第九十五話『ディナー中の出来事』
Side〜ウリア〜
「それでは、当店のスペシャル・ディナーにようこそお越し下さいました」
丁寧なお辞儀は、流石というところでしょう。
私と一夏も、その礼に返すように、礼をします。
「基本的にコースメニューで順番にお料理を出させていただきます。 お二人は未成年なのでアルコール類は出せません。 代わりに、ミネラル・ウォーターをボトルで提供させていただきます」
普通出しませんからね。
もしも出すようなら、お店として失格です。
その後、もう少し説明があり、私はそれを大半聞き流していました。
こういったお店なら、日本へ来る前に何度も言ってましたから。
説明が終わると、一夏が一息つきました。
「やっぱり、緊張しますか?」
「ああ。 こういう店に来るのは初めてなんだから。 なんか、すっげぇ場違いな気がする」
「まあ、元々一夏は一介の学生でしたからね。 でも、私と付き合う以上は、こういうのに慣れないと疲れますよ」
私はこういった場所に呼ばれることがあるので、一夏には慣れてもらわなければ、気疲れで大変になるでしょう。
私のような、大きな権力を持つ人と付き合うのは、いろいろと面倒なんですよ。
一夏は、それを理解して、それでもなお付き合ってくれている。
一夏のそういうところには助かっています。
「わかってるけど、まだな。 もう少し時間が掛かりそうだ」
一夏は順応性が高いので、早い内に慣れるでしょう。
それからしばらくして、料理が運ばれてきました。
オードブルから順に運ばれてきて、お水も運ばれてきました。
「あれ?」
お水の入ったグラスを手に取り、口元まで運んで、あることに気づきました。
一夏もちょうどお水を飲もうとしていたので、それを止めます。
「一夏、飲んではいけません」
「どうしたんだ? 何か問題があるのか?」
「これ、お水じゃありませんよ。 お酒です」
「酒!?」
「匂い、嗅いでみてください。 お酒の匂いがします」
口元まで運んだとき、お酒特有の匂いがしたんです。
ですから、止めておきます。
私はお酒に強いのですが、一夏が強いかはわかりませんから。
でも、日本人はお酒に弱い人が多いので、注意しておくことに越したことはありません。
ちなみに、どうして私がお酒に強いのがわかるのかというと、以前英霊たちもいるパーティーを開いたんですが、ギルガメッシュやイスカンダルなどの酒豪陣に巻き込まれて、飲まされたんです。
いくらマスターであるとはいえ、所詮は仮マスター。
仮の主従関係であるギルガメッシュたちに、令呪は効きません。
過去の偉大な王たちに囲まれてしまっては、逃げ道はありません。
「……本当だ。 飲まなくて助かった」
一夏自身も確認すると、グラスをテーブルへと置きました。
一切手をつけるつもりがないのでしょう。
「すみません」
「はい、何でございましょうか?」
近くにいたウェイターに声をかけると、すぐに私たちのテーブルの傍へとやってきました。
「これ、お水じゃなくてお酒なんですが、取り替えてくれませんか?」
「お酒? 失礼」
ウェイターはグラスを取り、匂いをかぐ。
「だ、誰だ! こちらのお客様にお酒を出したのは!?」
「は、はい! 自分です!」
「またお前か!運ぶテーブルを間違えるなと何度言ったらわかるんだ!」
がみがみ怒るウェイターに、ぺこぺこと何度も頭を下げて謝る若いウェイター。
どうやら、この若いウェイターはこういったことを何度もやっているみたいです。
「あの、その辺で止してくれませんか? 私たちも飲んだわけではないので……」
流石に、近くでお説教が続いていると、料理が食べれないので、止めます。
「誠に申し訳ございません! おい! お前も謝りなさい!」
「申し訳ございません……」
「気にしてませんから、お水くれません?」
「直ちにお持ちします! お前、今度は間違えるんじゃないぞ!」
「は、はい!」
足早に去っていく若いウェイター。
「本当に申し訳ございませんでした! このようなこと、二度とないようにいたしますので、少々お待ちください!」
「あの、だから大丈夫ですから、お仕事に戻ってください。 私たちは気にしていませんから。 ね、一夏?」
「ああ。 飲んだわけじゃないんで、気にしないでください」
「この不手際は、別の形でお詫びさせていただきます。 それでは、また何かありましたら、お呼びください」
「はい」
「それでは、失礼いたします」
そして、ウェイターは最後に深々と頭を下げると、仕事へと戻っていきました。
それと入れ違いとなる形で、お水が届きました。
「大変お待たせいたしました!」
今度は、間違いはないようです。
若いウェイターは申し訳ございませんでしたと深々と頭を下げると、仕事へと戻りました。
「何か、一気に疲れたな……」
「同感です。 こんなこと、早々ないんですけど……」
というより、私も初めての経験です。
今のは疲れました。
「……とりあえず、食べようか」
「そうですね」
もう、問題が起こらなければいいんですけど……。
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