第十四話 VS九鬼揚羽。未来を賭けた決闘!?ですか。(前編)
ここは九鬼家の従者たちが日々鍛錬に勤しむ場。屋敷の外にあるこの鍛錬場に、今二人の人物が対峙していた。
1人は九鬼家長女、『九鬼揚羽』。武神をして自らのライバルの1人といわしめた、最強執事『ヒューム・ヘルシング』の愛弟子。その実力は恐らく武神の孫である川神百代に匹敵するであろう。その彼女は目をいつになく輝かせ、まるで獲物を狙う肉食獣のような目で目の前の相手を見ている。…鼻息も荒く、少し怖い…。
1人は我らがオリ主、『篠宮四季』。彼の紹介は読者諸君はすでに知っているだろうから省くとするが、その彼はいつになく真剣な顔で相手を見ていた。よく耳を澄ませると、小さい声で、「勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ…」と繰り返している。
彼がここまで真剣なのはとある理由がある。それを知るには前話の最後まで話を戻さなければならない…。
サイド:四季
「え、えと…今なんて?…」
「うむ。我の夫にならんかといったのだが?」
「…あー。夫っていうのはあれですよね。配偶者としての夫ですよね?」
「?その夫意外なにがあるのだ?」
ですよねー。俺もその夫意外知らないし。
どうやら聞き間違いではなかったらしい。いまだに頭が混乱していたが、とりあえずそんな発言が飛び出した理由を聞いてみた。
「あのー。俺ってあなたと初対面ですよね?」
「うむ、そうだな。」
「だったらなんで夫なんて…」
「我の一目ぼれだ!!」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
ええ…。これといった理由ねえじゃんか…。
まあ初対面なんだからあるほうがおかしいんだけどさあ。
そんな俺を揚羽さんは気にした様子がない。
「で、返事はどうなのだ」
揚羽さんが鼻息荒くして俺に詰め寄る。ちょッ、顔近いです!?
俺は揚羽さんから距離をとろうとするが、
ガシッ!
「どこに行くのだ?」
あ。そういえば揚羽さんに手を掴まれていたんだっけ。これじゃあ距離がとれない。
「いや、ちょっと近いから距離をとろうと…」
俺がそういうと揚羽さんが涙目になる。えッ!?俺なんか悪いことした?
「そ、そんなに我のことが嫌いか…?」
「い、いやなんでそういうことになるんですか!?」
「だって、距離をとろうとした…」
ああ、そういうことか…。
「揚羽さんの傍にいるのが嫌だったわけじゃないですよ?ただちょっと緊張してしまって」
「緊張?」
涙目で首を傾げる揚羽さん。ちょっとかわいいな…。
その揚羽さんの疑問符に俺は頬を掻きながら答える。これから話すことが少しはずかしいからだ。
「ええ。ただでさえ女の子と密着状態は緊張するのに、それが揚羽さんみたいな美人ならなおさらですよ」
「…え?」
揚羽さんは俺の言葉に驚いたようで目を見開く。そんな変なこといったかな?結構本音なんだけど。
なにやら後ろで帝さんたちが、「お前の息子はいつもああなのか?」「そうなのよ〜。無意識で女の子をひっかけるから困っちゃって。父親としては喜んでいいのやら、悲しんでいいのやら」「ふむ。貴様も大変だな」などというような会話をしているがなんのこっちゃ?
「…………………。」
揚羽さんを見ると、黙って下に俯いていた。え?ちょっと目を離したすきになにがあったの?(ちなみにこの時揚羽さんの手はがっちりと俺の手を掴んだまま)
「えっと揚羽さん…?」
気になったのでおそるおそる話しかけてみたら…
ガバッ!
「むぐッ!?」
「お前はなんていい男なんだ四季よーーーーーーー!!!」
急に揚羽さんに抱きしめられた。俺の口元を揚羽さんの胸がふさぐ。やわらか…ってやばくねこの状況!?息できねえし揚羽さんの家族が見てるんだぞ!?
しかしそんな俺の焦りもなにやら興奮している揚羽さんには届かない。
「決めた、決めたぞ、貴様は今日から我の婿決定だ!異論は認めん!!」
「むー!むー!」
(いや、認めろよ。)
俺は心の中で揚羽さんに突っ込んだ。口に出して突っ込みたかったが、揚羽さんのホールドから抜け出せない。っていうか力強いなこの人!俺結構本気でもがいてんだけど!?まあ怪我させるわけにはいかないから気は使ってないが…。
そんな俺の様子に揚羽さんはやっと気づいたようだ。
「おっとすまぬ」
揚羽さんの体から俺が離れる。
「―――ブハッ!ひ、ひどいですよ揚羽さん!?」
危うく窒息するところだった。…まあ少しおいしい思いもさせてもらったが。
俺が息を整えていると、「では行こうか。」と俺を横抱きに抱えこんだ。…あれ?
「あ、あのー揚羽さん?」
「む?どうした四季よ」
「俺はなんであなたに抱えられているのでしょうか?」
「そのほうが四季を運ぶのに手っ取り早いからな」
運ぶ?俺を?
「えっと…、なんで?」
「ふむ。暴れられたら困るからな」
「…ちなみにどこに運ぶ気ですか?」
「我の寝室だが?」
「小学生になにする気だあんた!?」
へ、変態だ!変態がいるぞ!?
その揚羽さんの言葉にはさすがに動揺したのか、部屋にいる皆がざわめいた。っていうか見てんなら助けろよおい!?
揚羽さんは俺の言葉をフッと鼻で笑うと、俺に問いかけてきた。
「四季よ。こんな言葉を知っているか?―――――――――――――愛に年齢は関係ないと」
「いい言葉だけど使い方間違ってるだろそれ!?」
(まずいまずいまずいこれはまずい!?)
このままでは食われる(性的に)と思い、俺はなりふりかまわず気を使って脱出を試みようとした。その時、
「ダメーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
小雪が揚羽さんの腕に掴みかかった。
「なっ!?」
とっさのことで反応できなかったのだろう。揚羽さんは俺から手を離した。
「へぶし!?」
突然下ろされたことで俺は床に顔面から落ちることになってしまった。う〜痛い…。
「四季を連れってちゃだめ〜!!」
「い、いきなりなにをする貴様!というか誰だ貴様!?」
あー。そういえば自己紹介してなかったけ?
揚羽さんの言葉に小雪は胸を張って答える。
「僕は篠宮小雪。四季の義妹だよ!」
心なしか「義妹ぎまい」という言葉を強調していた気がしたが…。気のせいだろうか。
「義妹…とな?」
揚羽さんが俺の顔をちらッと見てきたので俺は苦笑しながら答える。
「まあ、いろいろとわけありでして」
揚羽さんは俺の言葉に一瞬眉を顰めたが、結局は「そうか」と返しただけだった。どうやら詮索はしないでくれるようだ。
(こういう配慮はできるんだ…。さすがに九鬼家の長女ってところか?)
俺は揚羽さんに変な人くらいしかイメージがなかったが少し見直した。
「それでなぜあんな真似をしたのだ!せっかく我の部屋で四季をおそ、げふんげふんッ!四季と愛し合おうと思ったのに。」
そしてすぐに評価を元の評価より下げた。
本物の変態だこの人…。
「四季は僕のお婿さんになるんだもん。君なんかにあげないやい!」
「お前はお前でなにをいってるんだ、おい!?」
お前そんなこと思ってたのか!?というか俺に拒否権無いのか?
そんな俺を放って二人は睨みあいを続けている。
「四季が貴様の婿だと?ふん、なにをいうかと思えば」
揚羽さんは小雪の体を見てせせら笑う。
「お主みたいなちんちくりんでわ四季を満足させることなどできぬわ!!」
「求めてねえし、そんなこと…。」
ていうかあんたどう見ても中学生以上だろ。大人げなくね?
揚羽さんのその言葉に、しかし小雪は答えた様子もなく鼻で笑う。
「僕はまだ小学生だから成長するもん!四季を満足させるために必要なのは体じゃなくて若さだよ。お・ば・さ・ん?」
「だからお前も何いってんのおおおおお!?!?」
というか君、そんなキャラじゃなかったでしょ!?
揚羽さんはそれなりに小雪の発言にいらついたようで額に青筋を浮かべている。
小雪は口元に笑みを浮かべているが目は笑っていない。
「「………………………………。」」
二人は無言で先程の比ではないほどの殺気を放ちながら睨みあう。
どうすっかなこれ…。俺が目の前の二人をどうなだめようか考えていると、
「いい加減にせんかーーーーーーーーーーーーー!!(しなさーーーーーーーーーーーーい!!)」
「「!?」」
「どわっ!?」
帝さんと父さんの大声が響き渡った。っていうか声でけえ…。
揚羽さんと小雪はそのまま、帝さんと父さんに説教されることになった。
曰く、「自分の気持ちを押し付けるな」、曰く「本当に好きなら本人の意見も尊重しろ」など。これでなんとか助かったかなと思ったが、二人ともなかなか納得しようとせず、説教している二人に文句をいっている。さすがの二人もこれには困っているようだ。
どうするのだろうかと観察していると、ふと帝さんと目があった。
「…(にやり)」
なにか嫌な予感がする笑みを帝さんが浮かべていた…。
そうして俺の嫌な予感は的中することになる。
具体的に言うと、あの後帝さんが二人にこう提案したのだ。「揚羽と決闘して揚羽が勝ったら四季は揚羽の婿になり、四季が勝ったらこの話は無かったことにする」と。
もちろん俺は反対しようとしたのだが、俺が反対する前に揚羽さんがそれを喜々として承諾し、小雪も「四季は負けないから大丈夫!」とその提案を受けてしまった。…信頼してくれんのはありがたいけど、俺の意見も通してくれよ小雪さん…。
それで断るに断れず、話は最初の場面に戻るわけである。
俺は目の前に仁王立ちしている揚羽さんをみる。
「…………(ギラギラギラ」
目がものっそいギラギラしていた。
俺は確信した。…この勝負に勝たなければ食われるとっ!!(性的な意味で)
俺と揚羽さんは鍛練場の中心でお互いむかいあう。
審判はヒュームさんがやってくれるようだ。
「それではこれより篠宮四季と九鬼揚羽の決闘を行う。両者前へ!」
「はい!」「うむ!」
「それでは始めい!!」
そうして俺の未来を賭けた戦いが始まった…。