第六十五話『妹』
Side〜ウリア〜
「マドカは、俺の双子の妹だ」
「「っ!?」」
私たちはパーティの翌日、リグレッターの話を聞いていました。
なぜ昨日ではなかったと言うと、楽しい時間に水を差すのが嫌だったのと、リグレッターにも整理をつけさせたほうがいいと思ったからです。
それに、別に急ぐことでも無いですし。
「俺の、妹……!? 俺に……妹がいたのか!?」
「双子の、ですか。 いろいろ気になることがあるんですが、その辺りも詳しく教えてくれませんか?」
「話すさ。 もう隠すだけ無駄だからな」
どこか悲しげなリグレッター。
貴方は悲しい結末ばかりを抱えていますね、本当に。
それが未来の一夏の姿の一つだと思うと、私も悲しくなります。
「まず、マスターは亡国機業のリーダーを知っているか?」
「いえ、知りません。 アインツベルンの情報網でも知ることが―――まさか!」
この話の流れからして、亡国機業のリーダーは……!
「そう、そのまさかだ。 リーダーの名は織斑春哉。 そして、その補佐に織斑六華。 つまり―――」
「一夏の、両親……ということになりますね」
「そうだ。 亡国機業はその二人をトップとして、今が成り立っている」
「そんな……そんなことが……」
敵対する組織のリーダーが、まさか自分の両親だとは思いませんよね。
私も想像することさえしませんでしたし。
「事実だ。 千冬姉はそんな親を拒み、俺を連れて逃げた。 だが、その時マドカは連れて行くことが出来なかった。 だからマドカは双子の兄である一夏と自分を同一視し、千冬姉を怨む。 今のマドカは、その怨念を利用されているだけだ」
なぜ、千冬義姉さんは織斑マドカを連れて行けなかったのでしょうか?
身体的負担で出来なかったのか、それとも親が織斑マドカに気を取っていたから?
……これは、聞いてみるべきことなのでしょうか……。
「そもそも、亡国機業とはどういった組織なんですか?」
「俺も詳しくは知らないんだが、元々は宗教団体だったらしく、時が経つにつれて元々歪んでいた思想が歪み、今の思想になったらしい。 まあ、本質は変わってないみたいだ」
「暴力的、ということですか?」
「ああ。 第二次世界大戦中に生まれたのも、特に過激な奴の集まりだったらしいし、亡国機業は力で何事も終わらせようとする、過激集団だ」
確かに、今やっていることは過激ですからね。
今や究極の機動兵器と呼ばれるISを使っていろいろやってますし。
「俺が知るのはそれくらいだ。 亡国機業を潰すことはできたが、結局、俺は何も救えなかった……」
「……それも、貴方の後悔ですか」
「ああ……」
イレギュラークラス『後悔する者』の由来は、やはり根強いみたいですね……。
「………………」
一夏は一夏で黙っています。
両親が敵のリーダーだという事実は、一夏にとっても重いことなのでしょう。
「……なあ、俺」
俯きながら、一夏はリグレッターに問いかけました。
「何だ、俺」
「その両親、結局どうなったんだ?」
「……死んだ。 捕まって死刑になった」
「そうか……」
一夏は俯いたまま、黙り込んでしまいました。
「……マドカは、どうなったんだ?」
「…………………………俺が殺した」
数秒の間の後、リグレッターは重く鎖された口を開きました。
「どうして! どうして殺した!? マドカは妹じゃないのかよ!」
「……何かを成すには、犠牲が付き物だ。 守るために、マドカが犠牲になっただけだ……」
「どうしてマドカを守ろうとしなかった?!」
「一夏! リグレッターにだって理由があったはずです! ですから、まずは話を聞きましょう! ね?!」
一夏はリグレッターの服の襟を掴み、引き寄せて叫び、私はそんな一夏を落ち着かせようとします。
「……悪い」
一夏は掴んでいた襟を放し、ベッドに座りました。
「リグレッター、話してください。 どうしてマドカを殺したのかを」
「……マドカはやりすぎたんだ。 俺を恨み、憎しみ、俺を殺すことに手段を選ばなかった。 俺は甘い人間だった。 ウリアだけでなく、目に見えるものを守りたかった。 マドカは一般人を人質にし、盾にし、殺し、俺を追い詰めた。 俺はもう、目の前で殺されるのを見たくなかった。 そして、その時にはもう、俺にも余裕が無かった。 もう誰も殺させない。 そのことで頭が一杯になっていた俺は、ただ目の前のマドカを排除することしか考えられなかった。 焦りに焦っていた俺は、最大出力の零落白夜でマドカを斬っていた」
「最大出力って……」
「そうだ。 零落白夜の最大出力は、絶対防御をも断ち斬る。 そして、あの時の俺は本気で斬りかかっていた」
リグレッターの本気の一太刀って……マドカは……。
「俺は、マドカは真っ二つにしていた」
「っ!」
……やっぱりそうでしたか……。
「……だから言ったはずだ。 俺は何も救えなかったと。 俺は、俺自身も救えなかったんだよ……」
「悪かった……何も知らずに怒鳴って……」
「いや……俺が助けれなかったのがそもそもの原因……お前が怒るのも当然だ……」
「「「………………」」」
……き、気まずいです……。
「……とりあえず、マドカは助けたいよな……」
そんな空気の中、一夏はつぶやくように言いました。
これなら、この気まずい空気も何とかなりそうです!
「わ、私も手伝いますよ! 一夏の、血の繋がりのある家族ですからね!」
「ありがとうウリア。 両親はともかく、マドカは助けてやりたい。 マドカの存在を知らずに、のうのうと生きていた、せめてもの罪滅ぼしだ」
な、なんとかなりました……。
一夏は悪くありませんが、一夏が助けると言うのなら、私はそれを手伝うまでです。
コンコンッ。
「あの、ウリアスフィール様、少しよろしいでしょうか?」
そんな時、部屋の扉をノックしたのは楯無でした。
一体、何の用でしょうか?
Side〜ウリア〜out