第七話 『原っぱの争奪戦』と『風間ファミリー』ですか。
サイド:四季
百代さんとの真剣勝負から数年。俺も小学四年生になった。
あれから、俺はモモさん(そう呼んでいる)に懐かれたようで、小雪や忠勝を含めて一緒に遊ぶようになった。
モモさんは二人のことも気に入ってくれたようで、特に小雪とは一緒にお風呂に入ったりするほど仲良しだ。(その時、俺と忠勝も一緒に入れられそうになったので、釈迦堂さんの部屋に匿ってもらったりした。)
ああ、そうそう。
小雪といえば、父さんに武術を習い始めた。
俺とモモさんは、あれから鉄心さんの頼みもあり二人で組み手などをしているのだが、それを見学していたら小雪も混ざりたくなったようで、それを聞いた父さんが自分の武術を教えることになったらしい。
といっても、鬼道流の技は、本来自分の子供の中で一人にしか教えられないため、父さんが昔に独自に作った我流の技の一つを教えるらしい。
足技主体のその武術の名前は、『裂蹴拳』。・・・・・・どこの仙〇忍だ。
まあ、小雪は才能があったらしくどんどん実力をあげているが。
その他には、小雪に「おじさん」といわれてへこんだ師範代の二人を慰めたり、
釈迦堂さんと梅屋の豚丼とどの組み合わせが正義か議論したり、
ルーさんと一緒に銭湯に行ったり、
鉄心さんと縁側でお茶をしばいたり、
小雪が母さん並みに料理のセンスがないことが発覚して、調理場への小雪の立ち入りが禁止になったりした。
まあそんなこんなで気づいたら小学生になっていたわけだ。
ちなみに俺が入った小学校は、『川神南小学校』。モモさんと同じ小学校で、忠勝と小雪も同じくここに入った。
ただ、甘粕とくまちゃんとは別の学校になってしまった。ちと残念。
ここに入って、俺はごく普通の平穏な小学校生活を送る・・・・・・はずだったのだが、ちょくちょく喧嘩を吹っ掛けられる。それも上級生が中心になって。それは忠勝や小雪も同じようで、どうしてだろう。と疑問だったのだが、どうやらその理由はモモさんと度々つるんでるのが原因らしい。
モモさんは黙っていれば(ここ重要!)美少女なので、度々告白されるのだが、その全てを断るため、それを逆恨みした男。
また、モモさんは年上でも遠慮なくズバズバものをいう性格のため、(身内といえど、武神たる鉄心さんに「ジジイ」といっているのがいい例である)モモさんのことを生意気に思っている上級生。
まあ、モモさん自体は悪くないのだが、結構敵が多いのである。そんな人たちが俺たちに喧嘩を吹っ掛けてくる。
最初は「モモさんに怨みがあるならモモさんのほうにいけばいいのに」と思ったが、モモさんは仮にも川神院の跡取り娘。上級生といっても小学生に負けるわけがなく、この人たちもそれがわかっているらしく、最近モモさんと特に親しくなった俺たちをいたぶってうさをはらそうという魂胆の人たちのようだ。
まあ俺はそんな人たちの都合につきあう必要もないし、小雪も始めたばかりとはいえ、現「奉先」である父さん直々に教えを受けた身だし、忠勝も将来は巨人さんの後を継ぐため、荒事に慣れておく必要があるので巨人さんに闘い方を教わっている(ときどき俺やモモさんも稽古をつけている)。
まあつまりは俺たちもそんじょそこらの子供に負けるわけがないので、返り打ちにしまくってたら、いつのまにか「川神南小四天王」とか呼ばれるようになってしまった。・・・なんでやねん。
まあそんな小学校生活を送っていたある日の土曜日。
今日はモモさんのたっての願いで、川神院の調理場で「桃のタルト」をおやつに作っていた。・・・名前が「百代」だからって、好物が「桃」って、キャラ設定安直過ぎじゃね?(メタ発言)
そんなことを思いながら今は焼きあがるのを待っているところだ。
「四季ーーーー!まだかーーーー!!」
「まだか〜!」
「はーい、ちょっと待っててー!!」
どうやら待ちきれないらしい。モモさんと小雪の声が聞こえてきた。
「忠勝。もうすぐで焼きあがるから、悪いけど紅茶を用意してもらえるか?」
「ああ、わかった。」
ちなみにアシスタントは忠勝。忠勝が将来継ぐ予定の「代行屋」は料理をすることがあるため、俺が料理をする時は、度々アシスタントになってたりする。・・・あれ?ということは巨人さんも料理できるのかな?・・・まあいいか。
チーーーン!
おっと、焼きあがったらしい。
オーブンからタルトを取り出す。いい香りだ。
鉄心さんたちの分は、切り分けて冷蔵庫にしまっておく。そして忠勝が入れてくれた紅茶とともにモモさんたちがのところまで持っていった。
「お〜。うまそうだ。」
「うまそうだー!」
待ちに待ったおやつの登場にモモさんたちが歓声を上げる。
さって、タルトを切り分けて、紅茶を全員分渡して、全員の着席を確認する。
「それでは皆さん、手と手を合わせて?」
『いただきます!!』
料理人的にはこの挨拶があるとないとでは大分違うと思う。どーでもいい?すいません・・・・・・。
☆ ☆
現在おやつのタルトを食べ終わり、紅茶でまったりタイムを過ごしていた。
今日は川神院の稽古も休みな日なので、どうしようかな〜と皆で考えていると、
「モモ、今大丈夫カイ?」
「ルー師範代?どうしたんだ?」
ルーさんがモモさんを呼びに来た。どうしたんだろう?
「今、君に用事がアルとイウ、男の子が来テるんだけど?今は山門のほうでまっていてもらっているヨ。」
「?わかった。皆はちょっと待っててくれ。」
そう言い残し、モモさんは川神院の山門へとむかっていった。
俺は残った二人に話しかけた。
「何があったのかな?」
「さあ、俺が知るか。」
忠勝はあいかわらずツレナイ。
まあ、確かに俺たちにわかるはずがないんだけど。
「ぼくはモモ先輩への告白だと思うなー!」
ふむ。小雪の意見にも一理ある。最近は少なくなったみたいだが、それでもモモさんのことをよく知らないやつとか、あきらめきれないやつからはまだ告白されているみたいだし。
俺たちがそんな雑談をしていると、
「おーい、お前らちょっと来てくれ!」
モモさんが俺たちのことを呼んでいる。なんだろうと思いながらも俺たちは玄関へむかった。
モモさんに用事があった男の子は、「直江大和」という男の子で、どこかニヒルな雰囲気のする子だ。俺と同じ四年生らしい。
話しを聞いてみると、先週の土曜日に自分たちが原っぱで遊んでたら上級生の6年生たちが突然やってきて、無理矢理場所を奪い取られたというものだった。。
直江たちも抵抗しようとしたが人質をとられ、無抵抗のところをやられてしまったらしい。
しかも直江たちのリーダーの男の子はコンパスで耳に穴を開けられてしまったらしい。
ひどいことをすると思い、モモさんを見てみると、
「・・・・・・。」
あ〜、かなり怒ってるかこれは。
モモさんは乱暴なところはあるが、さすが武神の孫娘なだけあり、卑怯なことゆ、不誠実なことが大嫌いなのである。
まあ、かくいう俺も結構ムカついてるのだが。
モモさんは直江の頼みを聞くことにした。
「これをどうぞ。」
直江は献上品としてポケットからモモさんが集めている野球選手のレアカードを差し出した。
(なるほど。ただモモさんの正義感を頼るのではなく、あらかじめモモさんが、何を欲しがっているのかリサーチして報酬として用意する。
人が感情だけでは動かないことを理解してなきゃこんなふうにはできない。
小学生にしては頭がまわるようだな。)
モモさんにレアカードを献上した直江はモモさんと舎弟契約を結び、成り行きで俺たちもモモさんたちと一緒に、翌日原っぱにむかうことになる。(ちなみにモモさんと直江が交わした舎弟契約には、「解約したらなぶり殺し」という悪魔のようなものであり、俺と忠勝は深く直江に同情したのはいうまでもない。・・・・・・小雪はケタケタ笑ってたが。
まあ、そんなわけで原っぱに来たわけだが、
「ハハハハ!!どした、どしたあああ!!!」
「うわあああ!?!」
「な、なんだこいつ!?」
「ちょ!まっ!ぶべら!?」
はい、モモさん無双ですね。
「あはは!!見て見て四季!人がごみのようだよ!」
楽しそうですね小雪さん。どこのム〇カだあんた。
まあ、俺たちのほうにむかってきたやつらは大体のしたので、直江の友人らしき女の子と話している
忠勝のほうへむかった。
「おーい、忠勝。」
「四季か、大丈夫だったか。」
「あんなやつらにやられるかよ。それよりさっきから気になってたんだか、知り合いか、その子?」
そういって俺は忠勝と話していた女の子のほうを指さす。
「ん?ああ、こいつは一子っていって、俺と同じ孤児院にいたんだ。」
「へ〜、そんな偶然あるんだな。あ!俺は篠宮四季っていうんだ。よろしくな。」
「うん!私は岡本一子よろしくね!」
俺が自分の自己紹介をすると岡本は元気挨拶してくれた。
「おい、人質とってお前の耳に風穴開けたのはどいつだ?」
モモさんのほうをみるとすでに終わったらしい。気がついたらモモさんが上級生の一人を脅してた。
「やめろ、やめろよ。」
「命乞いは、媚びてするものだぞー。」
楽しそうに笑ってんなあ。おい。
ただ笑ってるだけならかわいいんだが。
まあ、上級生の上級生のほうは、モモさんの顔を見る余裕もなさそうだが。
「俺は本当に悪なんだ子猫を平気でイジメ殺せる!お、お前も殺すぞくそアマあ!?」
あ、ばか!そんなこというと、
「・・・へえ、悪かあ。ステキだな先輩。デートしてくれ。具体的にはあそこの建物の三階まで。」
・・・あ〜あ、やっちまった。
「あそこの建物の三階・・・・・・屋根まで付き合ってくれ。」
「ありゃ、切れてんなモモ先輩。」
「ああ。たぶん子猫をイジメ殺せるってのが気にくわなかったんだろ。」
忠勝の呟きに答える。まったくおとなしくやられてればいいものを。
・・・・・・一応いっとくか。指さした建物へ六年生を引きづりながら移動しているモモさんの背中へ注意を促す。
「モモさんやりすぎは駄目だぞー。」
「お〜。」
俺の忠告に気のない返事でモモさんが答える。まあ、これで最低限は大丈夫なはずだ。・・・・・・たぶん。
「お、おいやべえんじゃねえのか、あれ。」
ガタイのいい男の子が、モモさんの行動に不穏なものを感じたのだろう。不安そうな声をあげる。
ううん、どうフォローしようか。そんなことを思っていたら、モモさんが連行していった六年生を建物の屋根から突き落とした。・・・って!?
「あぶな!?」
俺は急いで、落ちてきた六年生を受け止める。・・・地面スレスレで。
「ヒ、ヒイィィィィ!?」
六年生が悲鳴を上げる。まあ、小学生でヒモなしバンジーを経験することになったのだから当然であろうが。
あ、地面スレスレで受け取ったのは、わざとじゃないよ。別にタダ助けんのが癪だったとかじゃないよ。ホントダヨ?
あ、こいつ漏らしやがった!きたね。ぽいっと。
「ぐぺ!?」
後ろで、「ひでえ・・・。」とかいってるが聞こえない。ふむ。これでもうはむかう気力はないはずだが、一応脅しておくか。
俺はうずくまっている六年生に話しかける。
「やあ、先輩ご機嫌いかがかな?」
「ヒッ!い、いいわけねえだろ!?」
へえ。まだ噛みつく元気があるんだ?まあ、相手がモモさんじゃなくて、俺だからかな。まあ、なめられるのわいやだしなあ。
「ハハハ。まあそりゃそうだな。なにせ小学生にもなった小便漏らすような体験をしたんだから♪」
「!って、てめえ!!?!」
六年生が顔を真っ赤にして俺に殴りかかるが、
「よっと!」
スッパーン!!」
「ぎゃふん!?」
俺は六年生の手首をひねって、地面にたたきつけた。てか「ぎゃふん」てww
「ハハハ、元気がいいのは結構だが・・・あんま調子乗んなよ?」
「(ビクッ!?)」
「さっきのお前さんのセリフにはモモさんだけじゃなくて、俺も結構いらついてんだよ。」
「な、な。」
「ああ、喋らなくても良いぜ。俺があんたらにいいたいの二つ。二度とこの原っぱに入らないこと、もうひとつは二度と子猫をイジメ殺すなんてことはいわないことだ。もしこれを破ったら。」
そういって俺は近くにあった手ごろな石を掴み、
バキンッ!
握りつぶした。
「ヒッッ!?」
「頼んだぜ、先輩?」
「ヒッ・・・ヒィィィィ!?!?」
六年生は俺の言葉にものすごい勢いで首を縦に振った。
その後、勢いよく頭を下げた六年生は、意識のある仲間たちで、俺たちがのした他の六年生を抱えて、悲鳴を上げながら原っぱから去って行った。・・・なにもあんなに怯えなくても。
「いや、あれは普通怯えるだろう。」
いつのまにか俺の後ろにいたモモさんが呆れたように俺に声をかけてくる。
「いやいや、屋根から突き落としたモモさんよりはマシでしょう。」
「ほう。それは私が極悪非道だと。」
「いや、そうはいってないでしょうに。」
「いや、どっちもどっちだろ。」
「どっちもどっちー♪」
俺たちが雑談をしていると、
「なあ、今大丈夫か?」
その声に振り向くと、直江と岡本を含めた5人がそこにいた。
「どしたあ?」
俺が問いかけると、五人の中からバンダナを着けた一人の男の子が前に出てきた。
あれはたしか、六年生に耳に穴をあけられたやつか?
他の四人の様子を見ると、彼がリーダーらしい。
なんだろうか?
「なああんたたち、俺たち
『風間ファミリー』入ってくれ!」
俺は後に思うことになる。彼らとの絆は、俺の最も誇るべき、大切な宝物になったと・・・。