 じゃ、いただきます」
ずずずっと麺を啜る一夏。
鈴は、一夏の感想を待ちます。
一夏はもぐもぐと租借し、そしてごくんと呑み込みました。
「ど、どう……?」
鈴が一夏の評価を固唾を呑んで待ちます。
「……うん、美味い! また腕を上げたな!」
「よかったぁ〜」
鈴は気が抜けたようにそう言った。
どうやら、一夏は料理評論家として見られるらしいです。
まあ、一夏の料理の腕は高校生の域から脱していますからね。
「ウリアも食ってみろよ。 美味いから」
「私が食べてもいいの? これは一夏に作ってきたものでしょ?」
「いいわよ、食べても。 一夏に作ってきたんだし、それにもう一夏にあげたの。 一夏がいいって言うならそれを止める権利はアタシには無いわ」
止める権利はあるでしょうに……。
「では、いただきますね、鈴」
「どうぞ召し上がれ」
私は一夏が使っていた箸を受け取り、そのまま麺を啜ります。
スープは海鮮メインの出し汁で、とてもさっぱりして後味もいいです。
面も歯ごたえがあって、そこそこのお店にも出せるでしょう。
「美味しいです。 お店にも出せるんじゃないでしょうか?」
「一流までとはいかないけど、それなりの店くらいに匹敵するぞ」
「……褒められているのか貶されているのか今一わからないわね」
貶していません。
高校生にしては美味しいですから。
「褒めてるぜ。 一般人、しかも高校生でこれだけの味が出せてるんだ。 もっと誇るべきだ」
「そうですよ。 これならもう少し上達すればお店でも十分出せます」
「あんたら二人が言うなら間違いはなさそうね。 これからも練習しないとね」
「鈴ならもっと上を目指せますよ」
「料理が出来て損じゃないし、これからも練習していくわよ。 店を出すかどうかは別としてね」
鈴はそう言うと去っていきました。
とりあえず、私たちはラーメンを食べ終えました。
とても美味しかったです。
ラーメンの入っていたどんぶりを片付けるためにキッチンへ向かうと、そこには思い耽っているセシリアがいました。
「よ、セシリア。 楽しんでいるか?」
「あ、一夏さんにウリアさん。 ええ、楽しんでいますわ」
「それならいいんだよ。 にしても、何考えていたんだ? やっぱあいつのことか?」
そこを聞きますか……。
「ええ……」
「まあ、気にしすぎだ。 盗られたのは国の責任だし、お前が気にすることじゃない。 それに、力量差はそう簡単に埋まるものじゃない。 地道に努力して手にいれるものだ」
「わかってますわ……ですが……」
「自分の力が足りないのなら、仲間を頼ればいいでしょう。 自分一人で背負い込んでは、格上の相手には勝てませんよ」
「そうです、よね……。 ……ウリアさん」
「何ですか?」
セシリアが言いたいことは何となくわかります。
「これから、わたくしも鍛えてくれませんか? 弱いままでは、いつまでも皆さんの足手まといでしかありません。 ですから、わたくしも強くなりたいんです」
やっぱりですか。
「いいですよ。 ですが、覚悟はしておいてくださいね? 貴女が望む以上、私は容赦しませんから」
私は結構スパルタです。
「望むところですわ。 ウリアさんや一夏さんに追いつくためなら、どれほど辛くても耐えて見せますわ」
「ならば、明日からやりましょう」
「わかりましたわ。 よろしくお願いしますわ」
セシリアの目にはしっかりとした覚悟が宿っていました。
……いい目ですね。
「にしても、祝い事なのになんでこんな話になってるんだ?」
「一夏がそう振ったからでしょう」
「あ、そうだっけ?」
「一夏……」
流石にこれは私も呆れますよ……。
「ま、まあ! しっかりと楽しんでくれよな!」
「………………」
一夏はそう言いますが、私はジト目で一夏を見ます。
「う、ウリア。 俺が悪かったからそんな目で見ないでくれ。 そんな目で見られたら俺は……俺は……!」
このまま見続けたら、一夏は発狂しそうですね……。
「はぁ……。 ……こんな楽しむべき時に、そんな話題を振らないでくださいね?」
「お、おう!」
まったく、楽しむときは思いっきり楽しむものでしょう。
あんな話題で暗くしてはいけません。
私はふと楯無を見つけたので、楯無に今日のことのお礼を言っておきましょう。
Side〜ウリア〜out