第八話 「仁」の少女ですか。
サイド:四季
あの後の話をしよう。
俺たちを仲間に勧誘したのは、風間翔一。「風間ファミリー」という友達グループのリーダーだ。
【風間ファミリー】とは。
「川神南小学校」には、いくつかの有名な、いわゆる友達グループというものがあり、俺たち「川神南四天王」、そして「風間ファミリー」もこれの一つにあたる。
風間ファミリーのリーダー。あだ名はキャップ。風間翔一。
軍師。直江大和
影が薄いツッコミ役。師岡卓也
筋肉担当。島津岳人
ファミリーのマスコット。岡本一子。
以上、俺と同じ小学四年生五人で構成されているグループである。
まあ、結局俺たち四人は風間たちの仲間に入れてもらうことになった。
モモさんはあまり友人はいない。嫌われているわけではないが、その腕っ節から躊躇してしまう人が多いからだ。そのため自分の力を見て、それでも躊躇なく仲間に誘う彼らに興味を持ったためだろう。一番最初に仲間になることを承諾した。
俺が彼らの仲間にはいったのはモモさんと同じような理由。忠勝たち以外の友達はあまりいない。喧嘩を吹っ掛けてきた相手を返り撃ちにしまくってたら、自然に人があまり寄り付かなくなった。まあそれでも何人かいる分にはモモさんよりはマシかもしれないが。
小雪が入った理由は簡単で、俺たちが入るならとかそんな理由だった。まあこれに関しては俺は良かったと思っている。小雪は元々俺たち以外にはあまり懐かないため、これがいいきっかけになればいいと思っている。
意外だったのは忠勝も入ることを了承したことだ。元々忠勝はグループ行動みたいなことがあまり好きではない。俺たちと一緒にいるのも、俺との腐れ縁という部分が多い。
そう思ったのだが、そういえば風間ファミリーには忠勝の孤児院時代の知り合いのワン子(岡本のあだ名。友達になったのだからそう呼んでくれといわれた。)がいたことを思い出した。ワン子に聞いたことによると、昔から自分の世話を焼いていてくれていたという。
このことからたぶんワン子を放っておけなかったのが理由なんだなあ。と考え付いた。あいつはぶっきらぼうなところがあるけど結構世話焼きだし。愛い奴め。(本人の目の前でそのことを指摘したら殴られた。理不尽。)
まあ、そんな理由で俺たち四人は、彼ら風間ファミリーに入ることになった。そしてそれから一カ月後、俺は新しい仲間と出会うこととなる。
☆ ☆
俺たちが風間ファミリーの仲間になってから一カ月がたったある日。
俺は、ガクトと忠勝。小雪と一緒に川沿いの道を歩いている。普段俺たちが遊び場にしている空き地に皆でむかっているのだ。
最初は俺と小雪だけだったのだが、途中から二人とあったので、一緒にむかっているのである。
「あ!ちょうちょ〜。」
「こらこら、道路に飛び出そうとするな。」
「らんらんる〜。」
「危険な発言もするなよ!?」
我が義妹ながら油断できないな、こいつ。
「いつも大変だな。お前も・・・。」
小雪の自由奔放さに戦慄していたら、忠勝になんか道場のまなざしをむけられてしまった。
なんか、悲しくなってきたな・・・・・・。
「しっかしお前らが仲間になってからまだ一カ月しかたってないのか〜。」
「?それがどうかしたのか?」
「いや〜、なんか一カ月どころじゃなく、もっと昔からお前らと一緒にいるように感じてなあ。」
「なるほど。」
確かに俺もそう思う。相性がいいというのだろうか。俺たちが風間ファミリーになじむのは思いのほか早かった。
前述したように他人にあまり懐かない小雪がすぐに皆に懐いたのがその証拠だろう。まあ、悪いことではないので別に構わないが。
その他にも、昨日見たアニメの話や、巨人さんがまたふられた話など、適当にだべりながら空き地へむかっていると、
「や〜い!椎名菌!!」
「あん?」
なんの声だ今のは。
俺がその声の主を探すと、
(あれか?)
河原にいる集団。俺たちと同じくらいだろうか。一人の女の子を三人ほどの男の子が囲んでいた。
どうも仲良く遊んでいる雰囲気ではないな
「あれって・・・椎名か?」
「知ってるのか、ガクト?」
どうやらガクトはあの少女のことを知っているらしい。
ガクトが少女の情報を喋ろうとした時、
「お前の母ちゃん、淫売なんだってなあ。」
「ギャハハハ!淫売の娘かよ。ばっちい!」
「きたねえからこっちくんな椎名菌!!」
おいおい、あれって、
「イジメか?」
「ああ、そうだ。」
俺のつぶやきに答えたのはガクト。その顔にはいつもの快活さはなく、暗い物を感じる。
「あいつは、椎名京っていってな。大和たちと同じクラスの女子で、どうやらいじめにあっているらしい。」
「なっ!?」
俺はそんな話知らないぞ!?
忠勝も同じだったのか、驚いた顔でガクトを見ている。
「まあ、お前らが知らないのも無理ねぇ。俺も噂で聞いただけだからな。まあ、あれを見たら噂が本当だということがわかったが。」
「・・・っち!胸糞わりい。」
忠勝が不機嫌に舌うちする。確かに胸糞悪い話だ。あんな女の子がなんでそんな目に逢わなければならない!?
俺が憤っていると、
「おい、なんとかいったらどうなんだ淫売!!」
ドン!!
「きゃあ!?」
バッシャーーーーン!!
件の少女、「椎名京」に無視されていらだったのだろう。三人の男のうち、もっとも体の大きい男の子が、椎名を川へ突き飛ばした。
「!?あのやろうっ!?」
俺が急いで椎名の元へむかおうとすると、
「待て、四季!」
「ガクト!?。なんで止めるんだよ!?」
ガクトに腕を掴んで止められた。
早くしないと椎名が!?
「ここであいつを止めたらお前まで標的にされるぞ!それだけじゃねえ、ファミリーの皆もだ!。それでもいいってのか!?」
「!?」
そうだ。子供は無邪気故に残酷。それゆえに陰湿だ。俺一人なら大丈夫だが、ファミリーの皆に被害が及ぶ。
「くっ・・・(ギリ!」
できないっ!ファミリーに害を及ぼす。それだけは!
(でも!?)
俺は椎名を見る。
ボロボロの服にやせ細ったからだ。体中ずぶぬれなのに、一切の表情の変化を見せないその顔は、全てを悟ったような、いやあれは、
ーー全てを諦めている、そんな顔をしていた。
(・・・なんて顔してやがる!)
ガクトの話が正しければ、あいつはまだ俺たちと同じ小学生のはず。それがどうなったらあの年であんな顔ができるんだ。
助けに行きたい、でもそうしたら皆に迷惑が。
俺が葛藤していると、
「いってこい。」
「・・・え?今なんて?」
俺は声の主、忠勝に問いかける。
それに対し、忠勝は心底めんどくさそうに答えた。
「だからいってこいっていったんだよ。・・・・・・助けてえんだろ?あいつを。」
忠勝がむいたほうには、無表情で男たちの罵声を聞いている椎名の姿が。
でも、あいつを助けたら、ファミリーの皆が!?
「な、なにいってんだ源さん(忠勝のあだ名)!?そんなことしたら。」
ガクトが忠勝の発言に驚く。
「ああ、余計な恨みを買うかもな。ファミリーの皆にも迷惑がかかるかもしれない。」
「だったら、「あまり俺たちをなめんなよ四季。」っ!?」
凄んだ忠勝の迫力に、俺とガクトは思わず息をのむ。鉄心さんたちのような、実力差からくる迫力でもなく、釈迦堂さんのように禍々しさからくる迫力でもない。
今の忠勝からはそのどれでもない、逆らい難いものを感じた。
「確かにお前は強ええ。同年代じゃモモ先輩くらいしか相手が務まらねえほどにな。そんなお前が俺たちを守ろうとしてくれてんのはわかる。俺たちを大切だと思ってくれてんのはわかる。でもな。」
ーーーそんなに俺たちを信用できねえか?
なっ!?
「そ、そんなこと。」
「ああそうだ。お前がそんなこと思ってねえのはわかってる。でもなあ。」
忠勝は俺の胸倉をつかむ。ちょ、くるし!?
「俺たちを信用できないと、そういっていんのと同じなんだよ!!なんで俺たちに声をかけねえ。一言あいつを一緒に助けてくれといわねえんだ!」
「そうだよ、四季〜。」
いつの間にか俺の顔の近くには小雪の顔が。珍しくご機嫌斜めみたいだ。
「僕たちは仲間でしょ〜♪だったらもっと僕たちを頼ってよ〜。」
「小雪・・・。」
俺が忠勝と小雪の気づかいに感動していると、
「おい!なんとかいったらどうなんだ!」
その感動をブチ壊すような怒声が聞こえた。
みると、声の主は先ほどまで椎名を罵っていた男の一人。どうやら椎名が無視し続けたため、堪忍袋の尾が切れたようだ。
それでも椎名は無視を続ける。
「このっ・・・!」
憤った男が椎名にむかって腕を振り上げる。
危ない!?
「すまない、俺は行く!」
そうして、俺は椎名のところにむかっていった。
サイド:忠勝
四季はすごい速さで椎名の元へむかっていった。
よっぽど行きたかったんだろうな。助けにむかう四季の口元は弧を描いていた。
「で、お前は行かせてよかったのか。」
「・・・しゃあないだろ。四季があそこまでやる気になってんだ。止められんのはモモ先輩くらいだ。」
「確かにな。」
四季は普段は温和だが、四季はモモ先輩に勝ったやつだ。それだけにあいつが本気になったら、止めるのは難しい。
「それに俺様だってほんとはなんとかしたかったしな。俺様だって嫌だったんだぜ、あんなこというの。俺様はファミリーのことを思ってだな。」
「わかってる、そんなこと。」
こいつは普段はあんな感じだが、その実誰よりも仲間思いだ。椎名に関わらないように四季にいったのもファミリーに害がないようにだろう。
「それで、あの子はどうするの〜。」
「どういう意味だよ、ゆき。」
「四季があいつを助けた後、どうするかってことか?」
「うん。」
確かに。あいつがそのまま終わらせるとは思わないしな。たぶん、
「たぶん、俺たちの仲間にいれんじゃねえのか?」
「まじかよ。」
どうやらガクトは椎名を仲間に入れるのは抵抗があるらしい。
だが、
「僕はいいよ〜♪」
「ゆき!?」
ガクトが驚いている。それもそうだろう。小雪は仲間以外にそこまで関わろうとしない。そんな小雪が自分から関わろうというんだから。
「僕も四季が助けてくれなかったら、あの子と同じでひとりぼっちだったから。」
「ゆき・・・。」
珍しく寂しげな表情を見せる小雪の姿にガクトは息をのむ。
小雪の身の上話は実はファミリー全員が知っている。小雪と四季があまりに似てないことを指摘されたため、小雪が自分から話したのである。
四季は無理に話すことはないといっていたが、小雪はそれでも話すことをきめた。
『皆には知っててもらいたいんだ〜♪』
そういって小雪は自分の過去を俺たちに話した。・・・随分軽い感じで話していたが。
それでも思った以上に重い話に泣いてしまった一子のやつを慰めたのは記憶に新しい。
っと、今は関係無かったな。
「小雪は賛成か。」
「源さんは、源さんはどうなんだよ!?」
ガクトのやつが必死の形相で俺に詰め寄る。
そんなにいや、違うな。ガクトが心配してんのはやっぱりファミリーのことだろ。まあ、それでも俺は、
「俺はべつにかまわねえ。」
「源さん!?」
「幸い、俺たちには四季の他にもモモ先輩がついてる。表だって喧嘩をうるやつはいねえだろうし、幸い一番弱いモロは四季やお前と同じクラスだし、一子は俺や小雪と同じクラスだ。問題ねえよ。」
そう俺がいうと、諦めたのだろうガクトががっくしと肩を落とす。
「まあ、俺らだけの意見だけじゃな。ガクトお前はどうなんだ?」
「へ?」
「そうそう、僕もそれが聞きたいな〜♪」
そういって、俺と小雪はガクトのことを見つめつづける。
ジーーー
「いや、俺様は。」
ジーーーー
「だから、」
ジーーーーー
「あああ!?もう!わかった、わかったよ、俺様も賛成だ!!」
観念したのだろう、ガクトは大きな声で賛成の意を示す。
「いいのか?」
「いいもなにも、そんな目で見つめられちゃ他の答えなんてだせねえだろ!?」
「素直じゃないな〜♪ガクト。」
「うるせえ!!」
「きゃ〜。」
小雪にからかわれたガクトは、真っ赤な顔で逃げる小雪を追いかける。
「まったく。」
まあ、一番反対しそうなガクトが賛成したんだ。あとは反対するとしたら大和くらいだが、そんくらいはあいつにやらせりゃいいだろ。
椎名の手を引いてこちらにくる四季をみながら俺はそう思った。
サイド:椎名京(以降、京)
【淫売の子】に【椎名菌】
それが私の学校でも呼び名だった。
発端は私の母親。・・・本当はあいつを母親と呼ぶなんて嫌なんだけど。
あいつは家にいないことが多い。男をあさっているのだ。たまに家に連れ込むことがあり、そういうときはそいつが帰るまで、外にでている。
なんで父さんがこんなやつと結婚したのかがわからない。あいつが浮気していることなんて父さんもわかっているはずなのに。
そんなあいつのことは近所に住んでいる人も知っており、まるで汚い物をみるように、あいつと、・・・あいつの子供である私のことを見る。
ーーーなんで?なんでそんな目で私を見るの?
そんな大人を見て、子供たちもわたしにはなにをしても大丈夫だと思ったのだろう。
私に対して、イジメがはじまった。
ーーーなんで私をいじめるの?
私も最初は抵抗した。
でも抵抗するたびにあいつらはそんな私をおもしろがる。
ーーー私がなにをしたっていうの?
先生にもいった。
でもクラスのほとんどがグルになっていて、私が悪者にされてしまった。
ーーーなんで私がこんな目に。
抵抗してもダメ。助けを求めてもダメ。
ーーーもう疲れた。
私は全てを諦めた。
今日も図書館で本を借りた帰り道。しかし、いつも私をいじめているやつらに遭遇してしまう。
あいつらはさっそく私を殴ったり、蹴ったり、罵声を浴びせたりしてきた。
私はいつものように無言で、無表情でそれに耐える。そうすればこいつらは飽きてそのまま帰っていくはずだった。
しかし、今日は違ったようで、無視を続ける私に憤った男の子が私のことを川に突き飛ばした。
「きゃあ!?」
バッシャーーーン!
「あはは、ずぶぬれになってら!」
「いい気味だぜ!」
周りの男の子がはやし立てるのを、
「・・・・・・。」
私は無感動にみつめていた。思ったのは図書館で借りた本が濡れてしまったことくらい。
少女は慣れてしまったのだ。人の嘲笑に。人の残酷さに。そして、人の悪意に。
ゆえに少女、椎名京は、諦めてしまった。あらがうことを。・・・幸せになることを。
だから、
「この・・・!?」
少年が腕を振り上げ、自分を殴ろうとするのも無抵抗でいた。
全てを諦めてしまったために。
しかし、
「ライダーーキック!!」
「へ?ぐペらっ!?」
自分を殴ろうとした男の子が吹き飛ばされた。
「・・・・・・へ?」
思わず間抜けな声がでてしまったが、それも仕方ないと思う。それくらい突然だったのだ。
すると、
「なーーーにやってんだお前ら。」
みると、私を殴ろうとした男の子が立っていた場所には別の男の子がたっていた。
黒い肌に、赤い艶やかな髪。きつすぎないぐらいにつりあがった目。
「・・・・・・。」
思わず見とれてしまっていたが、そんな私を放って、男の子は話を進める。
「お前らなにをよってたかって、女の子をいじめてんだ。男として恥ずかしくないのか!!」
え、もしかして私を助けに!?嘘、今までそんなことって、なかったのに。
「う、うるさい!なんだてめえ!?」
「そうだ、そうだ!そいつの母親は淫売なんだぞ!お前、そいつをかばうのか!!」
私はその声に体をこわばらせた。私を助けてくれたこの子も私をいじめる彼らの仲間になるのではないかと。しかし、
「知ったことか!!」
「「「!!?!」」」
その男の子は、いじめっこの言葉をその一言で否定する。ってええ!?そんな簡単に!
「こいつの母親がどんなやつなのかは知らねえ。まあ、こんな状態のこいつを放っておく親だ。きっと、お前らがいうとおり、人として最低最悪な、極悪犯罪ニート女に決まってるが。」
「いや、俺ら。」
「そこまでいってないけど。」
うん。私もそう思う。というか一瞬大嫌いなあいつに同情しちゃったし。
困惑する私は、しかし、次の男の子の言葉に衝撃を受ける。
「だけど、だけどな、
親は親、子は子だろう!!」
・・・え?
「たとえ親が人の道を外れていても。」
うそ、こんな、
「たとえ、親がどんな罪を犯そうとも。」
こんなこと。
「子供には関係ねえ。」
こんなこと、だれもにもいってもらったことない。
「だから、こいつがいじめられんのは納得いかねえんだよ!!!!」
私はその男の子の言葉が嬉しかった。冷たく凍ったはずの心が温かい熱で溶けていくのを感じた。
その時、
「う、うるせえ!?これでもくらえ!!」
ブン!
赤毛の男の子の剣幕に怯えたいじめっこの一人が、男の子に河原に落ちてた拳大の石を投げつける。
「危ない!?」
しかし、私の心配は杞憂だった。
パシ!
「な!?」
赤毛の男の子は、投げつけられた石をなんでもないように受け止める。
すごい。なにか武術をやっているのかな?
「お、思い出した!こいつ、『川神南四天王』の篠宮四季だ!」
「「なにい!?」」
篠宮四季!?川神南四天王の!?
川神南四天王は、川神南小学校で、もっとも腕が立つ四人のことを指す。そのなかでも篠宮四季っていえば、川神院の跡取りの、川神百代にも勝ったことのある四天王最強。
この男の子があの篠宮四季!?
「俺は弱い者いじめはしたくない。せっかく習った技もお前らなんかに使いたくないしな。でも。」
バキン!!
「ひ!?」
「すごい・・・。」
篠宮君は手に持った石を握りつぶす。って!?潰した!?砕くじゃなくて?子供にできることじゃないでしょ!?
「お前らがこの子をいじめるなら容赦しねえぞ!!」
「「「ヒイィィィ!?!」」」
「わかったら、とっとと失せやがれ!!」
「う、うわああああ!?!」
「あ、まってよ根元くーん!?」
「ちょ、置いてくんじゃねえ!!?」
篠宮君が、脅すといじめっこたちが悲鳴を上げながら逃げて行った。
私がそれを茫然と見ていると、
「ところで、」
「!?」
こちらを振り向いた男の子に私は思わず身構えるが、そんな私をみて男の子は苦笑する。
「そんなに怯えられたら困る。取って食いやしないから。怪我は大丈夫か?」
「あ、・・・うん。大丈夫。」
「そっかよかった。」
篠宮君は、心底ほっとしたように胸をなでおろす。でも私は篠宮君に、聞きたいことがあった。
「なんで?」
「うん?」
「なんで、助けてくれたの?」
そう、それが聞きたかった。篠宮君にはなんの得もないはずなのに。
それを聞くと、篠宮君は恥ずかしそうに鼻の頭を掻く。
「俺は、理不尽なことが嫌いなんだ。」
「理不尽なこと?」
「ああ、椎名がいじめられていた理由を聞いたが、お前は全然悪くないように感じたからな。」
「!?あ、ありがと。」
うれしい。こんなにやさしい言葉をかけられたのは久しぶりだ。
「ああ、そういえば、もうひとつ助けた理由があった。」
「?なにそれ?」
そういうと、篠宮君は私に手を伸ばす。
「俺と友達になってくれないか?」
「・・・へ?」
今なんて。
「いや〜。俺って結構一緒に遊ぶ友達が少なくてねぇ。だからもっと友達が欲しいと思ってさ。」
そういう篠宮君。で、でも、
「私は汚いよ?」
「いや、どこがよ?」
「わ、わたし、しゃべるの苦手で、おもしろくないし。」
「一緒に遊ぶからおもしれえんじゃねえか。」
「根暗だし。」
「でもいいやつだ。」
私の言葉を否定する、否定してくれる篠宮君。それでも私は言葉を続けようとする。
「で、でも、」
「ああ!じれったい!!」
「ひゃ!なにを!?」
篠宮君は私の顔に両手を添えて、こちらを向かせる。
うう、なんか恥ずかしいよお。
「椎名京!!」
「ひゃ、ひゃい!?」
急に篠宮君がだした大きな声に、反射的に答える。
「お前は俺と友達になりたいのか、なりたくないのかどっちなんだ!!」
・・・あ。
そうだ。簡単なことだったんだ。篠宮君は私がいったことなんて気にしない。肝心なのは私が篠宮君と友達になりたいかなりたくないかなんだから。
だから、私は、勇気をだして、篠宮君の問いに答える。
「私は・・・私は篠宮君と友達になりたい!!」
そう私がいうと、篠宮君は笑顔になり、私の顔から手を離すと、再び片手で私に握手を求めてくる。
「んじゃ、あらためて自己紹介だ。俺の名前は篠宮四季だ。よろしくな。」
それに私は急いで、篠宮君の手を握り返す。
「わ、私は椎名京!京って呼んで!」
「おう、俺も四季でいいぞ、よろしくな京!」
ーーーとくん。
篠宮君、いや四季の笑顔に胸が高鳴る。ああ、私はもしかしたら、恋しちゃったのかな。
「うん!よろしくね、四季!!」
この赤毛の王子様に・・・。
それが、私と、生涯私が愛することになる、『篠宮四季』との出会いだった。
☆ ☆
サイド:四季
あれから、椎名を連れて、忠勝たちと合流した俺は、忠勝たちに自分の考えを話した。
京を俺たちの仲間にしたいと。
ガクトあたりに反対されると思ったが、意外にあっさり賛成された。・・・・・・なんか、「しょうがないやつだ」みたいな表情をされたのは納得できなかったが。
そのまま空き地に連れて行って、キャップたちにも話した。
ここでも、思ったより、皆あっさり賛成してくれた。まあ、大和一人だけ、反対みたいだったが、他の皆が入れる気満々だったので、諦めたみたいだ。
それからは、皆で強力して、京をイジメから助けだした。結構大変だったが大和の策と、俺やモモさんたちの武力で、なんとか解決することができた。そうして、京は俺たちの正式な仲間になったのだった。
・・・・・・
・・・・・・
まあ、それはいいのだが。
「四季大好き。つきあって。」
「京ずるい〜。僕も僕も。」
「ズルイぞお前ら。私も四季に抱きつく!」
急激に俺に懐いて、抱きついてくる京に、それに対抗するように抱きついてくる小雪とモモさん。
なんだか、それぞれがお互いをけん制しあってるような、そんな感じがするんだが。
「なぜ、こうなった。」
「自業自得だろ?」
「なんでさ?」
俺の問いに帰ってきたのは忠勝たちの呆れたようなため息だけだった。
本当に、
「なんでさーーーーーー!!」