小説『真剣に私に恋しなさい! 〜 最強の武将の名を受け継ぐ男? 〜』
作者:ラドゥ()

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第十一話 上海に俺参上!ですか。


九鬼家と霧夜グループが協同で出資したホテル、『上海ニューホテル』。

この最新鋭の、しかしテロリストのせいで倒壊の危機にあるホテルのパーティー会場で二人の男がむきあっていた。

一人はジョン・ドゥ。『名無しの男』と名乗るテロリスト。

黒のスーツに身をつつむその男は、一見そこらにいるただのサラリーマンのようにも見えるが、その目、今は突然現れた正体不明の少年を観察するために細められた目に宿っている光は、明らかに常人が放てるものではなく、その戦闘の腕前も『女王蜂』といわれた傭兵。忍足あずみを無傷で下したことから尋常ではない強さを持っていることがわかる。

もう一人は篠宮四季。

褐色の肌に赤い髪をたなびかせ悠然と立っているその少年。かの川神鉄心、ヒューム・ヘルシングと同じく、世界最強クラスの実力を持つ裏世界にその名を轟かす武術家、『鬼神』篠宮奉山の息子であり、実はとある武人の血もひいているのだが、まあそれはここでは関係ないので、また今度語ることにしよう。

多大なる才能(チート)をその身に秘めた、居酒屋『トビウオ』の跡取り息子。戦う料理人見習いである。

そのお互いにどうみても場違いな見た目の二人の戦闘者が今ここに対峙していた。






サイド:四季

「料理人ね・・・。君が何者か知りませんが、どうやってここへ?表には一応腕利きの部下を置いておいたのですが。」

「部下?・・・ああ、あの人たちなら少し眠ってもらったよ。今頃ホテルの前で全員昼寝をしてるんじゃなかな?」

「!?ほう。それはそれは・・・。」

俺の言葉に目の前の男は目を細める。

う〜ん。警戒されてんなあ。

まあ急に現れたガキが自分の邪魔をしただけじゃなく、十人もの部下を一瞬で倒したんだから警戒すんのが当然だが。

ただ殺気をむけんのはやめて欲しいんだけどなあ。いくらモモさんや釈迦堂さんとの稽古で殺気に慣れてるとはいえ、(あの人ガキにも容赦ないんだよなあ)浴びてて気持ちいいものでもないし。

・・・がくがくぶるぶる。こ、これは怖いわけじゃないんだから!ただの武者震いなんだからね!!

・・・・・やめよう。男のツンデレなんて需要ないし・・・。


しっかし、

(なんでこんなことになってんのかねえ。)

俺は自分の置かれた現状について考える。

なんでただの小学生(笑)の俺がこんな殺伐とした場にいるのか。それは父さんの発言がきっかけだった。



〜回想〜

それは俺と小雪が、居間でテレビを見ながら、冬休みをどう過ごそうか考えていた時のことだった。

「上海?」

「そ。上海&#60536;。商店街の福引きであたったのよ。」

そういって父さんが見せたのは、『上海一泊二日旅行券』とかいてあるチケット。

「ちょうど明日から冬休みでしょ?だから久しぶりに家族水入らずでいきましょ?」

「わ〜。僕旅行なんて初めてだよ!」

母さんの言葉に喜ぶ小雪。確かに家で家族旅行なんてしたことなかったしなあ。それに風間ファミリーに入ってから、ただでさえ店にでているために少ない両親との時間が減ってるように感じていた。・・・父さんたちに気にしてくれてたってことかな?気にしすぎか。

まあ、反対する理由もないし、いっか。・・・・・・なんか嫌な予感がするけど。



きんぐくりむぞん!



まあ、そんな訳で上海に着いたわけなんですが、ただいま単独行動中です。

なぜかというと、

「迷っちった・・・。」

そう、上海まで着いたのはいいのだが、ホテルから出てファミリーの皆のお土産を買いに行こうと繁華街にむかっていたんだが、物を見るのに夢中になりすぎてホテルの場所がわからなくなってしまったのだ。

まさか前世合わせて三十路過ぎてんのに迷子になるとはorz・・・。

まあ、最近やっと買ってもらった携帯で両親には連絡してあるし、携帯にGPSもついてるから、なんとかなるだろ。

そんな感じで道を歩いていると、

「ん?お〜!なんだあれ?」

目の前には天を突くように立っている巨大なホテル。俺たちが止まることになったホテルも結構立派だったが、このホテルはそれとは明らかに違う。ただの旅行客が利用するものではなく、なんというか「ろいやる」な客が使うような感じのする

・・・「ろいやる」ってなんだよ・・・。

よく見ればホテルの周りには数人の人。ホテルの人とは違う統一された黒い制服を着た人がちらほら。誰かのSPかなんかだろうか。

本物のSPなんて初めて見たなあと感慨にふけっていると、

ーーードッガーーーン!

「!?」

突然の爆発音。発生場所は先程のホテルから。

「おい!今のは何だ!?」

「わからない。今確認中だ。」

SPの面々も状況が把握できていないようだ。

突然の事態に俺も困惑していたが、

「ん?」

何かが急速に接近してくる気配がする。おそらく車なのだろう。しかし明らかに尋常なスピードじゃない。

俺はとっさに近くのコンビニらしき店に身を隠した。どうやらさっきの爆発音で中にいた客たちはどこかに非難したようだ。店には誰もいなかった。

店の中からホテルを観察していると、

グオオオオオオオ!!!

凄まじい轟音が近づいてくる。

「!?なにかくるぞ!!」

一人のSPが音に気付いて指差した道には急スピードで近づいてくる数台ほどの黒いワゴンが。

「止まれ!止まらないと撃つぞ!!」

SPの面々がワゴンにむけて拳銃を構えるが、それでも止まる様子は見えない。さらにスピードを上げて突っ込んでいく。

「撃てえ!!」

『ハッ!!』

恐らくリーダーらしき男の人が全員に号令をかける。

それと同時に発射される弾丸。

パン!パパン!!

SPが放った弾丸は、しかし、

「な!?」

全てワゴンに弾かれた(・・)。どうやら特殊な造りをしているようでかすり傷ひとつ負っていない。

スピードを落とさぬままSPへとむかっていく。

「ぜ、全員退避ーーーー!」

その言葉とともにSPの面々はあちこちに散っていく。

キューーーー!キキーーーーーーー!!

ワゴンはSPのいた場所。つまりホテルの目の前に止まる。っていうかよくあのスピードで無事に止まれるな。

SPは警戒しているのか、ワゴンの周りを遠巻きに包囲する。

ガチャ

「「「ビク!?」」」

戦闘のワゴンからでてきたのは一人の黒いスーツの男と、数人の戦闘服のようなものを着けた男。他のワゴンからも続々とでてくる。

ざっと三十人ほどか。

黒スーツの男はそのままホテルの中に入って行こうとするが、

「ま、待て!」

SPの一人が我に返ったように男をひきとめる。

黒スーツの男はSPのほうに顔をむけた。

その顔には笑みが宿っているが、どうにもうさんくさいなあ。あの笑顔は。

「なにか?」

「なにかじゃない!なんのつもりか知らないがおとなしくしてもらおうか!」

そういうとSP全員が男にむかって銃をむける。

黒スーツの周りにいる男たちが男を守ろうとするが、当の本人は「大丈夫です」と手でそれを制す。

「いやだといったら・・・?」

黒スーツがSPたちを挑発するようにいうと、

「こうするまでだ。撃て!!」

パン!パパパパン!!

その号令で一斉に弾が発射される。

ちょっ!いきなりっすか!?

弾丸は黒スーツの男に直撃すると思ったが。

「なっ!?」

そこには無傷(・・)の男の姿が。SPの面々は驚いているが、俺には見えていた。

男は握っていた拳をSPたちの目の前にかざし、それを開く。

ジャラジャラジャラ

「なんだとお!?」

男の手から落ちたのは複数の銃弾。そうあの男は、自分にむかってきた銃弾をすべて受け止めていた(・・)のだ。

あの男、一見サラリーマン風だが、間違いなく達人クラスだ。

男は驚愕しているSPをあざ笑うとホテルの中に入っていく。

「ま、待て!」

我に返ったSPの一人が後を追おうとするが、

「撃て。」

パン!

「ぐあっ!?」

「な!?」

黒スーツの命令とともにそのSPが黒スーツの周りにいる男の一人に撃たれてしまう。

「貴様っ!?」

仲間を打たれたSPたちが黒スーツに銃をむけるが、黒スーツの部下たちも銃を構える。

一色触発の状態。

「私を止めたいのならその部下たちをどうにかするのですね。・・・まああなた方には無理かもしれませんが。」

そういって黒スーツはホテルの中に入って行った。











それを俺はコンビニの中で見ていた。

「さーて、どうしようかな。」

俺は緊張感あふれる現場を緊張感なく見ていた。

え?人が殺される場面を見てなんでそんな平気な顔してるのかって?

そりゃあ、こちとら一度死んでる身だぜ?それに血だって父さんの稽古や川神院での稽古でも結構見慣れてるし。釈迦堂さんなんかかなり容赦ないからなあ。子供なんだからもっと手加減してくれればいいのに。まあ、それだけ認めてくれてるってことかもしれないが。

・・・まあ愚痴はここまでにしとくか。問題は俺がここからどうするかだ。

俺は元々無関係だからこのままホテルに戻っても良いんだが、

「あの黒スーツ・・・。」

周りにいた戦闘服の男もかなりの腕だったが、あの男は別格だ。

拳銃の弾丸を受け止めるなんて川神院でも上位の修行僧くらいの腕はないと無理なのに。・・・避けるくらいならかなりいるんだが。・・ま、そのくらいは普通だろ(普通ではないですby作者)。

まあ少なく見積もってもあの黒スーツはそれくらいの実力はあるということだ。

あの部下くらいならなんとかSPたちで対処できるだろうが、あの男はある程度の実力がないと、いや少し腕が立つくらいでは無理だろう。それこそ川神院の上位修行僧を相手できるくらいの実力がないと無理だろう。そう、例えば俺の(・・・)ような・・・。

「はあ・・・。さっさとホテルに戻りたいんだがなあ。」

さっさと戻らないと父さんたちが心配するし。

パン!パパパパパパパン!

おっと、ぼうっとしてたら銃撃戦がはじまってら。

「とりあえずあれ止めて中に入るか。」

そしてホテルに帰ったらゆっくり旅行を満喫するんだ。・・・あれ、これって死亡的なフラグ?

そんなことを思いながら俺はホテルへと歩みを進めるのであった。




〜回想終了〜



まあそんな訳で速効で、でていって、それなりに時間をかけたが、銃撃戦を鎮圧し俺はここにいるのである。

まあたぶんかなりの精鋭なのだろうが俺は小さいころから父さんとか川神院の武道家たちと稽古しているから動き自体はすぐに対処できるものだったんだが銃を相手にするのは初めての経験だったのでそれなりに手こずった。
それでもしばらくしたら慣れてきたから全力でぶっ飛ばしてやったんだが。・・・勢いにまかせてSPもニ、三人吹き飛ばした気がしたんだが。・・・まあ気のせい・・だと思う・・・。

俺はその場から逃げっ、いや、急いでホテルの中にむかった。

まあそれでパーティ会場の中を気配を消して覗いてたんだが、さすがに目の前で人が死にそうになるのは見てられなかったから、こうなったわけだ。

ふむ・・・自業自得か・・・orz。


そんな感じで一人で回想に耽って勝手に落ち込んでたんだが、

「それで・・・君はなにが目的で来たんだい?」

おっと、少し回想に耽りすぎたようだ。しかし目的ねえ。なんとなく来たっていっても納得してくれないだろうしなあ。

「遊びのつもりなら・・死にますよ?」

おおう。平気そうに見えて相当苛立ってんな。かなりの殺気だ。こんな殺気は釈迦堂さんくらいにしかくらったことないな。・・あの人本当に容赦・・いや、釈迦堂さんの愚痴はもういったからいいか。

「そ、そうだ!そいつのいうとおりだ。ガキは後ろにさがってろ!そいつは私がやる!!」

そう叫んだのは先程目の前にいる黒スーツと戦ってた給仕服のお姉さん。いや、俺もさがれんならさがりますけどね?無駄に怪我したくないし。でもねえ。

「そのボロボロの体でいわれても。」

「うっ。」

そう、この給仕さんは俺と黒スーツの会話の間に大分体力を整えたようだが、まだ本調子じゃないはずだ。それくらいは気の流れを見ればわかる。

「あんたはあそこにいるあんたの主のところで休んでればいい。」

「っ!?ガキのてめえを置いてけってのかよ!!」

うーん、しつこいなあ。この人なりに心配してくれてんのはわかるけど。

しかたない。

「そんな心配しなくて大丈夫ですよ。」

そして最低限に抑えてた気(・・)を解放する。

「「!?」」

「俺は、結構強いですから。」

給仕さんと黒スーツが俺の解放した気の量に驚いている。まあ今まではあの戦闘服を倒すのに十分くらいの気しか解放してなかったのでせいぜい少し強いくらいにしか感じられなかったからあそこまで驚いているのだろうが。

「んじゃそういうことで。給仕さんは自分の主でも守っててねぇ。」

「あ、おい!」

給仕さんがなにかいってるが聞こえません。俺はそのまま黒スーツの目の前に立つ。

剣術でいうところの一足一刀の間合い。

お互いすぐにでも相手に一撃を入れられる距離。

「本気ですか?」
「?なにが?」

黒スーツの声に俺は首を傾げる。

「あなたは本来この戦いにはなにも関係がないはずだ。九鬼家の者でないことは先程の九鬼家の護衛とのやりとりでわかっています。つまり戦う理由があなたにはないはず。」

ああ、そういうことか。

「いっておくがここからは殺し合いです。いくら気の量が高くともあなたはまだ少年。そんな経験は皆無に等しいはず。そんなあなたが・・・俺に勝てるとでも。」

丁寧の仮面を自らはがし恫喝する。

先程の比ではない殺気が俺に叩きつけられる。



・・・うんもっともだ。

いくら殺気に慣れてるといっても。いくら自らが死を経験したといっても。

本物の殺し合いを俺は経験したことがない。それはもしかしたら俺が思った以上に不利なことかもしれない。

でも、

「関係ないね。」

「なに・・?」

俺が話すのはこの鬼道流()を手にするときに誓った言葉。

「俺は正義の味方じゃない。全てを救うなんて不可能だ。・・・でも!」

俺は構える。

無構え。

ただの自然体に見えるその構え。

それは最速の武術だけに許される変幻自在の構え。

「俺は目の前で起きている理不尽だけは許せない!俺が戦う理由はそれだけでいい!!」

それは甘ったるい幻想。

何も知らない子供のような理想。

でも、





これだけは譲れない!!




俺の言葉に黒スーツの男は不快そうに顔を歪める。

「理解できませんね。そんなもの。所詮は子供ということですか。」

「いってろ。甘いのはわかってる。理解してもらおうとも思ってない。・・・もういいだろう?」

「そうですね。私もひくわけにはいきませんから。」

黒スーツと俺の気で空間が軋む。

「始めよう。」

「ええ。」


そうして俺たちの殺し合いは始まった。

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