第九話 『リュウゼツラン』ですか。
サイド;四季
京が風間ファミリーに入ってからしばらくして、俺たちはそれを見つけた。
いつものように秘密基地のある原っぱで遊んでいた時、キャップからの声がかかったので集まってみると、そこには以前に大和が発見した、他の雑草より背の高い草があった。
「なあ、この草大きくなりすぎじゃねえか?」
「あー。そういわれれば。」
草を指差していうキャップにワン子が答える。
そういや、前見たときは、もっと小さかったな。前も大きいには大きかったが、せいぜい二メートルくらいだったし。
「前見たときは二メートルくらいだったのに」
「三メートルはありそうだな。」
「ホントだねぇ」
ふむそうなると、一カ月で一メートルは伸びた計算になるな。かなりの成長の速さだ。
俺が自然の凄さに感心していると、ガクトとワン子の言い合いが聞こえてきた。
「ワン子も結構いうようになったよね。」
モロ(師岡の呼び名)の言葉に、確かにと思う。
ワン子は元々、元気が有り余っているという表現がぴったりな子だったが、泣き虫なところがあるため、強くものをいえないところがあった。そのワン子がここまで気が強くなったのはちょっとした訳があって、
「私に弟子入りしたから当然だ。」
「うん、私強くなる。」
そうワン子がモモさんに弟子入りしたのが大きな要因だろう。
理由としては女の子でありながら凄まじい強さを持つモモさんに憧れたからだそうだ。
モモさんも満更ではなく、ワン子を実の妹のように可愛がっている。
・・・実は後でワン子に聞いたらモモさんに弟子入りしたのは他にも理由があり、昔から世話になっている忠勝に、もう迷惑をかけたくないというのも理由らしい。
・・・愛されてるなあ、忠勝。
ガン!
「痛っ!?」
な、なんだ、急に殴られたぞ!?
見ると、俺の傍には拳を振り下ろした状態の忠勝が。って!
「いきなりなにすんだ、忠勝!」
「お前が変なこと考えるからだ。」
・・・あれ?
「な、なんでわかったんだ?」
「ほ〜、本当に考えてたのか。」
しまった!計られた!
「ひ、卑怯だぞ忠勝!」
「うるせえ。何考えてたのか、キリキリ吐いてもらおうか。」
忠勝の言葉に俺は、
「ふっ。
やなこった。」
逃げ出した。
「あ、待てこら!」
「へ、へ〜ん。追いつけるもんなら追いついて、ってはやっ!?忠勝はやっ!?なんでそんな速いんだ!?(ギャグ補正です。)
まあ、この日はこんなかんじで終わった。
草のことも、皆他のより大きい草くらいの認識で終わった。
その草の異質さに気づいたのは、それから2ヶ月後のことだった。
真夏らしく、日ざしが暑いある日のこと、
「オイオイどんだけでかくなってんだこの草。もう五メートルは超えてんじゃねえのか?」
キャップが草の成長の速さに驚きの声をあげる。
それで、皆でこの草がなんなのか、会議を開くことになった。
「実は妙な生き物なんじゃね?」
「どういうこと?」
ガクトの言葉にワン子が反応する。やめとけワン子。どうせろくなことじゃないから。
「ある日ワン子の姿が消えた・・・・・・するとこの植物はワン子の身長分伸びていた。」
「怖いでしょうが!」
ガクトの言葉にワン子が体を震わす。いわんこっちゃない。
そんなガクトの言葉に便乗するキャップ。
「ある日、ガクトの姿が消えた。するとこの植物が花をつけた時、そこのガクトの顔が!」
「「キャー!気持ち悪い!!」」
キャップの言葉に反応する、ワン子と小雪。小雪は俺の服を掴み、ワン子はモモさんの後ろに隠れてしまった。
そんな二人を交互に見る、京。どした?
ふと京と目が合う。とてとてと俺のほうに歩いてきて、
「四季、私も怖いから、慰めて?」
「いや、嘘だろそれ。」
おもっくそ、無反応だったじゃねえか。
「・・・ちっ」
あ、舌うちしやがたった!・・・・・・だんだんしたたかになってきたな、お前。
意外な反応だったのが、
「ぬぬ・・・・・・だが物理的に殴れるなら化け物も平気だ。」
と、震えながらいうモモさんだった。
「あれ、姉さんお化け苦手?」
「ふん、うるさいな。・・・・・・ちょっとだけだ。」
大和の問いかけに、モモさんは、強がって答える。・・・・・・なんだろう。ちょっとかわいい。
「いたっ!?」
な、なんだ!?
「「ふん!?」」
どうやら、小雪と京に脇腹をつねられたらしい。・・・なんなんだよ、もう。
「化け物を相手にするなら、、まだミサイルを撃ち込まれたほうがマシだ。」
「いや〜それはどうなのさ?」
モロが呆れてつっこむ。まあ、モモさんらしいっちゃ、モモさんらしいが。
そういえば前に尊敬する人が安陪晴明っていってたけど、それってそういう理由か?
「ガクトー!!」
おや?あれは確か、
「か、母ちゃん!?」
ああ、どっかで見たと思ったら、ガクトの母さんの麗子さんか。
「あんた、また宿題やっていかなかったんだって!先生から連絡があったよ!!」
「やっべ!?」
またかよ、ガクト。
あ、そうだ。
「すいません、ちょっといいですか?」
「ん?おやあ、四季君、相変わらず、いい男だねぇ。」
「ハ、ハハ。そ、それはどうも。ちょっと、聞きたいことがあるのですが。」
麗子さんは意外に、物知りなので、ちょうどいいからこの草のことを聞いてみた。
「ん〜。これは竜舌蘭かねえ。」
「りゅうぜつらん?」
ワン子が首を傾げる。しかし、大和はその名前に心当たりがあったようだ。
「なるほど、センチュリープラントか。」
それに麗子さんは軽く驚く。
「おや、大和ちゃん、よく知ってるね。」
大和は博識だからなあ。ただ単に前世の記憶があるだけの俺とは大違いだ。
「ふーん。で、結局いつ咲くんだ?」
キャップの疑問に、麗子さんは困ったような顔をする。
「さあ、私もそこまではねえ。あ!モモちゃんのおじいさんなら知ってるかもね。」
そういって麗子さんは用事があるといって去って行った。・・・ガクト曰くお気に入りのドラマの時間らしいが。
「ふむ、では呼んでみるか。」
そう宣言すると、モモさんは大きく息を吸い込む。って、やば!?
俺たちは反射的に耳を塞ぐ。
「ボケはじめのブルセラジジイ!!!!」
「モモ!お前いい度胸しとるのう!!」
・・・おい、どっから現れたんだ、一秒もかかってないぞ!?
「一瞬で来ちゃったよ。この一族はまったく・・・・・・。」
モロの言葉は、ものの見事に全員の気持ちを代弁していた・・・・・・。
代表して、大和が鉄心さんに事情を話す。
鉄心さんのいうところによると、この花は確かに『竜舌蘭』だということ。この花は五十年に一度咲くといいうこと。今の花はその時の子株だということ。竜舌蘭は個体によって咲く時期が違うということ。そしてこの花が明後日ぐらいで咲きそうなことが分かった。
話しあった結果、皆で写真を撮ろうということになった。楽しみだなあ。
しかし、竜舌蘭の開花予定日、
ざああああああ!
ごおおおおおお!
「・・・・・・。」
台風が川神市に来襲していた。
激しい雨が窓ガラスに打ちつけられ、風は全てを吹き飛ばしそうな勢いだった。
あ、看板が飛んでる。
あのタオルは誰かの洗濯物かな?
うわあ、瓦が飛んでるよ、危ないなあ。
あ、モモさん。・・・・・・・・・モモさん!?
俺は急いで窓を開ける。雨水が入ってくるがそんな場合じゃない。
「モ、モモさん!?どうしたのさ、いったい!?」
合羽を着て、家の前に立っていたモモさんに話しかける。
そういうとモモさんは口元を三日月に歪めながら、
「キャップからの召集だ!原っぱに急ぐぞ!!」
「・・・は?」
「うわあ、凄い風♪」
「楽しそうだな、お前。」
三人で原っぱに到着すると、すでに他のメンバーが揃っていた。
モモさんのいうことだと、キャップから竜舌蘭のことで召集をかけたので、ついでに俺と小雪を迎えにきたということだ。
無茶しやがって・・・。
全員が集合すると、キャップが召集した目的を発表する。
どうやら、竜舌蘭の花がきちんと咲けるように保護するつもりらしい。
そのキャップの言葉に、大和が反対する。
「・・・全く、この台風の中無茶苦茶だ!なあ竜舌蘭は普通に栽培されてるらしいぜ。今回ダメでも、どっかでそれを見ればよくね?」
確かに大和の言葉は正論だ。第一、こんな嵐の中、子供が外を出歩いてる時点でおかしいのだが。しかし、
「あの花は、あの花だけなんだ。かわりなんてねえ。空き地に咲いているあの花を、みんなで見たいんだ。」
「アタシも!」
キャップの言葉に、ワン子が同意する。他の皆も、常識人の忠勝でさえ、同意しているようだ。
「分かっているさ俺だって!ただ危険すぎるって事だ!」
自分以外の全員が同意したことに、大和は少しだけ声を荒げる。
まあ、大和の意見が一番正しいんだけどなあ。ここにいる奴はだれ一人帰ろうとしない。
「ま、諦めろ、こうなったらこいつらは絶対ひかねえ。」
「源さん・・・。」
大和を慰める忠勝。いや、お前も同意してただろうに。
「大和×源さん。いや源さん×大和もいいかも。はあ、はあ。」
そして、京。目をキラキラさせながら、息を荒げてへんなことをいうのはやめろ。
っていうか、そんなキャラだったか?お前。
忠勝に慰められた大和は、大きいため息をついた後、雨で濡れた髪を掻きむしり、モモさんと俺に顔を向けた。
「こうなったら姉さん、兄弟、よろしく頼む。」
「ああ、私が皆を守る。必ずな。」
「ま、大船に乗ったつもりで任せとけ。」
即答した俺たちに、大和は思わずといったようにつぶやく。
「なんと心強い。」
そりゃよかった。
まあ、がんばりますかね。
花弁が飛ばされないようにビニールで覆った竜舌蘭を囲むように、キャップ、大和、モロ、ガクト、京にワン子を配置し、その周りに俺とモモさん、それと、この中では俺たちに次いで武力の高い、忠勝と小雪を置いた。
「周りは基本俺と、忠勝。小雪が守るから、モモさんは皆を頼んだ。」
「了解だ。」
「久しぶりに、僕たち四天王の出番だね〜。」
ああ、そういやそんな設定あったな。(メタ(ry
「その名前で呼ぶんじゃねえ!」
小雪の言葉に忠勝は不機嫌そうに返す。ああ、そういや忠勝はこの呼び方嫌ってたなあ。
そんな話をしながら、しかし突風で吹き飛ばされてきた飛来物を、撃ち落とす。
「ふは、ふは、ふははははははは!」
この状況で楽しそうにしているモモさんがちょっと怖かったのは秘密だ。
まあ、そんな感じで花の保護を無事に終えることができた俺たちは、自分たちの家に帰って行った。
・・・・・・家に帰ったら、嵐の日に外出したことで、父さんたちに思いっきり絞られてしまった。あまりの母さんの迫力に思わず泣きそうになってしまったのは余談である。
次の日、
「おお、咲いてる咲いてる。」
俺たちが守った竜舌蘭は、黄色い花を咲かせていた。
正直、必死になって保護したわりには特別綺麗な花というわけではなかったが、五十年に一度に咲くという特異性のせいだろうか。なにか、感慨深い物を感じるなあ。
「ほら、写真撮るから並んだ、並んだ。」
シャッター役を頼んだ麗子さんが、カメラを構えて俺たちを急かす。
そんなこんなで、俺たち10人は思い思いの格好で竜舌蘭の前に並び写真を撮った。
そして、次にこの花が咲く時である五十年後、今と同じ格好でもう一度写真を皆で撮ろうと誓い合ったのだった。
そういやモモさんが、「たとえ五十年経っても、私は鍛えて若いままでいる。」っていってたけど、さすがに無理だよなあ。・・・・・・無理だよ・・・な?