小説『Zwischen』
作者:銀虎()

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(壊・日常)
 日地上の崩落は何時だって、大きく崩れる時ほどそうだ。
 崩落は、その日の朝のHRだった。やや無気力な男性教諭(たしか弓道部副顧問)がある二人組のよく似た顔のかなり可愛い女子連れ立ってきた。
 「えぇ〜〜、時期外れだが転校生だ。」
 しわがれた声で、二人の紹介をしてきた。
 時は、あまりに時期外れだ。
 「フランスからの転校生だが。」
 なりほ、フランスなら新学期は9月からだからそうなるか。
「日本人学校に通っていて日本語もそれなりらしい。オレは話していて違和感はなかった。あと、双子だ。では、二人とも自己紹介を。」
 と、担任教諭は二人に自己紹介を進めた。双子だからか二人は、顔以外の印象は正反対に近いほど違った。片方は、腰まであるようなロングな黒髪ストレートヘアー。片方は、ネコっ毛で茶髪のショートウェーブ。
「こんにちは。ボクは妹の直江 暦(あおえ こよみ)。フランスでは、サバットをやっていました。よろしくです。」見た目的には、大人しげで図書委員みたいな黒髪のほう(以後、暦)が元気よく自己紹介した。ところで、サバットと言われてフランス式のキックボクシングと分かる人がこのクラスに何人いるのだろうか?足と半袖のブラウスから見える腕は、天より引き締まっていた。
 妹・暦の自己紹介が終わると姉であろう、ウェーブの姉のほうは一段上がっている黒板前からスタスタ降りて、ある男子生徒の机の前に立つ。その男子生徒は逞しい肩幅とつぶれた耳、短く刈りあげた短髪、名は薄雲壱。その男の前だった。
 大抵の生徒及び教諭は首をかしげ、当の本人である壱は、転校生というイベントに興味を示さず読んでいたハードカヴァー本を、パタンといい音を立て閉じる。そして、目の前に立ち見下ろすように立つ、フランスからの転校生と目を合わす。

 「立ってもらえますか?」
 転校生は、高い綺麗な声で壱に行った。壱はうなずいてから、本を机の上に置き、イスから立ち上がる。二人の身長差は15センチほどだろうか。
 「私の名前は、直江 命(めい)と言います。」
 そこまで言うと壱を強くみる。
 「わっちの名は、薄雲 壱じゃ」
 大抵の人間は、戸惑ったり聞きなおしたりする壱の一人称に全く動じすこう続けた。
 「薄雲さん。」
 「壱でよい。さんもいらぬ。」
 他人行儀な転校生(以下、命)に壱は、一言言った。
 「なら、壱、私と付き合ってください。」
 唐突に突然の強い口調の愛の告白。
「よいぞ。」
 ほぼ、時をおかずに上ずるわけでもなく、とっても落ち着いた口調で、一人称に動じなかった命と同じ様なリアクション。
 「ありがとうございます。」
 命が頭を下げると壱の横に並ぶように位置を動いた。そうすると、素早く壱の首の寄せるように腕をまわし自分の唇を軽く壱の唇に重ねた。
 「これで、私は貴方の私以外の女性を愛す権利を奪う契約をしました。」
 「わかった。あと、恋仲なんじゃから他人行儀な敬語はやめてくりゃれ。」
 壱も全く動じていなかった。
 そんな非日常にクラスが固まる中、終始にニコニコしていたのは、妹の暦だけだった。
 瞬く間に噂というか事実が学校中を駆け巡った。それは、良くも悪くも悪くも広がりを見せた。その日も昼休み、デカイ弁当と数種の総菜パンを持った壱と、サンドイッチを持った直江姉妹そして、それぞれの昼飯を持った僕と天。
 「命さん?」 
 天が恐る恐るといった感じで話しかける。
 「そんなに怖がらなくても、女性趣味があるのは、暦のほうですから大丈夫ですよ。」
 「天さんのその太ももを見ているとボクは」飛びつきたくなりますよ。」
 命はにっこり優しく天に言い返した後、すかさず暦が恍惚の表情で天を見た。
 「・・・・俺は、そんなん趣味ないぞ。」
 天は腰が引け気味に言った。
 「ボクだって、男もちの女性に言い寄ったりするほど分別がないわけではないよ。」
 悪戯が成功して、喜ぶ子供のような表情で暦は言った。
 「男もち?」
 天はキョトンとした顔で言い返す。それの暦も驚いたように返す
 「カエデは、君の彼氏じゃないのか?」
 その質問に、天は顔を真っ赤に染めてすごい勢いで横にふった。
 「あら、違うんですか?」
 命も驚いたように声を上げた。それに壱はゴウカイナ笑い声を挙げてから、カエデの頭の上に手を載せながら言った。こちらも顔が赤い。
 「こやつらは、人から見ればいつも行動を共にいているからの20人がみたら18人は誤解するが恋仲などではない。単に幼い頃からの中で、なおかつお互いに人見知りが激しいのでな、他人とあまり関われず何時もこの二人でか、わっちかもう一人の友人を交えるしかないのじゃよ。ぬしらが思うほど甘い関係にはまだ待っておらん。」
 壱は、食べ終わったパンの包装を丸めて一つにしながら言った。
 「まだ、ってことは未来的になりえるということ?イッチー。」
 暦は、これまた子供のような純粋な笑顔を振りまきながら壱に聞く。
 「この反応をみると、ありないこともないでしょうね?」
 命も、ウキウキをしたおもちゃ売り場の子供のような笑顔で言った。
 「揃いも揃って、初心な奴らじゃからのどうなる事やら中学校一年からこの反応じゃからの。」
 ペットボトルの烏龍茶一気に飲み下し笑った壱。
「そういえば、もう一人友人がいるらしいけど、そいつはどこ?」
 暦が、興味の対象を移していった。それの安心したように天と楓は、胸をなでおろす。
 「もう、興味はなくなったの?暦。」
 命の言葉に、二人はまたビクッと反応を示す。
 「そうじゃないよ。天がカエデの女じゃないなら、普通に狙っていこうと思っただけだよ。これ以上聞いたら嫌われちゃうもん。」
 暦が、にっこりとした笑いを天に投げかける。それに、天は顔を真っ赤にしてうつむく。
楓は拗ねたようにそっぽを向いて食事を続ける。そんな二人の頭を壱はガシガシと撫でながら
「悪い、悪い少しいじめ過ぎたの。」
 と、壱は優しい保護者的な笑みを浮かべる。
 「まるで、保護者だな。」
 暦が、率直な感想を漏らした。
 「みたいではなく、保護者というよりお兄ちゃんじゃない?」
 命も続けた。
 「もう一人のやつもそんな感じの立ち位置になるな。」
 「でも、天さん?」
 命は、まるでお姉さんのような口調で言った。
 「壱は、私の人だから好きになったり、愛したりしちゃダメだよ。」 
 まるで、悪戯を戒めるかのように命は言った。
 「なんで、命さんは壱に突然告白なんてしたんだ?」
 やっと、攻撃のチャンスをつかんだと言わんばかりに、天は強い口調で言った。
 「簡単よ。ひ・と・め・ぼ・れ。転校生が来たのに興味の欠片も示さない、そんなんところに惹かれたの。実際すごく優しい人だったし。私の読みは外れないのよ。」
 そういって、命は壱の首に絡みついた。
 「命の予言は百発百中だもんなぁ。とくに男を見ることに関しては」
 暦はしみじみと言った。
 二人は、黙ってしまった。
 その後、メイアが張り付くようについて行動したのは20日間ほどだった。フランスからの帰国子女その二人はこの20日間多くの伝説を、三人の前で繰り広げた。
 
 帰宅部部員、雨策 楓はこう語る。
 「女の子でもあれだけ強くなれるモノなんでしょうか。」
 それは、転校してきて一週間がまだ経っていないころだった。
 一の柔道をやっている姿が見たいと、武道場に行った時の出来事である。うちの高校では、柔道部、剣道部、空手部が活動している。柔道部の使う畳の間が、二面(試合場が二つ)ありその横に空手部と剣道部か兼用で使う板の間がある。しかし、剣道部は町のダウ場を主な活動場所としているので、火曜木曜を除いて板の間は空手部の専用スペースである。
 命は、壱の柔道の歓声も挙げずにしっかりと正座して、けれど、どこか見惚れる様な眼で見ていた。その一方、早々に組み技主体の柔道から興味を無くし、打撃系の空手へと興味の対象を移していた。食い入るように空手を見る暦に女子空手部の主将が、畳の間から見ていた暦に、
 「こっちに見てみる?」
 と声をかけた。それに嬉しそうに反応した暦は走って板の間へと言ってしまった。そして女子の主将(名前たしか、棚橋)と少し話すと、どこかへ案内されていった。少しの時間をおいて、空手着を着てオープンフィンガーグローブをはめた暦がウキウキとした顔で出てきた。そして、柔軟体操を始めた。とても念入りに、そしてまるでバレェダンサーのような柔軟性を見せながら。
サバットをやっていたというので素人ではないにしろこの学校の空手部は、男女とも極真系統のフルコンタクトでありしかも、全国大会所連校で一昨年も全国優勝者を出した強豪校である。その女子空手部現在最強とされる主将・棚橋に、暦が両拳を叩き合わせながら対峙する。
ボクシングのような構えを見せる暦に対して、笑みを浮かべ聞き分けのない子供のわがままを聞いてやる母親のような余裕を見せる。そんな姿を見てほかの部員もやれやれといった様子手二人の立会いを見る。救急箱の用意さえし始めた人もいた。
試合の一度目の幕引きはあっけなかった。余裕を見せて、大きな警戒なく間合いを詰める棚橋、そして暦の制空権ギリギリに入ったことで、風を素早く切り音共に暦の足は鞭のようにしなり高い弧を描き棚橋の頭部をとらえる警戒の薄かった棚橋は、それを、まともに食らった。そして、大きくバランスを崩し、体勢の崩れた相手に対し、一気に間合いを詰め右わき腹にフックを叩きこむ。時間にして約30秒、攻撃自体の秒数は10秒に満たない、棚橋は肝臓のある右わき腹に大きな衝撃を受けそのまま膝を折って倒れてしまった。
「大和撫子、油断はいけないよ。」
腰に手を当て、腰を折って、棚橋の耳にちゃんと入るようにそして、一番かわいい声でそういった。
空手部をふくめ、練習中の柔道部さえ唖然と動きを止めてその光景を眺めていた。

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