第八十九話『パーティー開始』
Side〜一夏〜
ウリアが言っていたように、六時半に食堂ということなので、いつもの癖で五分前に行ったら、開いていなかった。
ってか、他の生徒も入れずにいるし。
「どうして皆が?」
とりあえず、近くにいた子に聞いてみた。
「ウリアさんが六時半から来て、って皆に言ってたから、私たちも少し前に来たんだけど……」
おい、ウリア。
まさか全員分の料理を作ってるとかないよな?
「あれ? 一夏、アンタ何してんのよ?」
「一夏さん、どうしましたの?」
「お兄様? 入らないのですか?」
「皆どうしたのだ? そこで待っていずに入ればよいものを」
「まさか、開いてないの?」
「そうっぽい……?」
俺が食堂の前で往生していたら、ラウラたちがやってきた。
「どうやら、ウリアはここを六時半ちょうどに開けるつもりみたいだ」
「へぇ……って、まさか、全員参加のパーティーにするつもりなの!?」
鈴たちは驚いた顔をしているが、正直俺も驚いている。
なぜなら、生徒にそう伝えているということは、ウリアが用意するということなのだから。
そんなとき、食堂前の扉が開いた。
「皆さん、お待たせしました。 準備ができたので、入ってください」
ウリアがそういうと、ぞろぞろと食堂の中に入っていく皆。
食堂に入るとそこには、大量の料理があった。
「うわぁ……」
「すっごい料理……」
「こんなメニューあったっけ……?」
皆が、その光景に息を呑む。
俺自身、ここまでの料理が出てくるなんて、思ってもいなかった。
和・洋・中、様々な種類の料理が、テーブルの上に所狭しと並べられている。
「おいおい、マジかよ……」
「すごい料理ッスね〜……」
「流石はウリアスフィール様。 素晴らしい料理の数々です」
ケイシー先輩、サファイア先輩、そして楯無さんもやってきた。
どうやら、専用機持ちが全員揃ったみたいだ。
「では、主役が揃ったところで、パーティー、始めましょう!」
いつの間にか食堂の中央で、一段上がったところにいたウリアが、食堂全体に聞こえる声で、そう宣言した。
「皆さん、コップを持ってください!」
ウリアがそういうと、皆がコップと飲み物をいそいそと回しだした。
……な、なんか皆手際がいいな……慣れてるのか?
「……皆さんに飲み物は回りましたか?」
ウリアが辺りを見渡し、そういうと、皆は肯いた。
「では、乾杯の音頭を、タッグマッチ優勝ペアの、一夏と簪にお願いしましょう」
「はっ!?」
「えっ!?」
聞いてないぞ!?
簪さんも驚いてるし!
「さあさあ! 前に出てください」
俺と簪さんは、いつの間にか背後にいたウリアに背中を押されて、さっきまでウリアがいた中央にまでどんどん押されていく。
「お、おいウリア!? 何かいつもとテンションおかしいぞ!?」
「おかしいかもしれませんね。 でも、パーティーとは羽目を外すものですよ? 外しすぎは駄目ですけどね」
「わ、私、恥ずかしい……」
「あんなに素晴らしい試合をした簪が、そんなこと言っててどうするんですか」
や、やばい、何かウリアがおかしい……!
「さあ、二人とも、乾杯の音頭を!」
そうこうしている間に、中央にまで押されてしまった俺と簪さんは、生徒たちの衆目に晒された。
こ、こら、そんな期待に満ちた目で見るな!
「ど、どうしよう……」
簪さんは、恥ずかしがっていて、慣れない衆目の視線に、挙動不審になっていた。
「一夏、簪、皆が待っていますよ!」
本当にウリアがおかしい……。
って、ウリアもそんな目で見るな!
断れなくなるじゃないか!
「ああもう! わかったよ! やればいいんだろ、やれば!」
何か、もう諦めたほうがいい気がしてきた。
だからもう、折れることにした。
「え、私もやるの……?」
不安げに聞いてきた簪さん。
「たぶん、ウリアは止まらない。 諦めよう、簪さん……」
「………………………………………わかった」
す、凄い間だったな……。
だが、仕方ないだろう。
改めて周りを見ると、皆が皆、コップを持って、俺たちの音頭を待っていた。
「ふぅ……」
とりあえず、一息つく。
そして、俺は声を張り上げる。
「んじゃま、タッグマッチが無事に終了したことを祝して、乾杯ッ!!」
「か、乾杯!」
簪さんも、頑張って大きな声を出して言ってくれた。
『『『かんぱ〜いっ!!!』』』
盛大に、パーティーが始まった。
Side〜一夏〜out