第六十六話『楯無のお願い』
Side〜ウリア〜
「……リグレッター」
「わかっている」
私は楯無を部屋に入れる前に、リグレッターを霊体化させます。
リグレッターのことはまだ言ってませんからね。
楯無なら別に構わないんですが、リグレッターが一夏だとばれるのはあまり好ましくありません。
……なんでかはわかりませんが。
「入ってください」
私は部屋の扉の鍵を開け、楯無を招き入れます。
「失礼します」
「適当に座ってください」
「あ、はい」
私たちは座って話をします。
「何か用ですか? 楯無。 貴女が何も無くここへ来ることは無いですし」
「えっとですね……」
歯切れの悪いですね。
私の前ではいつもハキハキしている楯無にしては珍しいです。
「お願いします!」
いきなり頭を下げる楯無。
……ああ、もしかして……。
「妹をお願いします!」
……やっぱり……。
「……は?」
一夏は素っ頓狂な声を上げました。
「……楯無、貴女……」
「……すみません」
「えっとウリアに楯無さん? 俺を置いて話を進めないでくれないか?」
私は会ったことがあるので知っているんですけど、一夏は知りませんでしたね。
「すみません、一夏。 つい呆れてしまいました」
「……楯無さん、また何かやったのか?」
一夏には、私が楯無に呆れると楯無が何かやったと言う構造が出来上がっているみたいです。
「何かやった、と言うより、今もやってる、と言った方が適切です」
「もしかして、妹さんと仲悪いのか?」
「う……」
一夏のセリフに項垂れる楯無。
「楯無はシスコンなんですけど、『天才』の兄弟姉妹を持った弟妹の嫉妬、と言ったところでしょうか? 楯無の妹は楯無にコンプレックスを抱いているのよ」
「あー……箒と束さんの関係みたいなものか」
「そういうことです」
あの二人も似たようなものですからね。
もしかしたら、一夏と千冬義姉さんも似たような関係になっていたかもしれません。
「名前は更識簪。 一年四組の娘よ」
「簪ちゃんの写真がこれです」
楯無は一枚の写真を取り出した。
一夏は簪を知りませんからね。
「……言っちゃ悪いんだけど、何か……暗いな」
ばっさりと言いましたね。
「簪ちゃん、実力はあるから日本代表候補生で、専用機持ちなんだけど……」
「けど?」
「専用機が無いのよ……」
「は?」
ああ、やっぱりまだ未完成なんですか。
「まだ専用機が未完成で、持って無いの……」
「はぁ」
「はぁって、言い方が悪いですけど、一夏君の所為なのよ?」
「はいぃ!?」
会ったことも無いのにいきなり原因が自分だと言われたら驚きますよね。
「簪の専用機の開発元は倉持技研。 つまり……」
「俺の白式と同じ、だな……」
「そうなの。 一夏君の白式に人員を回しちゃった所為で、簪ちゃんの機体が未完成のままなのよ」
「そういうことか……」
「だから! 一夏君の所為なのよ……」
「……何かすみません」
楯無はどんどん暗くなっていっていることもあり、一夏は謝る。
一夏は別に謝らなくてもよくて、本来ならば倉持技研の連中が謝るべきなんですよね。
確かに唯一の男性操縦者の機体を作りたいのはわからなくはないですが、自国の代表候補生の専用機を放置して、一夏の機体を作ったのがいけないですよ。
普通、少しは簪の方にも人員を回すでしょうに……。
「で、その簪さんですっけ? を頼むってどういうことですか?」
「昨日の襲撃事件を踏まえて、各専用機持ちのレベルアップを図るために、今度全学年合同のタッグマッチを行うのよ」
「そうなんですか」
ってことは、また私は不参加ですね。
こういう行事は私は出れませんからね。
千冬義姉さんからも言われていますので。
「お願い! そこで簪ちゃんと組んでください!」
楯無は再び頭を下げます。
このまま放っておけば土下座をしそうな勢いです。
「いや、俺としてはいいんですけど、ウリアが……」
「私は構いませんよ。 簪は悪い娘じゃありませんし、それに私はどの道出れませんから」
「い、いいんですか?」
弱弱しく聞いてくる楯無。
……ほんと、簪のことになると弱いですね。
「ウリアがいいなら俺は構いません。 とりあえず、簪さんには俺から誘えばいいんですね?」
「ええ。 でも、極力私の名前を出さないでくれるとありがたいんだけど……」
簪は楯無にコンプレックスを抱いていますからね……。
「……わかりました。 やれるだけやってみます」
「ありがとうございます。 それと、あの娘、ちょっと気難しいところがあるから言葉には気をつけてくださいね」
「了解です」
「それでは、お願いします。 でも、あまり無理はしないでくださいね……」
ほんと、弱弱しいですね。
「まあ、やれるだけやってみるので、とりあえず任せてください」
私も協力しますかね。
Side〜ウリア〜out