第九十三話『ステージイベント』
Side〜ウリア〜
『それでは、本日のスペシャルゲスト! アインツベルン社の企業代表である、ウリアスフィール・フォン・アインツベルンさんにご登場してもらいましょう!』
ステージでは上では、蘭ちゃんが司会をしています。
「ウリア、頑張れよ」
「はいっ」
蘭ちゃんが私を紹介すると、傍にいた一夏が激励の言葉を掛けてくれました。
私がステージへと上ると、拍手と歓声が聞こえました。
「す、凄い歓声ですね……」
私は、その迫力に驚きました。
「では、皆さんも知っていると思いますが、ウリアさんに自己紹介をしていただきます!」
『『『イェェェイ!!』』』
皆さんノリノリですね。
そのほうが、こっちも気分が乗りますけどね。
「皆さん初めまして。 アインツベルン社企業代表兼アインツベルン当主のウリアスフィール・フォン・アインツベルンです。 現在はIS学園に在学しています。 本日はよろしくお願いしますね」
『『『はいっ!!』』』
統一性ありすぎでしょう。
「それでは、早速始めさせてもらいますね。 これから、校内で集めたウリアさんへの質問に答えていただきます。 もちろん、答えられないものがあれば、拒否してくださってもらっても結構です」
私、詳しいことは知りませんからね。
流れくらいしか聞いていません。
「それでは始めます! 集まった質問の中で、最も多かったのがこの質問です!」
プロジェクターに、バンッと、質問が映し出されました。
「『織斑一夏ってどんな人?』です!」
やっぱり、一夏のことが気になるみたいですね。
「そうですね……物凄い努力家ですよ。 ISの素人だった一夏が、今では国家代表と互角に戦えるほどになりましたから」
「それは凄いですね。 そうなるには、とても大変だったんじゃないんですか?」
「そういうのは、直接聞くべきだと思いますよ?」
『なっ、おいウリア!?』
私がそう言うと、舞台袖で一夏が驚く声が聞こえました。
巻き込まれると思ったんでしょう。
まあ、巻き込ませてもらいますけどね。
「というわけで、このステージに一夏も呼びたいんですけど、構いませんか?」
『『『イェエエエエイ!!』』』
凄い歓声です。
この状況で、逃げるなんて選択肢はありませんよ?
「ということで、織斑一夏に登場してもらいましょう!」
『『『イェエエエエエエエエイッ!!!』』』
私はステージから下り、後ずさる一夏の腕をつかみます。
「う、ウリア、放してくれないか?」
「皆あんなに期待しているんです。 ……逃げませんよね?」
「え、いや、でも、俺は……」
「逃げませんよね?」
「はぁ……わかったよ。 ウリアの頼みだし、ステージに上がるよ……」
一夏は観念したようで、私と一緒にステージに上がりました。
ステージに上がるときには、すでにキリッとしていたのは、さすがと言うべきでしょう。
一夏はマイクを受け取ると、自己紹介を始めました。
「皆さん、初めまして! IS学園一年、織斑一夏です! 何か巻き込まれた形にはなりましたけど、今日は精一杯頑張りたいと思います! 本日はウリア共々よろしくお願いします!」
『『『お願いしまーす!!』』』
一夏がそう自己紹介すると、女子一同(先生やシスターさんも混ざってませんか?)が一斉に声を上げた。
「いやーやっぱり女の子って元気だな。 そこはIS学園の女子たちと変わらない」
「元気が取り柄ですから」
やっぱり、一夏はスイッチの切り替えが早いです。
もうさっきの諦めの感情は一切見えませんから。
「では、一夏さんにお話を聞いてみましょう。 国家代表と互角に戦えるようになったと聞きましたが、そんなに強くなるなんて、大変じゃなかったですか?」
「滅茶苦茶大変だったよ。 でも、一度たりとも止めようとは思わなかったな」
「それは、どうしてですか?」
「守られるのが嫌だったからだ。 俺の所為で誰かが傷つくのが見たくなかった。 姉である織斑千冬に守られ、ウリアに守られ、他の女子に守られ、ただ守られるだけの弱い存在でいたくなかった。 だから、守られる側じゃなくて、守る側になりたかったんだ。 自分の手の届く範囲くらい、自分で守りたい。 それに、好きな人に守られるのって、格好悪いだろ。 男なら、好きな人くらい、自分の手で守りたいんだよ」
私と一夏がすでに付き合っているのは周知のことなので、問題なく言えます。
「好きな人って言うのは、そこにいるウリアさんで間違いありませんよね?」
「ああ。 もうテレビや取材でも言ってるように、俺はウリアと付き合っている。 俺が最も大切に思い、誰よりも守りたいと思う人だ」
「そんな想いが、一夏さんを強くさせたんですね」
「そうだ」
「では、続いて次の質問です。 これも、多かった質問ですね」
プロジェクターに、新たな質問が映されます。
「『二人の馴れ初めを教えてください!』です!」
その質問に、流石に顔を見合わせる私たち。
馴れ初めを話すのは、どうしようかと悩むものです。
(俺は構わないけど、どうするんだ? ウリアの場合、結構特殊だったから……)
私が一夏が好きになったのは、この髪のおかげです。
魔術の才能に目覚め、初代当主『ユスティーツァ・リズライヒ・フォン・アインツベルン』様の才覚を大きく受け継いだが故に、ユスティーツァ様の特徴を大きく引き継いだのだと、だから髪が白銀に変色したのだと、御爺様が仰っていました。
それを言うわけにはいけないので(言ってもわからないでしょうし)、その辺りは適当に変えますか。
(話しますけど、いいんですね?)
(ああ。 ウリアの好きにしてくれて構わないぞ)
一夏とのアイコンタクトでの会話を終了して、話し始めます。
「私と一夏の出会いは、幼稚園の頃からです」
「え? ウリアさんって、ドイツの方じゃないんですか?」
アインツベルン社本社はドイツにありますし、アインツベルンはそもそもドイツに実家がありますしね。
「生まれは日本なんですよ。 幼稚園までは日本にいたんですけど、私の親が過保護で、この髪の所為でいじめられるかもしれないっていうことで、ドイツに戻ったんですよ」
「な、なるほど……」
「で、一夏だけは私を避けずに一緒に遊んでくれて、この髪のことを綺麗だって褒めてくれたんです。 一人だった私にとって、その優しさがとても嬉しかったんです。 その頃から、ずっと好きだったんですよ」
「俺は、寂しそうにこっちを見ていたウリアの瞳を見たら、放って置けなくてな。 それと、ウリアの髪に惹かれていたって言うのもあるな。 あの頃からずっとウリアが好きだった」
「ってことは、ずっと離れ離れでも、想い続けていたってことですか!?」
驚いたような感じで叫ぶ蘭ちゃん。
まあ、普通は驚きますよね。
幼稚園の頃の気持ちを、互いに十年近く持ち続けていたんですから。
「そうですね」
「そうだな」
「二人とも、とても一途だったんですね」
感動したように言う蘭ちゃん。
「一途っていうよりも、ただ単にウリア以上に惹かれる女性に出会わなかっただけだな。 可愛いな、とか思ったことはあるけど、『好きだ』、と想ったのはウリアと千冬姉だけだな」
「私もですね。 あの頃の一夏は、私にとってはヒーローでしたから、とても忘れることが出来なかったんですよ。 まあ、それ以前にあまり男性と接触する機会が少なかったっていうのもあるんですけどね」
私の場合は、多くの時間を城の中で過ごしていましたから、同年代の男性と会う機会自体が少なかったんです。
まあ、その分自分を磨けましたけどね。
一夏の場合は、一夏の家族が千冬義姉さんだけだったのと、私を想う気持ちがそれほど強かったということですかね。
「で、ISの勉強のために、IS学園へ入学することが決まっていた私にとって、一夏がISを動かしたというニュースを見て、運命を感じましたね」
「俺も、学園でウリアに逢ったときは、夢かと思ったさ。 十年前に別れたウリアと、再開できるなんて思っていなかったからな」
「確かに、十年前に別れて、互いに十年間も思い続けて、しかも同じ学校で再開なんて、まるで運命で結ばれているような奇跡ですね」
「奇跡ですよ。 私と一夏がIS学園で再び巡り合えたのも、私と一夏が結ばれたのも、奇跡としか言いようがありません」
ここでは言えませんが、リグレッターが私の英霊として召喚されたのも、一夏が魔術師として目覚めたのも、一夏が英霊召喚をしたことも、奇跡としか言いようがありません。
この奇跡の連鎖には、運命を操作されていると感じるほどです。
「ウリアさんと一夏さんが結ばれたのは、必然なのかもしれませんね」
嘘のような偶然の連鎖は、必然と言っても過言ではないかもしれませんしね。
Side〜ウリア〜out