第七十七話『タッグマッチ! 簪VS楯無』
Side〜簪〜
やっぱり一夏は凄い。
開始してまだ五分も経ってないのに、第四世代型ISを纏う篠ノ之さんをもう倒しちゃった。
だけど、一夏は私に加勢をしない。
だって、そう言う約束だから。
私が、姉さんと全力でぶつかりあうことが、この試合の目的だから。
「流石一夏君ね。 箒ちゃんも強くなったんだけど、それでも追随を許さないなんてね」
姉さんは余裕なのか、一夏たちの方を見てそうつぶやいた。
……私は弱い。
でも、それでもそんな余裕な姉さんを見返したい。
ウリアさんに手伝ってもらってのに、簡単に、あっさり負けるなんて、絶対に出来ない……!
「……余裕だね、姉さん」
「余裕なんて無いわよ」
そんな風に言う姉さんだけど、嘘だ。
まだ姉さんは本気を出してないのは、私でもわかる。
「……絶対に泣かす……」
「か、簪ちゃん!?」
ウリアさんのお仕置きを見ていたら、姉さんを泣かせたくなっていた。
……私はもう手遅れだと思うけど、一回くらい泣かせてもいいよね……?
今までの鬱憤を晴らすってことで、一回くらい泣かせても許されるよね……?
……ウリアさんならきっと許してくれるよね……?
「ちょ、ちょっと!? さっきよりも攻撃の切れが鋭くなってるんだけど!?」
私は、対複合装甲用超振動薙刀で乱舞する。
私は打鉄弐式の製作していた時、気分転換って言うことでウリアさんに薙刀の戦い方を教えてもらった。
ウリアさんは本当に万能で、薙刀の使い方にも詳しかった。
おかげで、私もこの短期間で強くなったと思う。
でも、姉さんもあんな風に言ってるけど、避けたり、防いでいる。
やっぱり、姉さんは強い。
でも、姉さんが本気を出してきたのは感じている。
後、私の思った以上に、攻撃が鋭くなった気がする。
……きっと、姉さんを本気で泣かせたいんだと思う。
私の前で泣く姉さんが見てみたいと思ってしまっている。
……本当に私はもう手遅れだと思う。
「……はあぁぁぁぁっ!」
突き、切払い、あらゆる攻撃方法に、背中に搭載している連射荷電粒子砲
「くっ……強くなったわね、簪ちゃん。 でも、そう簡単に負けるほど、お姉ちゃんは弱くないわよ!」
姉さんがついに攻勢に出てきた。
大型のランス
しかも、それに搭載されているガトリングガンも火を噴く。
ここで自力の差が出てきた。
私が僅かに怯んだりした瞬間に、ガトリングガンから放たれる弾丸が直撃する。
私も段々慣れてくると、避けれる弾数も増えていくけど、それでも私のダメージは増えるばかり。
……やっぱり、私では姉さんに勝てないの……?
『簪さん、楯無さんに勝ちたいっていう気持ちは、その程度か?』
そんな時、一夏からプライベート・チャンネルで声が飛んできた。
まるで、私が弱気になるのがわかっていたかのような、そんなタイミングだった。
『違うだろ? 簪さんは、楯無さんを超えようと、必死に頑張ってきたじゃないか。 まだ簪さんは全力を出してないのに、そんなことで負けていいのか? よくないだろ! そんなところで諦めていいわけないだろ! 簪さんの持てる全ての力で、楯無さんを見返してやれよ!』
……一夏の言うとおりだ。
まだウリアさんが頑張って完成させてくれたマルチ・ロックオン・システムも使ってないのに、こんなところで諦めていたら、手伝ってくれたウリアさんに、一生懸命手伝ってくれて、応援してくれた一夏に申し訳ない……!
「この
私は姉さんから距離を取り、後方に移動しながら肩部ウイング・スラスターに取り付けられた六枚の板をスライドさせて
(マルチ・ロックオン・システム、起動……!)
八連装ミサイル×6の計四十八発を、一斉に発射させる。
「っ!?」
姉さんが驚いたような表情を見せた。
四十八発のミサイルが、複雑な三次元躍動をしながら急接近していく。
凄い……初めて使うけど、ウリアさんが完成させたマルチ・ロックオン・システムは、姉さんの攻撃を自動的に回避して、姉さんを狙い続けている。
でも、姉さんもそんなミサイルを落としている。
姉さんは
近距離で爆発するため、多少はダメージを受けてるみたいだけど、水のヴェールを防御にも回しているようで、大きなダメージは望めそうに無い。
……だったら、私が直接与えるまで!
「……簪ちゃん、本当に強くなったわね」
姉さんがそう言うと、姉さんは一気にミサイルを落としていった。
嵌められた……!?
姉さんはわざとあんな迎撃方法を取っていたんだ……!
私が接近してくるのを予想して、あんな方法で迎撃をしていたんだ……!
近づいてきた私を倒すために……!
「お姉ちゃん、ビックリしたわ。 簪ちゃんがこんなに強くなってるなんて」
私にはもう、手は無い。
だけど、私は諦めない。
せめて一矢報いてみせる……!
「はぁぁぁぁっ!」
「はっ!」
私が振り下ろす
そして、ガトリングガンも火を噴き、減っていたシールドエネルギーが尽きてしまった。
『更識簪、シールドエネルギーエンプティーにより、リタイア』
負けちゃった……。
……でも、悔いは無い。
「よくやった、簪さん。 後は俺に任せてくれ。 簪さんの頑張りを、無駄にはしない」
「…うん……」
さっきから見守っていた一夏がやってきて、そう言ってくれた。
私の全力は姉さんに見せた。
だから、悔いは無い。
だけど、悔しいな……。
「……一夏、勝って」
「任せろ」
そう言って姉さんに立ち向かう一夏の背中は、とても大きく見えた。
Side〜簪〜out