〜木山春生Side〜
一体何が起こっている・・・?
「ドーパミン値低下しています!!」
「急いで輸血を!!」
「早く救急車を呼べ!!」
「ああ、良いから良いから。」
「し、しかし!」
「浮足立ってないでデータをちゃんと集めなさい。この実験については所内に緘口令を敷く。実験は恙なく終了した。君たちは何も見なかった
。良いね?」
「は、はい。」
一体何が起こっている・・・?
ポン
「ヒッ」
「木山君、良くやってくれた。彼らには気の毒だが、科学の発展には犠牲は付き物だよ。
今回の事故は気にしなくていい。君には今後も期待しているからね。」
「あ・・あ・・・ぁ?」
イッタイナニガオコッテイル?
◆◇◆◇◆◇◆
「私が、教師に?何かの冗談ですか?」
「いやいや、君は確か教員免許を持っていたよね?なら教鞭をとっても何もおかしくはないじゃないか。」
「しかし、あれはついでにとったもので。」
「別に研究から離れろ、と言っている訳ではないよ。それどころか統括理事会肝いりの実験を任せたいと思っている。」
「本当ですか!?」
「置き去りは知っているよね?」
「何らかの事情があって学園都市に捨てられた身寄りのない子供、ですよね。」
「そして今回の実験の被験者であり、君が担当する生徒になる。」
「えっ?」
「実験を成功させるには被験者の詳細な成長データを取り、細心の注意を払って調整する必要がある。
だったら担任として受け持った方が手間が省けるでしょう?」
「それはそうかもしれませんが・・・。」
「それにこの実験は二カ月程度で終了する。なら良いだろう?」
「・・・・はあ。」
私は子供が嫌いだ。
デリカシーが無いし、失礼だし、論理的じゃない。
でも二か月。二か月我慢すれば、前の生活に戻れる。そう考えて今まであの子達と接してきた。
そして明日の実験で最後、という日の帰り道だった。
「ん?どうかしたのか?」
「あ、きやませんせい。すべって転んじゃって・・」
その時は雨が降っていて、その子はびしょ濡れだった。
「私のマンションはすぐそこだが、風呂を貸そうか?」
「えっ!いいの!?」
「あ、ああ。」
「やったーー!!」
「ねえねえ、ホントに入っていいの!?」
「ああ。」
「やったー!!明日みんなに自慢しちゃおーっと。」
「そんなに風呂が嬉しいのか?」
「うん!だってウチの施設、週に二回のシャワーだけだもん。」
「ねえ、きやませんせい?」
「ん、何だ?」
「わたしでも頑張ったらLevel4とか5になれるかな〜?」
「今の段階では何とも言えないが・・・高位能力者にあこがれがあるのか?」
「う〜ん、もちろんそれもあるけど・・わたしたちは学園都市に育ててもらってるから、この街の役に立てるようになりたいな〜って。」
「・・・・・・。」
「・・・寝てしまったか。」
どうやら風呂から上がって服を乾かしている間に寝てしまったらしい。
「研究の時間が無くなってしまった。」
そう言いながらも私は不思議と残念に思わなかった。
「・・・ふう。」
ソファに座り、自分で淹れたコーヒーを飲む。
「明日で最後、か。寂しくなるな。」
ふと、自然に言葉がこぼれた。
しかしその言葉で自分の本心に初めて気づいた。
ああ、自分はこの子達の事が好きなんだ、と。
「怖くないか?」
「うん!だってきやませんせいの実験だもん。」
「そうか。」
このまま全てが上手く終わる筈だった。だけど。
「ドーパミン値低下しています!!」
「急いで輸血を!!」
「早く救急車を呼べ!!」
「ああ、良いから良いから。」
「し、しかし!」
「浮足立ってないでデータをちゃんと集めなさい。この実験については所内に緘口令を敷く。実験は恙なく終了した。君たちは何も見なかった。良いね?」
「は、はい。」
一体何が起こっている・・・?
ポン
「ヒッ」
「木山君、良くやってくれた。彼らには気の毒だが、科学の発展には犠牲は付き物だよ。
今回の事故は気にしなくていい。君には今後も期待しているからね。」
「あ・・あ・・・ぁ?」
全てが上手く終わる筈だった・・・・
〜木山春生Sideout〜
〜零Side〜
警報が鳴っていたと思われる実験室に入ってみると、そこにいたのは誰もいない実験室に呆然と立ち尽くした木山春生だった。
「木山先生?」
ゆっくりと振り返った木山春生は、全てを失い、絶望しているかのような表情をしていた。
「・・・何があったのか、話してくれませんか?」
そうして俺は木山先生からさっきまで行われていた実験の事を聞いた。
俺にとってもショックだった。いくら精神年齢が高いと言っても約一カ月一緒に過ごしてきた友達だ。ショックじゃない筈がない。
「あんまり自分を責めちゃ駄目だよ。木山先生。」
「私があの子達を実験に参加させたんだ。そのせいであの子達は・・・」
「木山先生。」
「私のせいで。私のせいであの子達は、あの子達は・・・」
「木山春生!!」
「っ!?」
「良いか?確かに木山先生の言うとおりあなたに責任があるのかもしれない。」
「・・・・。」
「でもな、あなたがそうやって嘆いているだけであの子達は目を覚ますのか!?それが本当にあの子達の為になるというのか!?」
「・・・はっ!?」
「あなたにはやらなければならない事がある筈だ。違いますか?」
「・・・・そうだな。私があの子達を助けないで、誰が助けるんだ。」
「そーゆー事。」
「・・・ありがとう。まさか君のような子供に諭されるなんてな。本当に大人と話しているようだよ。」
「それだけ言えるならもう大丈夫だね。
じゃあ、俺はちょっと行くとこあるから行くね。」
「じゃあ、私はあの子達の目を覚ます方法を探すよ。」
「その意気だよ。何かあったら連絡して。多分俺、此処を出てくから。」
そう言って俺は自分の携帯の番号を書いた紙を渡す。
「ああ。分かったが、此処を出ていくとはどういう・・?」
「そこは気にしなくていいよ。とにかく絶対に連絡してよ?俺だって友達を助けたいんだから。」
「分かった。君もあまり無茶するなよ。」
「先生こそ、もっと化粧した方が良いと思うよ。」
さて、とりあえず剛に話を聞いてみますか。
◆◇◆◇◆◇◆
「剛、聞きたいことがあるんだけど。」
「ん〜?何かな?」
「今日、第六実験室で行われた実験。知ってる?」
「・・・・・零。その話は何処で聞いた?」
「いいから。」
「零。この話は此処の所長から緘口令が出ている。此処の所長は木原 幻生といってね。この世界では、かなり有名なんだ、色々な意味
でね。その所長が何も語るな、と言ったんだ。つまりかなりヤバい実験だったって事だよ。」
「俺は、そんなことを聞いているんじゃない。」
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
「・・・・はぁ。分かった、分かったよ。実は僕も詳しくは知らないんだ。」
「あ、そう。分かった。」
チッ。じゃあ、直接その木原ショチョーに聞きに行くか。
「あ!待って零。」
「何?」
「どうせ零の事だから所長室に乗り込むとか言い出すんでしょ?」
「・・・・・。」
「図星なんだ。・・待ってて、今調べてあげるから。」
「・・・良いの?黙ってろって言われてるんでしょ?」
「良いって良いって。元々、あの人は好きじゃないんだ。」
好きじゃないって。そんなんでこんな事するのかよ。ってかもうPC開いてるし。
「・・・出たよ零。どうやら君の言っている実験は『AIM拡散力場の制御実験』だったみたい。被験者は・・・そうかあのクラスの子達なのか。」
「その実験被験者が意識不明になる程危険なのか?」
「いや、考えられない。確かに測定用の機器を装着し、投薬もするけど、危険なモノは何もない。」
「・・・・その実験の被験者であるあのクラスの全員が意識不明の植物状態だ。」
「な、何で!?この実験でそんな結果に終わる筈が・・・まさか、これは・・」
「何か分かったの!?」
「零。落ち着いて聞くんだ。」
そう言ってこっちに向き直る剛。
「この実験は被験者のAIM拡散力場を刺激して暴走の条件を調べる為の『暴走能力の法則解析用誘爆実験』だ。」
「じゃ、じゃああの子達は最初から・・・?」
「恐らくこの実験の為に集められたんだろう。彼らは置き去りだ。どうなっても誰も文句は言わないから・・・・。」
「誰も文句を言わなかったら何をやってもいいのかよ!!」
「落ち着け、零。」
「・・・・・・ごめん。剛に当たってもしょうがないのに。」
「仕方ないさ。僕も同じ研究者として恥ずかしいよ。」
・・・良い奴だな、コイツ。こんな所に居ないで教師にでもなればいいのに。
「・・・・剛、お願いがあるんだ。俺に置き去りとしての戸籍を作って欲しい。」
「それは構わないけど、もう零の戸籍はあるよ?」
「この研究所と“全く関わっていない”戸籍が欲しいんだ。」
「どういう意味だい?
・・・・・・・・まさか!所長を殺す気かい!?」
「・・・・・・・・」
「やめるんだ!零!そんな事してもあの子達も、木山も喜ばないぞ!!」
「そんな事は分かってる。」
「なら!!・・・・零、考えを変える気はないんだね?」
「ああ。本当にゴメン。迷惑掛けっぱなしだね。」
「良いんだ。止められなかった僕にも責任があるから。それより僕が欲しいのは謝罪じゃないんだけど?」
「・・・ありがとう、剛。」
さて、行くか。あの木原を始末しに。