第十二話 初めての実践 決着!!ジョン・ドゥ戦ですか。
九鬼家には、かの家を支える多くの従者たちがいる。
この従者たちは優れた人材を愛する九鬼家の日々の活動の成果であり、家事から、諜報。命がけの荒事まで全てをこなす、まさに精鋭といっていい集団である。
彼らは九鬼家に絶対の忠誠を誓っており、九鬼家のためならどんな難事でもこなすが、今そんな彼らでも解決するのにやっかいな出来事が起こっていた。
九鬼家の長男である『九鬼英雄』。彼が上海でテロに巻き込まれたという報告がはいったためである。
ここは、上海テロの情報が入ったときに急遽立てられた作戦本部。そこに数名の人間が集った。見る人が見ればただものじゃないことがわかるその精鋭たちは、九鬼の従者たちでも最精鋭の、『序列一桁台』。いわば九鬼家従者の幹部クラスの人間たち。
円卓に座る彼らを仕切る大柄な男は、『ヒューム・ヘルシング』。
かつて武神、『川神鉄心』とライバル関係にあった間違いなく世界最強クラスの戦闘力を誇る猛者であり、今現在は九鬼家の人間を自分の主にふさわしいと認め、九鬼家従者のトップ、『序列零位』の地位に収まっていた。
「それではクラウディア。現状の報告を頼む。」
「はっ。了解しました。」
そうヒュームに返答したのはヒュームの右腕であり、現在侍従部隊の『序列1位』を拝命しているクラウディア・ネエロである。
彼は戦闘力ではヒュームに劣るものの、どんな難題も「簡単なことでございます。」と言い放ちやり遂げるその執事としての力量はかの「執事学校」を、主席で卒業した経歴にふさわしいものであり、自らが出会う者ほとんどを「赤子」扱いするヒュームすらも信頼を置くほどである。
「まずは事件の発生は9時間ほどまえ、上海に派遣されていた九鬼の諜報部が何者かに殺害されたことからと見るべきでしょう。」
そのクラウディアの報告に円卓の幹部たちがざわめく。
「静かに!報告は最後まで聞け。クラウディア。」
「はっ!この情報は運良くこの襲撃から逃れられることができた見習いからもたらされたものです。もっともその者も奴らの目をかいくぐるため、今まで下手に動けなかったようで。その事について申し訳なさそうにしていましたが。」
「確かに九鬼家の人間として少し情けなくはあるが。」
「だがその者は見習いだったのでしょう?彼にそこまで求めるのは酷なのではないかと。むしろ生きて情報を伝えてくれたことを褒めるべきでは?」
幹部たちの意見にヒュームはあごに手を当てて考える仕草をする。
ヒュームは普段の言動から、一見粗暴な印象を受ける場合もあるが、それはあくまで言動だけで実際はとても思慮深く、もちろん「九鬼家のためならば命を惜しむな!」などという玉砕主義とはまったくの無縁であり、故に件の新人従者に対してもヒュームは正当な評価を下した。
「その新人が生き残ったのはただの運のよさのようだが、それでも私怨に囚われず、生き残り我々に貴重な情報をもたらした功は大きい。」
その者の情報が無ければ事態に気づくのがもっと遅れたかもしれんしな、とヒュームは続ける。
「クラウディア。その者の名前は?」
「名前は武田小十郎。揚羽様の遊び相手を務めていた少年でございます。」
「おお、やつか。」
クラウディオの言葉にヒュームは口の端を歪める。
『武田小十郎』。彼は九鬼家の長女である『九鬼揚羽』の傍役として幼いころより仕えていたが、本格的に九鬼家の従者となるため、修業を開始したばかりである。今回、彼が上海で諜報部と一緒にいたのもその一環であったのだ。
そんな彼は、その揚羽に対する信仰ともいうべき凄まじい忠義心の持ち主として九鬼の従者たちに知られており、失敗は多いがその実直な性格のためか、彼を嫌うものは少ない。
特に彼ら序列一桁台の面々にとっては、未熟だが憎めない彼をできの悪い息子や弟のように思っていた。
「ふむ。ならばやつには今回の褒美として俺直々に鍛えてやるとしよう。」
「ヒューム殿がですか?」
「うむ。やつも揚羽様の役に立てるようになるなら喜んでうけるだろう。まあ、ちと厳しくなるかも知れんが、やつは根性だけが取り柄だ。どれだけ成長できるかは知らんが、やつなら最後までやり遂げるだろう。」
ちなみにこのヒュームのいう、「ちと厳しくなる」という言葉の「厳しくなる」度合いというのは、普通の武道家が裸足で逃げ出すほどの厳しさであるが、それに耐えるとヒュームが言葉にしているということは小十郎の根性だけはヒュームは買っているということである。
ちなみにこの「ヒュームのちと厳しい修業」を受けた小十郎は、原作では序列999だったその地位は序列200台になるまで成長したが、それでもところどころで大きなポカをやる性質はなおらず、その度に揚羽の拳を食らうようになるのは完全なる余談である。
「小十郎の件はそのようにしろ。お前らもそれでいいな!」
『はっ!』
ヒュームの声に幹部の面々が答える。元々小十郎に対し否定的な意見をだした人物も本気でそういったわけではないのでこの処置には誰も文句をいわなかった。・・・小十郎がヒュームのしごきに耐えられるかどうか心配する者はいたが。
「それでは話を戻すぞ。クラウディオ。」
「はい。どうやらやつらの行動は九鬼家への情報の伝達を遅らせることにあったようで、この他にも様々な手をうっているようです。それは手元にある資料を見てもらえればわかると思います。」
クラウディオの言葉に、面々は手元の資料に視線を落とす。そこにあるのは今回のテロを引き起こした者たちが自分たちの行動を遅らせるために打った手の数々。
敵ながら見事といえる策の数々だとヒュームは思う。これなら我々の元にテロの情報が来るのが遅れたのがわかる。
「このせいで我々の行動は後手に回ることになりましたが、このおかげでわかったことが二つあります。」
「それは?」
「一つはこのテロリストが所属する組織が、思いのほか規模が大きく、影響力があるということ。これは我々九鬼の行動をここまで抑え込んだその事実から推測できます。」
九鬼家のことを知らない者からすれば彼らが自分たちの力を過信しているような言い方にも聞こえるが、彼らの力量からすれば、この言葉は限りなく正しい。
「そして二つ目は、英雄様の少なくとも生存は確実ということです。それは「あまりにも九鬼家を警戒したこの策の数々から推測できる・・か?」その通りです。」
言葉を途中でヒュームに遮られたクラウディオは、しかしそれに怒ったようなそぶりは見せず、称賛するような目でヒュームを見ていた。
それでこそ、自らの上位に立つ者だと。
「ヒューム殿の言った通り、この九鬼家への対策の数々。もし英雄様の身を害するのが目的ならこのような面倒な真似をせず、直接刺客なり、ホテルごとダイナマイトで葬るなどしたほうが早いでしょう。これほどの組織の人間ならば、私たちに足取りを掴ませないよう、手掛かりを消すこともできるでしょうし。これらをせず、わざわざこのような真似をしたということは彼らの目的は。」
「英雄様の身柄の確保。そして九鬼家へのなんらかの交渉。といったところか?」
「おそらくは・・。」
そういってクラウディオは自らの仕事は終わったとばかりに席に着く。
ヒュームはため息をつき、足を組んで頬杖をつく。しばし目を瞑り思考する。どう行動したらこの事件を効率的、そして英雄を傷つけずに解決するにはどうすればいいのかを。そして再び自らの眼を開けると、目の前にいる自分の部下たちに宣言する。
「今回は、俺自らが乗り込む。」
『なっ!?』
その場にいた面々は驚愕する。
『ヒューム・ヘルシング』
前述したように、この男は武神、川神鉄心と同格として知られている男であり、九鬼家の最高戦力でもある。武の象徴といってもいい存在。その男が自ら動くというのだから。
ヒュームが自ら英雄を助けに行こうとしてるのには理由があった。
もちろん、彼が九鬼家に仕える身というのもあるが、彼自身英雄のことをかっているというのもある。
英雄の幼いながら確固とした王としての信念と、そのカリスマ性は、彼の弟子である揚羽とは、また別の輝きを彼に魅せていた。
「それでは他のものは準備を「それは少し待ってくれねえか。」なに?」
その声は彼らが会議に使っているこの部屋の扉の向こうから聞こえた。
ギィィ
音を立てて扉が開く。
『!?!』
「少し待ってくれないかといったのだが。」
扉の向こうにいたのは一人の初老の男。頭に白い物が混じっているが、いまだ若々しいその姿は、しかし、常人には纏えることができない覇気につつまれている。それは武道を極めた達人でも纏えない、産まれながらにして人の上に立つことを義務付けられたものだけが纏えるものだった。この男の名は、
『み、帝様っ!?』
「そう固くなるんじゃねえよ。楽にしていい。」
そう、この男の名は『九鬼帝』。王の一族、九鬼家の現党首であり、彼ら九鬼家従者たちの主である。
その男の登場に思わず狼狽する面々であったが、それにかまわず、ヒュームは自らの主に対応する。
「それでさっきの言葉はどういう意味でしょう帝様」
「今回はお前がでなくても問題ない。俺が外部の人間に依頼した」
ざわっ・・・。
帝の言葉に幹部たちがざわめくが、ヒュームはそれを無視して帝を見つめる。いや、睨みつけてるといったほうがいいのだろうか。
「・・・あなたがそう決めたなら我々も従いますが、その依頼した人間は私も納得できるような人物なのでしょうな?」
それもそうだろう。九鬼英雄の救出。それは絶対に成功させなければならない。そのような任務に実力のないものをつけるのは、彼のプライドからも、彼の立場からも許すわけにはいかないのだから。
そのヒュームの心配を帝は鼻で笑う。
「問題ない。その男は貴様もよく知っている人物だからな」
「なに・・・?」
「篠宮奉山。鬼神と呼ばれた男だよ」
『っ!?』
「ほう・・・」
帝の言葉に幹部たちは驚く。ヒュームも一瞬目を瞠るが、今は面白そうなものを見つけたような顔をしている。
『篠宮奉山』。「鬼神」の名で裏世界で知られるその男の名は、表世界ではあまり知られていないが、精鋭中の精鋭である彼らは知っていた。
その武力は自らの長、ヒューム・ヘルシングに匹敵するということも・・・・。
「ふむ。奉山のやつがでるなら確かに私の出番はありませんな。しかしよくやつに頼めましたな?」
「なに、ちょうどよく彼も家族と一緒に上海に旅行に来ているのをメールで知ってな?だから彼に頼んでみたら先程OKをもらえたのだ」
実は帝はヒュームを通じて過去に奉山に会っており、そのときに意外に馬が合い、友人関係になったのだった。・・・・おそらく四季がこの場にいたのなら遠い目をしてこういうだろう。「もう父さんの無茶苦茶ぶりには慣れた。」と・・・・。
「それに彼の息子もいるようなのでな。大丈夫だろう」
「奉山の息子というと、確か、四季とかいいましたか?」
「ああ。なんでも教え込んでいる鬼道流もかなりの練度になっており、すでに小学生の身で川神院の修行僧を圧倒する実力をつけているとか」
「ほう・・。さすがは奉山の息子ですな。・・・もし機会があったら揚羽様との模擬戦を頼んでみるか」
「ほう、それは見物だな」
「でしょう?」
二人はそう笑いながら部屋をでていった。その場にいた面々も自らの持ち場に戻って行った。
自分のできることを成すために・・・・・。
サイド:四季
ぞわっ!?
な、なんだ!?今なんか寒気が。具体的には望んでもないのに強敵との対決をしなくちゃならなくなってしまったような、そんな感じがしたぞ!?
「よそ見とは余裕ですねぇ?」
あ、やべ。
俺の首を刈り取らんとする死神の鎌が、凄まじい勢いでやってくる。
ブォォオオン!!
「そおおい!!」
俺はそれをマトリックスの要領で避け、そのまま床に手をつき、体を回転させながら目の前の敵、(ジョン・ドゥっていったけ?)それに遠心力のついた変則的な回転蹴りをぶちかます。
「ちいッ!」
ドッゴゴォォオオン!!
「ぐッうう!?」
ジョン・ドゥは腕を交差し、空手の十字受けの要領でガードしたが、衝撃を受け流しきれなかったようで部屋の壁ごと吹き飛んでいった。
・・手応えはあったが・・・・。
「やったのか・・。」
と今は他の人と一緒に俺らの戦いを見ていた、額にバッテンの傷がある男の子が、と呟く。
って、バカやめろ。それは、
ガラガラガラ
「ふう・・。やれやれ、凄い威力でしたねぇ・・。私でなければ今の一撃で終わってましたよ。一張羅が台無しだ。」
ああ・・。やっぱりフラグだったか・・。
壁の向こうから現れるジョン・ドゥ。
その様子から見るにダメージはほとんどとおっていないようだ。
今の一撃は致命傷にはならないものの、かなりのダメージが期待できる手応えだったはずだったんだが・・・。
それなのに、やつにはダメージがとおった様子がない。
まるでダメージをよそに流しているような。
(ん?よそに・・流す・・?)
・・まさか。
ある一つの考えがうかんだ俺は手元に気を集中させ、ジョン・ドゥにむけて放つ。
俺の手から放たれた気弾は、複数の小さな弾に分裂し、散弾銃のようにジョン・ドゥに襲いかかる。
【鬼道流 魔弾・鬼礫】。
鬼道流の基本技である「魔弾」の応用技である。
「っ!? ちいっ!」
ジョン・ドゥはそれらを避けようとせずに、その場で受け止めた。
ズドドドド!
気で構成された弾がいくつもやつにぶち当たる。
しかし、
「数の多さには驚きましたが、無駄だとわからないんですかねぇ。」
やはり無傷。
しかし、今のを観察したことでやっとわかった。やつの技のカラクリが。
「ふう・・・・。」
俺はいつもと違う行動をとる。
拳を下ろし、その場で跳ねる。
リズムをとるように、トーン、トーンと。
「?いったいなんの、っ!?」
ジョン・ドゥの疑問の声は、自らの驚愕によって止まる。
何故なら気づいたら四季が目の前に迫っていたのだから。
「くっ!?」
今までのスピードとは明らかに違うその速度に驚いたジョン・ドゥであったが、避けられないと理解したその攻撃を受け止めるために腰を落としてむかいうつ。
それは自らの技術に絶対の信頼を持っているものだからできる行動だった。
それに速いといっても、四季の動きは直線的でよけきれないものの、予測できないものではなかった。
なのでジョン・ドウはいつもと同じ行動にでたのだ。
それが四季の狙いとも知らずに・・・・。
四季の拳がジョン・ドウの顔面に迫る。予想通りとジョン・ドゥは技を発動させたが、
「なっ、なに!?」
その拳はジョン・ドゥを通り過ぎた。そのまま四季は床に手をつき、体を捻ると、そのまま蹴りでジョン・ドゥの顎をかちあげる。
「がッ!?!」
突然の不意打ちに技が発動できなかったジョン・ドゥの体は、そのまま上に跳ね上がる。
それを四季も追う。逃がしはしないと、壁を気を纏った足で駆け上がり、ジョン・ドゥの目の前に躍り出る。
「これでいい。ここでなら――――――あんたの技も使えない。」
「っ!?貴様まさか!!」
ジョン・ドゥは驚愕する。まさか、自分の技を見破ったというのか。自らの半分も生きてないような、こんな小僧が!?
「いくぞ、鬼道流室内戦技。」
―――――――――狩り鬼。
ここで皆さんに質問だが、「跳弾」というものをご存じだろうか。
これは銃を使う戦闘技術の一つで、要は障害物を利用し銃弾を跳ねさせ、威力を増した攻撃を、相手の不意を突く一撃をくらわせるというものである。
今回四季が使用した技。【鬼道流室内戦技 狩り鬼】。これは簡単にいえばその跳弾と同じ理論でできた技である。
想定された戦場は今回のような四方が壁に囲まれた空間。つまり「室内戦技」という名の通り、建物のなかでこそ威力の発揮する技であり、今回は、まさにこの技を使うのにぴったりの状況であった。
壁という壁を足場に利用し、反動を利用し、敵を打ち取らんとするその様は歴戦の狩人のよう。
故に、この技は「狩り鬼」と呼ばれるのだ。
狩人となった四季が、空中で無防備を晒している獲物に狙いを定める。
ドドドドドドドド!
「ぐがッあ、があああああ!!!」
力の逃がしどころのない空中。そこでうける四季の連撃にジョン・ドウはなすすべがない。
壁から壁へと飛び移り威力を増していく四季の一撃は激しさを増していき、そして
「はああああああッッッ!!!」
ドゴッオォォォン!!
床にたたきつけた。
そして戦いは決着した。
☆ ☆
「どうし・・・て、気づいたの・ですか?」
床にたたきつけられ息も絶え絶えになっているジョン・ドウが同じく息切れをしている俺に話しかける。あの技、使い時が限定されてる癖に体力使うんだよなあ。
ていうか、あんだけ痛めつけたのにまだ話す体力があるとか。どんだけタフなんだこいつ。・・・まあ、いいが。
俺はジョン・ドウの問いに答える。
「初めは硬気功を使用しているのかと思ったんだが、それにしてもダメージが無さ過ぎる。通常硬気功というものは体を気の力によって鎧のようにするもので、内部に響く衝撃までは完全には無効にすることはできないはずだからな。そこで俺は思ったんだ。まるでダメージをよそに流しているようだと。」
「・・なるほど。」
「そこで試しにあの気弾を打った。」
「あれはあなたの推測を確かめるためだったのだすか。」
「ああ。結果は俺の推測通りだった。――――――――――お前の技の正体。それは相手からうけた衝撃を自らの身に纏った気の膜で衝撃を地面に逃がしていた。違うか?」
「――――――ふう・・。その通りです。」
鬼礫を放ったときに見稽古で観察したら、やつを、とりまく気の流れが下にむかっていることがわかった。
そしてやつの足に接している地面には、戦闘中には気づかなかったが、大きなひび割れできていた。これは地面に衝撃を流した結果であると推察できる。
つまりは体を覆っている気の膜を利用し、衝撃を地面に逃がす。飛雷針と同じようなことをしたのである。
(しかし、解説しといてなんだが、とんでもないことするな、こいつは。)
気の膜を利用し、衝撃を地面に逃がす。いうのは簡単だが、恐らくとんでもなく精密な気のコントロールを要する技術のはずだ。
少なくとも、気のコントロールだけならこいつは川神院の師範代、釈迦堂さんたちよりも上だろう。
「だがその技には弱点、いや条件があった。恐らくその技は地面に接してなければ。そして動きながらでは発動できないのではないか?」
「ええ。その通りですよ。」
ジョン・ドゥも、この後に及んで隠すつもりはないのか、俺の言葉に肯定する。
「地面に接してなければ発動できない」というのは、やつが攻撃をその場を動かずうけとめようとしていたことから推察できた。
やつは避けれる攻撃は全て避けていた。俺の見る限り、よけれない攻撃だけそのままうけていたように思えた。
もし、動きながら発動できるなら、わざわざ攻撃を避ける必要はなく、そのまま攻撃を気にせず突っ込んでくればいい。なのに回避行動をとる必要があったということは、回避しながらでは技を発動できないということである。
それにやつを壁にむかって吹き飛ばした時、やつはこういった。『すごい威力』と。
やつは衝撃を地面に流すことができる。それはつまり攻撃の威力を流すということであり、威力を知ることができるわけがない。
あの時、こいつは衝撃を流しきれなかったことになる。つまり、
「お前、壁に吹き飛ばした時―――――やせ我慢してたろ?」
「あ、ばれました?」
やっぱり。まったくインテリぶっといて根性あんなこいつ。まあ、気での身体強化もしていたはずだから、そう俺が呆れていると、
「さて、回復もできましたし、そろそろお暇しますか。」
「なに・・?」
次の瞬間、倒れていたはずのジョン・ドゥの蹴りが俺に迫る。
「くッ!?」
俺はかろうじてそれを受け流し、ジョン・ドゥから距離をとる。
そうしてジョン・ドゥは幽鬼のようにゆらりと立ちあがる。
今は体の調子を確かめるために体のあちこちを動かしている。
「おいおい、あれだけくらってまだ動けんのかよ。どんだけタフなんだよ。」
「いやあ、さすがにまずかったですがね。あなたと話している最中に気で回復を図っていただけのことですよ。」
うわあ。俺超うかつじゃん。敵が倒れても警戒して気絶くらいさせろよ俺。
せめて気の動きくらい探っとけばよかった。
「それで、お前はまだあそこの少年の身柄を狙うのか?」
そういって俺が指差したのは額に☓印のある少年。俺たちの注意が自分にむいても、堂々とそこ立っている。
むしろ、護衛の給仕さんのほうが狼狽している。少年を守るかのように自分の背に隠しこちらを、正しくはジョン・ドゥのほうを睨みつけている。
その光景を見ながらジョン・ドゥは苦笑する。
「いえいえ。回復したといっても全快ではありませんからねえ。せいぜい40%といったところですか。これではあの護衛の方と、いまだ余力を残しているあなたを相手どるのはきついですからねぇ。―――――――――・・・ここはひかせてもらいますよ?」
「やらせるとでも?」
俺はいつでも動くことができるように警戒する
「べつにあなたの許可は求めてませんから。ああ、ところでここを私たちが爆破したのは覚えてますか?」
「それがな、っまさかてめえ!?」
「それではさようなら。」
そういって、ジョン・ドゥが手に持っているスイッチを押した。
ドグォォォォン!!!!
今までで一番の衝撃音が響き渡る。ホテル全体が揺れて、天上の装飾が地面に落ちる。
「くッ!?」
「大丈夫ですか英雄様!!」
「これはまずいわね。」
彼らの慌てる声に一瞬ジョン・ドゥから目をそらしてしまった。そして目線を戻したら、
「――ッ!しまった!!」
やつはすでに消えていた。どうやら逃げられてしまったらしい。
ドドドドドドドドド
ホテルの揺れが激しくなってきた。
しかたない。俺は部屋に残っていた客をつれてホテルから脱出した。ホテルの壁をぶちぬいて。・・・まあ、人命のためだ。それにどうせ壊れるんだし、ホテル側には目を瞑ってもらおう・・。
(しかし、あいつはいったい・・。)
あいつ、ジョン・ドゥは紛れもなく本物の腕をもった男だった。川神院でもやっていけるほどに。
あれほどの腕をもった武術家が、なぜテロなんて真似をしたんだろう。
(今回の出来事、テロに詳しいわけではないが、ただのテロリストにできることじゃないし、ましてや、部下を連れているとはいえ、ただの一個人が実行できるものではないはず。つまりは、あいつの所属している組織はただのテロ組織ではないはずだ。・・もしかしたら、あいつの目的自体が組織の目的と一致しているのかもしれないな・・。)
俺はこの時は思いもよらなかった。
ジョン・ドゥ。やつの所属する組織と、将来、敵対することになるとは・・。
(まあ、こんなこと俺が考えても仕方ない・・)
今は、初めての実践で生き残ったことに喜ぶことにした・・・・・・。
ちなみに俺を迎えに来た父さんが、救出した客、特に給仕さん(あずみ)と金髪の女性(エリカ)がものすごい警戒していたのは、割とどうでもいい話である。
「どうでもよくないわよ!?」
「父さん、うるさい。」
「四季ちゃん、ひどくない!?」
ちなみに☓印の少年は、全く動じず、興味深げに父さんに話しかけていた。
大物だなあ、こいつ。
まあ、感きわまって父さんが少年に抱きつこうとしたが、それはさすがに給仕のお姉さんが吹き飛ばしていた。・・・まあ、父さんだし大丈夫だろ。
今はそれどころじゃないしなあ。とりあえず、
「ふむ、貴様が奉山の息子か。どうやら母親似のようだが、その年で大した練度だ。さすがは奉山の息子といったところか」
「フハハハハ。確かに。ぜひ、九鬼に欲しい人材だな!!」
目の前にいる、金髪で巨体のおっさんと、少年と同じ、額に☓印が入ったおっさん。
この、無駄にオーラのでてる二人のおっさんが俺の目の前にいた。
あんたら・・・・どなたさん?